「ほとんどのラグジュアリービューティブランドは米国で製造しているため、海外の完成品メーカーに依存していない」と述べているのは、ビークマン1802(Beekman 1802)のCEO、トメイ・トーマス氏だ。「だが、問題は部品だ。中国、韓国、東南アジア全体で部品を見つけるのに苦労している」。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
サプライチェーンの混乱や出荷の遅れ、当日配送の葛藤などロジスティクスの諸問題は、ホリデーショッピングの会話や恋愛関係についてのツイートにまで登場して、我々の集合意識を疲労させている。これはセクシーな話題ではないものの、シームレス(Seamless)、ウーバー(Uber)、インスタカート(Instacart)のようなサービスのおかげで我々の生活はいっそう「今すぐ」指向になっているが、消費者はホリデー向け配送の遅延を見込んでいる。その一方でブランドは(客を)失望させないように奮闘している。
ファッションや家具のような他業界と比較して、ビューティ業界がサプライチェーンサイクルでロジスティクスの困難に見舞われたのはもっと最近になってからのことだった。多くの場合、まずアジア全体で容器やポンプなどの部品の入手に苦労し、それにより製品の完成が妨げられて、納品の遅れにつながっている。他業界では、問題はドレスやベビーベッドなどの完成品の配送に集中しており、何カ月も配送できないという状況になっている。
Advertisement
ビークマン1802のホリデー向け計画と遅延
「ほとんどのラグジュアリービューティブランドは米国で製造しているため、海外の完成品メーカーに依存していない」と述べているのは、ビークマン1802(Beekman 1802)のCEO、トメイ・トーマス氏だ。「だが、問題は部品だ。中国、韓国、東南アジア全体で部品を見つけるのに苦労している」。
トーマス氏によると、同ブランドは包装の部品をアジアから受け取るのに2週間の遅れを考慮していたが、のちには米国の港での船の待機についても対応しなければならなくなった。港での船の待機を含めると、ビークマン1802は4〜7週間の遅延を見越している。トーマス氏はこれは前代未聞の事態だと述べている。もちろん課題はそれだけではない。同社はトラック運転手の不足にも対処しなければならない。これらすべてを考慮すると、同ブランドの平均的な遅延時間は約60日だ。そのために通常のタイムラインより2カ月早く、3月に自社D2CサイトとQVCやアルタビューティ(UltaBeauty)などの小売パートナーのためにホリデー向けの全オーダーを出した。このような計画があっても、ビークマン1802はまだ2〜3週間の遅延を経験しているとトーマス氏は述べている。
欲しい商品が在庫切れだったとき顧客は?
顧客が家族や同僚へのクリスマスプレゼントを考えるとき、トーマス氏が述べたような詳細は気にしないかもしれないが、商品が入手できるかどうかは大いに気になるところである。Bluescoreのブラックフライデーからのデータによると、小売ブランドは、商品が在庫切れだった経験をした購入客の最大で93%を失ったという。ヘルスとビューティ部門に絞ると、購入客は商品の2%で在庫切れを経験し、その結果顧客が67%減少した。目的の商品が入手できなかった顧客が同じブランドのほかの商品に変更することはなかったのである。
リバイブスキンケアの在庫量と注文への対応
ビューティ業界のエグゼクティブらはこの状況に共感している。リバイブスキンケア(RéVive Skincare)のCFO兼COOであるジョン・エルマー氏は、以前、同ブランドの安全在庫量は少なくとも12週間分あり、POSのリードタイムが約22週間であることを確認したと述べていたが、現在ではリードタイムは約42週間に延長されている。以前なら6カ月前に注文されていたリバイブ製品の部品や成分の中には現時点で14カ月前に注文されているものもある。
「(注文から)4カ月後に届く購入にコミットしなければならない。そうしないと、原材料が間に合わなくなるのだ」と同氏は言う。
これは、必然的にビューティブランドにはトレンドや話題の成分をすぐに取り入れる余地がほとんどないということになる。また、在庫を早期に購入すると会社の現金が束縛される点は考慮する価値がある。
エルマー氏は次のように述べている。「これは長期戦であり、財務モデルにも影響する。(会社の)クレジット限度額は3〜4倍になり、それを資本に計上しなければならない。これまでの売上高よりもはるかに多くの現金を手に入れることにコミットしている」。
