実店舗に焦点を定めている企業も増えているなか、インディービューティブランドの多くは、小売業に対して慎重なアプローチを取り、成長の道としてデジタルを選んでいる。そのいくつかの事例と戦略ーー「ゼン・アイ・メット・ユー」「タワー28」「ネオム」を紹介する。
ビューティブランドのグロッシアー(Glossier)が7月上旬、8000万ドル(約88.4億円)のシリーズEを発表したとき、創設者兼CEOのエミリー・ワイス氏はデジタルネイティブの同社が実店舗を展開する計画を共有した(シアトル、ロンドン、ロサンゼルスを予定)。アイウエアのワービー・パーカー(Warby Parker)、また7月初旬に老舗百貨店のノードストローム(Nordstrom)と契約したオンラインショッピングサイトのエイソス(ASOS)のようなデジタル新興企業は、消費者との関連性を長期的に築こうと実店舗に焦点を定めている。
コロナワクチン接種者が増え、新型コロナウイルス感染症の症例が減っているアメリカのビューティ業界で、グロッシアーは実店舗の収益に賭けている多くの米国企業の1社だ。。ほかにはアルタビューティー(Ulta Beauty)、セフォラ(Sephora)、レブロン(Revlon)などが挙げられる。位置情報データ分析会社プレイサー・ドット・エーアイ(Placer.ai)は、6月のモール訪問者数は前月比で増加し、2019年6月と比較してもわずか8%の減少だったと報告している。
「ゼン・アイ・メット・ユー」の動向
それでも、インディーブランドの多くは、小売業に対して慎重なアプローチを取り、成長の道としてデジタルを選んでいる。シャーロット・チョ氏によるスキンケアブランド、ゼン・アイ・メット・ユー(Then I Met You)を例に挙げる。2018年、デジタルのみのサービスとして同ブランドをローンチしたのち、チョ氏は小売へ進出するオファーをほとんど断ってきた。6月にようやくゼン・アイ・メット・ユーは、イギリスのコスメ通販サイト、カルトビューティ(Cult Beauty)と最初のパートナーシップを締結。小売店の行動が追い風となって、今年は1920年代のような「狂騒の20年代」が復活すると宣言する人もいるが、チョ氏の意見は異なっている。
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「すでに初期の兆候が見えていた韓国では、消費者の購買方法がまったく変わってしまったため、実店舗展開がうまくいかなかったブランドも多かった」。
チョ氏は、カルトビューティとの提携は、顧客をよく理解できたからこその戦略的決断だと言う。「コミュニティが何を望んでいるのかを完全に理解するまで、ゼン・アイ・メット・ユーを立ち上げたくはなかった。2年半が経って、当社は16のビューティ関連の賞を受賞した。このコミュニティから信頼と愛情を受け、世界中から製品が求められているという需要がある。とても親密に感じられるパートナーにようやく応える準備ができたということ。カルトビューティの業績には敬意を感じている」。
「タワー28」x カルトビューティの例
同じことが、6月にカルトビューティでもローンチした、クリーンカラーブランドのタワー28(Tower 28)にも言える。タワー28は、アメリカでコロナ感染症が拡大する前からセフォラとクレド(Credo)の店舗で販売されていたが、カルトビューティはアフターコロナ時代における最初の小売パートナーだ。カルトビューティの創設者であり共同CEOのアレクシア・インゲ氏がタワー28のローンチについてカルトビューティのサイトに投稿したあと、カルトビューティにあったタワー28の在庫が30分以内にほとんど売り切れたと、創設者兼CEOのエイミー・リュー氏は述べている。また、カルトビューティの世界展開により、タワー28はヨーロッパ、中東、南アフリカ、アジア、オーストラリアなど、デジタル小売業者が発送できる国で購入可能となった。
「ネオム」のデジタル戦略
世界的な成長にとって、デジタルはとくに重要だ。英国での成功にもかかわらず、ウェルネスブランドのネオム(Neom)は、昨年末以来、米国でオンラインのみの着実な戦略を進めている。同社は2020年に3桁の成長を遂げ、小売売上高は5000万ドル(約55億円)を突破。同ブランドは、ジョン・ルイス、セルフリッジ、スペースNK、フェンウィックなどのイギリスのデパートやショップ、そして同社の独立店舗4店で販売されている。小売での評判にもかかわらず、創設者のニコラ・エリオット氏は2020年秋からデジタルパートナーのみを選択している。9月にはノードストローム(Nordstrom.com)で、2021年4月にエイソス(Asos)、スキンストア(Skinstore)、ルックファンタスティック(Look Fantastic)で展開開始。今秋の終わりか2022年のローンチを目指し、グープ(Goop)とアポソロポロジー(Anthropologie.com)と現在交渉中だ。
エリオット氏いわく、「デジタル時代にはブランドが急成長できる。昨年は売上の70%が自社サイトと小売パートナーのオンラインショップだったので、もっとそれに注力したかった」。しかし、彼女は、英国では同ブランドは2005年にさかのぼるルーツがあることを認識している。
「信頼は一夜では築けないし、ブランドが多数競い合う新しい市場で、新しいブランドは自分のストーリーを伝えなければならない」とエリオット氏は言う。彼女は、近年では小売店のカウンターよりもデジタルサイトのほうがブランドストーリーをより深く伝える機会になると信じている。
また、デジタルサイトのほうがコストと在庫面では安全な賭けだと言える。新ブランドは資金調達の発表の場を利用して将来の店舗パートナーシップを発表したり、詳しく説明してきたが、資本があるからといって店舗の売り上げや一貫した収益において成功するとは限らない。
エリオット氏によると、ネオムのウェルビーイング「一族」であるインフルエンサーや顧客によって育てられたUGCが、今のところネオムの成長に拍車をかけているそうだ。「女性たちはまだストレスが多く、右往左往している。自分のために十分な時間を取っていない。だからこそ、我々が女性たちとつながって信頼してもらえるなら、彼女たちは当社がやるよりもずっと上手に当社のメッセージを広めてくれるだろう」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Indie beauty brands still see digital as the future post-pandemic]
Priya Rao(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)