美容業界の情勢の変化と運営コストの急増に直面し、クリーンテクノロジー企業、アミリス(Amyris,Inc.)は資金繰りに苦労している。
絶好調の2021年から2023年のCEO退任までの流れ
アミリスが最初に美容業界の注目を集めたのは2021年の急速な拡大期だった。その時点までにアミリスは、スキンケアブランド、バイオサンス(Biossance)を5年間運営しており、バイオサンスは同年に1億6000万ドル(約227億円)の収益を見込んでいた。また、2021年のうちに、非公開の金額でコスタ・ブラジル(Costa Brazil)を買収、テラサナ(Terasana)スキンケアブランドを再ローンチ、『クィア・アイ』のスター、ジョナサン・ヴァン・ネス氏とJVNヘアを、そしてモデルでテイストメーカーのロージー・ハンティントン=ホワイトリー氏のローズ・インク(Rose Inc.)を共同開発した。創業20年のバイオテクノロジー企業、アミリスは、当時のCEO ジョン・メロ氏の言葉によると「クリーンビューティのロレアル(L’Oréal)」になるために大転換を図っていた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
美容業界の情勢の変化と運営コストの急増に直面し、クリーンテクノロジー企業、アミリス(Amyris,Inc.)は資金繰りに苦労している。
絶好調の2021年から2023年のCEO退任までの流れ
アミリスが最初に美容業界の注目を集めたのは2021年の急速な拡大期だった。その時点までにアミリスは、スキンケアブランド、バイオサンス(Biossance)を5年間運営しており、バイオサンスは同年に1億6000万ドル(約227億円)の収益を見込んでいた。また、2021年のうちに、非公開の金額でコスタ・ブラジル(Costa Brazil)を買収、テラサナ(Terasana)スキンケアブランドを再ローンチ、『クィア・アイ』のスター、ジョナサン・ヴァン・ネス氏とJVNヘアを、そしてモデルでテイストメーカーのロージー・ハンティントン=ホワイトリー氏のローズ・インク(Rose Inc.)を共同開発した。創業20年のバイオテクノロジー企業、アミリスは、当時のCEO ジョン・メロ氏の言葉によると「クリーンビューティのロレアル(L’Oréal)」になるために大転換を図っていた。
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クリーンビューティ分野のロレアルになるというのは、アミリスがバイオ燃料に注力していた2007年にメロ氏がCEOに就任したあと、特に強気で掲げた壮大かつ包括的なビジョンだった。消費者向けになるというこのビジョンは2021年までに実現への道を歩み始めた。しかし、今年6月26日、アミリスはメロ氏がCEO兼社長職を即時辞任したと発表。CFOのハン・キーフテンベルド氏が暫定CEOに任命された。メロ氏の退任と同時に、人員削減実施の発表も行われた。現在、アミリスには、米国、ブラジル、ポルトガル、英国に1500名を超える従業員がいる。キーフテンベルド氏は、何パーセントまたは何人が削減されるのか、またどの分野で削減されるのかについては明らかにしなかった。また、メロ氏の退任についても追加のコメントはなかった。
「残念だ。(メロ氏は)ビジネスにとって非常に重要な存在だった」と、パイパー・サンドラー(Piper Sandler)のアナリスト、コリンヌ・ウルフマイヤー氏は語っている。「だが、これは、ほかの経営陣や取締役会がどのようにして事業の収益性を高め、堅実なキャッシュフローの実現を考えているという、株主に向けたシグナルだったのだろう」。
急成長中に資金繰りが悪化
5月9日に発表された2023年第1四半期決算で、アミリスの急成長の過程で生じた亀裂が明らかになった。同社は同四半期に5610万ドル(約80億円)の収益を上げ、うち3420万ドル(約48億円)は消費者部門からだった。ただし、これらの収益額は前年比でそれぞれ3%と1%の減少だった。さらに、前四半期と比較して、第1四半期の売上はそれぞれ26%、35%減少した。また、第1四半期の非GAAPキャッシュ営業費用は1億1280万ドル(約160億円)だったが、これは調整後のEBITDAはマイナス1億120万ドル(約144億円)を意味した。
キーフテンベルド氏はGlossyへのメールで次のように述べている。「次の段階に進むのに役立つ複数年の事業計画と財務計画に基づいて、私は暫定CEOとしてチームとともにアミリスを変革することに尽力している。その一方で、アミリス・サイエンスが生み出す深い価値を維持しつつ、持続可能なソリューションを提供する製品と人々を結びつけたいと考えている。我々はポートフォリオのサイズを適切に調整して、長期的な財政の持続可能性を確立している」。
アミリスにとって膨れ上がったコストのひとつは、ブラジルのバーハボニータにある新しい製造施設である。2022年7月に着工されたこの新施設は、1440立方メートルの発酵生産能力を備え、多様な分子生産のために自己完結型ラインまたはミニ工場5つを備えている。建設のために最大1000人の請負業者と150人の従業員が現場のフルタイムスタッフとして雇用され、さらに運営サポートのために近隣のカンピナスから約100人の従業員が雇用された。当時の収支報告によると総コストは約7200万ドル(約102億円)と予想されていたが、2022年第3四半期の時点で1億5000万ドル(約213億円)に増加している。