トーマス氏は、資金を増やすことは困難だったと言うが、「売る商品がないという問題に対処するよりは、ずっとましだった」。
当日配送に力を入れるセフォラやアルタ
セフォラ(Sephora)やアルタビューティ(Ulta Beauty)のような大手小売業者は、とくに物流センターレベルではホリデーショッピングサイクルで果たす役割に自信を持っているが、それでも調整を行っている。セフォラもアルタも顧客を引きつけるため当日配送の競争に参入。これをアマゾン効果と呼ぼう。セフォラは、10月に顧客が選択できる多数のパートナーを介して当日配送を開始すると発表した。注文は市場知識のある店舗ビューティアドバイザーが処理する。アルタビューティは、11月、ドアダッシュ(DoorDash)と契約を結んだ。
セフォラのeコマースシニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーであるキャロリン・ボジャノウスキー氏は、このような即時の配送は顧客の「あらゆる障壁を取り除くものだ」と私に話してくれた。同氏によると、それは顧客が「購入について迷わなくてすむ」と言えるようになることだという。また、こうも述べている。「当日配送のおかげでSephora.comにアクセスすれば、大半の顧客は注文したビューティアイテムを約2時間で手に入れることができるようになった。これこそ究極の贅沢であり、利便性だ」。セフォラによれば、これは同社の顧客からも望まれていることであり、購入客の約半数が好きな配送方法の上位3つのうちに当日配送を挙げているそうだ。
アルタビューティのCOO、キーシャ・スティールマン氏は、当日配送をBOPIS(オンラインで購入して実店舗で製品を受け取ること)とカーブサイドピックアップの延長と見なしている。同社は、パンデミックが始まって以来、顧客にとって重要な役割を果たしているがゆえにBOPISとカーブサイドピックアップの両サービスを精査してきた。
クリックアンドコレクト(オンライン注文、実店舗受け取り)によるビューティとパーソナルケアの購入は、業界における当日配送の長期的な威力を示しているかもしれない。ニールセンIQ(NielsenIQ)によると、昨年は22億ドル(約2482億円)を超え、前年比で48%近くの売上成長を記録した。
「ビューティ小売業者は、売上を獲得して購入客をもっと引きつけるためには、商品をすぐに入手したいという欲求の高まりを利用しなければならない。シームレスなオムニチャネルエクスペリエンスを提供することで、(小売業者は)このホリデーシーズンで勝利を収めることができるだろう」と述べるのは、ニールセンIQのビューティ・パーソナルケア業界担当シニアバイスプレジデントのタラ・ジェームズ・テイラー氏だ。
当日配送サービスがあっても全顧客を満足させられない理由
セフォラには340、アルタビューティには600のブランドが揃っていると言われているが、全品がセフォラやアルタの全店舗で入手できるわけではない。たとえば、シャニ・ダーデン氏のエイジ・デファイング・レチノールセット(Age-Defying Retinol Set)を検索すると、セフォラでは当日配送の対象にはなっていない。また、(私が住むニューヨークのアッパーイーストサイドの近くの)アルタビューティの店舗には、モーフ x ポニーのコンスタレーション・スカイ・リップ・ジェリー・トリオ(Morphe X Pony’s Constellation Sky Lip Gelee Trio)は置いていない。したがって当日配送があっても、このホリデーシーズンにビューティファンを満足させることはできないかもしれない。
とはいえ、当日配送の提供は、リードタイムの延長とともに、購入客を引きつけるための新しいコストになる可能性がある。「消費者のパニック買い、早めのホリデーショッピングと準備、即配達へのニーズなど、実店舗とオンラインで起きている状況を考えると、高まりつつある消費者からのいろいろな要求を満たそうとする小売業者の事業コストは上がるだろう」とジェームズ・テイラー氏は述べている。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Logistics are front-and-center for beauty companies]
PRIYA RAO(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)