東南アジアに大きな注目が集まっている。 2023年を通して、多くのプレステージ美容ブランドやラグジュアリー美容ブランドが、さらなる堅実な成長機会を得るために東南アジアに目を向けている。東南アジアには、インドネシア、フィリ […]
東南アジアに大きな注目が集まっている。
2023年を通して、多くのプレステージ美容ブランドやラグジュアリー美容ブランドが、さらなる堅実な成長機会を得るために東南アジアに目を向けている。東南アジアには、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムを含む11カ国が含まれる。すでに多数のプレステージブランドやラグジュアリーブランドが東南アジアに進出しているが、大規模な投資を行っているところはほとんどない。だがそれは変わりつつあるようだ。
著しい成長を遂げているASEAN市場
8月の第4四半期決算説明会で、コティ(Coty)の幹部は、4月にラザダ(Lazada)傘下のeコマースプラットフォームであるラズモール(LazMall)にマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)のデジタル旗艦店をオープンし、成功したと強調した。ラズモールは東南アジア地域の「非常に有望な」大手eコマース小売業者で、9000万人の消費者がおり、マーク・ジェイコブスは4月に同サイトでベストセラー1位の香水となった。韓国のラグジュアリーブランド、ソルファス(Sulwhasoo)も4月にラズモールと提携、ファーストケア アクティベイティング セラムVI(First Care Activating Serum VI)を発売している。
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ソルファスはローカライズされた独自のデジタルコンテンツとショッピング体験を提供し、グローバルなeコマース事業を拡大している。同ブランドはシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアを含むASEAN主要5カ国で取り扱いがあり、各国のデパートやブティック、eコマースプラットフォームなど、さまざまなチャネルを通じて販売されている。
「ASEAN市場は著しい成長を遂げており、その人口の多さはビジネス拡大の大きな可能性を秘めている」と、ソルファスのグローバルコマース部門シニアバイスプレジデントのハンスク・イー氏は語る。「過去3年間、ソルファスは着実に2桁成長を達成している。特にeコマース事業の成長が顕著で、ラザダやショッピー(Shopee)のような大手eテイラーとの強力なパートナーシップのおかげで、年平均成長率は3桁を達成している」。
ソルファスは「世界的なアイコニック・ブランド」になることを目指しており、ASEAN市場は成長のための継続的な焦点のひとつになるだろう、と同氏は述べた。
東南アジアが注目される理由
ここ数カ月、P&G、ヘアケアのアヴェダ(Aveda)、アルマーニ・ビューティ(Armani Beauty)、ランコム(Lancôme)といったブランドや企業が、この地域でさまざまな投資を行っている。1年前には、ユニリーバ(Unilever)のベンチャーキャピタル部門であるユニリーバ・ベンチャーズ(Unilever Ventures)が東南アジアで初の投資を行い、インドネシアのビーガン美容ブランドエスカ(Esqa)の600万ドル(約9億円)のシリーズAを主導している。
東南アジアがプレステージおよびラグジュアリー美容業界から注目され始めているのには、いくつかの理由がある。日本、韓国、中国市場は成熟し、大きな市場シェアを獲得できるような傑出した機会が少なくなっている。その一方で、東南アジアでは労働人口が増え、世帯所得も上昇しており、今後数年間で消費が増加することを示している。世界経済フォーラムの東南アジア諸国連合(ASEAN)に関する報告書によると、東南アジアでは2030年までに約1億4000万人の消費者が新たに増えるとされており、これは世界の消費者の16%に相当する。政府間組織であるASEANは10の加盟国で構成されている。
「これらの市場は2桁成長に直面する可能性が高い。したがって大きな成長を目指しているなら、東南アジアはかなりエキサイティングな市場となる」と述べたのは、経営コンサルタント会社カーニー(Kearney)のパートナー、シッダールト・パタック氏だ。「市場はまだ初期段階にあるため、今後さらに多くの企業が参入するだろう。したがって、数年後にどこがリーダーになるのかは、現時点ではまだわからない」。
ソーシャルメディアやeコマースも大きなチャンス
経済成長もさることながら、eコマースの発達もまた、機会が急成長している分野である。カーニーでは、インターネットやソーシャルメディアへのアクセスが広く普及しているにもかかわらず、東南アジアにおけるeコマースの普及率は15~20%だと推定している。比較をすると、米国はeコマースの普及率が16%前後で推移しており、中国は約47%の普及率となっている。東南アジアでの普及率が低い理由のひとつは、オンラインでの購入に慣れている洗練された美容消費者が少ないことだ。Meta(メタ)とベイン・アンド・カンパニー(Bain & Co.)が9月に発表した東南アジアに関するレポートでは、6カ国の1万6000人を対象に調査を行った結果、現地のデジタル消費者の60%が、オンラインショッピングを始める際に何を購入したいのかわかっていないことが判明した。カーニーの調査によると、同地域におけるeコマースの普及率は今後5年間で30~50%に成長すると予想されている。
ソーシャルメディアとソーシャルコマースも、東南アジアにとって今後数年間の大きなチャンスだ。インスタグラムとFacebookは、メッセージングアプリのLINEと同様に強い存在感を示している。TikTokは6月に東南アジアへの大規模な投資を発表、12万社以上の中小企業のオンラインビジネスへの移行とデジタル経済への参加の支援を目的とした1220万ドル(約18.3億円)の投資を行うと述べた。
「東南アジア全域で毎月3億2500万人以上がTikTokを訪れ、1500万社の企業がこのプラットフォームを利用している」と、TikTokのCEOであるショウ・チュウ氏は6月のプレスリリースで述べている。「我々がこの地域や世界の経済的機会、教育、コミュニティ形成の拡大に果たしてきた役割は計り知れない。我々は、個人やコミュニティ、ビジネスの成長と繁栄を引き続き支援していくことに取り組んでいく」。
東南アジアの美容市場は今後10年間で3倍に
セフォラ(Sephora)の東南アジア・オセアニア・韓国担当マネージングディレクター、ジェニー・チア氏いわく、安定した経済成長、消費支出の増加、洗練された見識ある美容消費者、豊かな中流階級の増加といった外部のマクロトレンドについて、同社は楽観視しているという。セフォラはシンガポール、タイ、インドネシア、マレーシアを含む東南アジア全域に100カ所の販売拠点を持つ。フィリピンでのセフォラの展開はeコマースのみとなっている。
「デジタルとテクノロジー、美容トレンドへの鋭い感覚、比類のないキュレーション機能によって、主要な消費期間中に(東南アジアの)小売(店舗)やオムニチャネルのタッチポイント、ローカライズされた(マーチャンダイジングの)品揃えとマーケティングキャンペーンにおけるセフォラの体験をハイパーパーソナライズする準備ができている」とチア氏は述べた。
カーニーのデータによると、全般的に東南アジアの美容市場は今後10年間で3倍に成長すると予想されており、美容業界にとって未開拓の最大の成長機会のひとつとなっている。
ブランドが直面する6つの課題
多くの機会がある一方で、課題や複雑な問題もかなり存在する。10月に発表されたカーニーとラクサシア(Luxasia)の新たなレポートで、カーニーは、東南アジアでビジネスを構築するにあたってブランドが直面する6つの課題について概説している。ひとつ目はオムニチャネル戦略の確立で、わかりにくい規制の枠組みというふたつ目の別の課題のせいで複雑になっている。3つ目はこの地域の多様性とニュアンスの違いで、それによってブランドはその国独自の嗜好に対応した高度にキュレーションされた製品を販売する必要がある。 4つ目は、この多様性から派生して、効果的な販売戦略とエンゲージメント戦略が11カ国で大きく異なるという点だ。たとえばカーニーのレポートによると、シンガポールでは、購入時に固有の限定ギフトをつけることで平均的な取引の売上を牽引している。一方、フィリピンの消費者は可処分所得が低いため、一回の購入が少ない。そこで小さい製品や無料のギフトが販売を促進する。5つ目の問題はコストのかかる特異なサプライチェーンである。最後に、流通にせよ小売にせよ、適切な地域パートナーを決定するのが難しいという問題がある。
「東南アジアについて考えるとき、多くの企業が勘違いをしてきた。東南アジアや新興アジアを純粋に成長市場として考えることは、要するに『資金を投入し続けよう、そうすればこのまま成長が続き、いつか誰かが儲かるだろう』ということだ」とパタック氏は言う。「それは向かうべき正しい方向だとは思えない。なぜなら、それでは企業が収益性を優先する理由がなくなるからだ」。
その代わりにカーニーでは企業に対し、東南アジアの2、3カ国で大規模な投資を行って規模を確立してから、さらに多くの市場へと進出することを勧めている。
「この戦いで多くの企業が資金を失い、痛手を負うことになるだろう。そして10年後か15年後、いくつかの企業が大きな勝者として台頭し、我々はそうした企業がうまくやったことについて振り返り、議論することになる」とパタック氏は述べている。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: The beauty industry turns its attention to Southeast Asia]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)