カナコード・ジェニュイティ投資銀行のマネージングディレクター、スーザン・アンダーソン氏によると、アミリスは常に収益性の問題を抱えていたという。必要だったとしても、積極的な成長の時期は役立たなかった。
「経費の大部分は、これらの(新規)ブランドの展開だった」とアンダーソン氏。「だからこそ、アミリスは新しいブランドを追加で開発することを減らして、自社が持っているブランドに注力しているのだと思う」。
期待を下回る美容業界の成長
消費者向け小売業界と美容業界は、インフレ、ハイテクや金融などの収益性の高い業界における大規模な人員削減、一般的な消費者の悲観といったマクロ経済の大きな問題のなかで、期待しているほど好調ではない。エスティ ローダー カンパニーズ(Estée Lauder Companies)は2023年度第3四半期の純売上高が前年同期比12%減少したと報告している。また、ほかの美容関連企業の成長は鈍化している。アルタビューティ(Ulta Beauty)は5月、前年比12.3%の緩やかな成長を報告したが、これにより同社の株価は市場外取引で10%下落した。
このような資金供給の課題は、アミリスにとってさまざまな形で現れている。サプライチェーンに影響を及ぼし、サプライヤーは支払いを受け取るまで製品を保留し、ローズ・インクやJVNなどのブランドに売切の問題が生じた。アミリスはさまざまな取引を通じて資金供給を確保しており、このような問題はすでにほぼ解決している。
コスト削減戦略「フィット・トゥ・ウィン」導入
アミリスは、2022年後半に4つの柱に基づいてコストを削減する「フィット・トゥ・ウィン(Fit-to-Win)」戦略を導入した。これには、収益性が高く持続可能なオーガニックな収益の成長を実現すること、焦点を絞った優れたパフォーマンスの資産ポートフォリオを持つこと、消費者ブランドをサポートするために低コストで効果的なマーケティングチャネルを活用すること、単価や運賃に関連するさまざまなサプライチェーンの最適化を行うことがある。
「クリーンで持続可能な原料を製造する会社が消費者製品会社に移行しようとすると、摩擦が多少生じる」とウルフマイヤー氏。「これは、最終的にアミリスに圧力をかけることになったコストのパズルピースのひとつだった」。
最新の決算発表では、消費者収入の減少はマーケティングの削減によるものだと述べられていた。第1四半期のメディア支出は、前年同期比の四半期メディア支出の25%だった。具体的にはバイオサンスはマーケティングに約300万ドル(約4.3億円)を費やした。同時に、このマーケティング投資により、1ドル(約142円)の支出あたりの収益も向上。目標は支出1ドル(約142円)あたり3ドル(約430円)の売上だったが、約10ドル(約1420円)に達した。キーフテンベルド氏は、同社はEメールとSMSチャネルがもっともパフォーマンスが優れているチャネルの1つであることを発見したため、これからも複数の広告チャネルにわたって「反復的でデータドリブンなアプローチ」を取り続けると付け加えた。マーケティング投資の減少は主にバイオサンスの売上に影響した。だが、ウォルマート(Walmart)でローンチしたヘアケアブランド「フォーユー・バイ・ティア(4U by Tia)」の成長と、更年期ブランド、メノラボ(MenoLabs)のD2C売上の成長が確認されている。
ウルフマイヤー氏は、第1四半期の売上以外に、アミリスブランドの店内陳列スペースの縮小などのブランドマーケティング支出の縮小による変化は見られないと述べた。アンダーソン氏もこれに同意している。
アンダーソン氏は「(次回の決算発表で)アミリスがコスト削減を達成できるかどうかを確認するつもりだ」と述べた。「リスク面では消費者向けブランドが減速する可能性がある。だが、コストを削減しながらフィット・トゥ・ウィン戦略を実行できれば、アミリスは良好な状態になれると思う」。
今後の運用資金獲得の計画
香料・香料メーカーのジボダン(Givaudan)は、3月、アミリスから同社の主要成分であるスクワランとヘミスクワランを含む原料ポートフォリオを非公開金額で買収した。これらの原料の年間売上高は約3000万ドル(約43億円)で、アミリスは前払金として2億ドル(約284億円)を受け取った。アミリスは今後もバーハボニータの施設でこれらの原料の製造を続ける。また、同社は、将来の業績に基づく利益や複数の戦略的取引に関連するマイルストーン払いからさらに3億5000万ドル(約496億円)を見込んでいる。
最後に、アミリスはバイオ製造の合弁事業を設立する予定であり、これにより推定5000万ドルから1億ドル(約71億〜142億円)の収益を得て、原料製造の運転資金ニーズが支援されることになる。第1四半期の決算報告によると、長期的な目標は、さらに高いバイオ製造能力に対する需要を維持するために、運転資金へのアクセスがある拡張性の高い資本構造を提供する合弁事業を設計することである。また、ノンコアの消費者向けブランドを売却する予定である。キーフテンベルド氏はどのブランドがコア資産であるかについては明言を避けた。ノンコアブランドの売却により最大1億ドル(約142億円)の収益が見込まれる。しかし、社歴2年のZ世代向けメイクアップブランド、エコファビュラス(EcoFabulous)やクリーンスキンケアブランド、テラサナなどのほかのブランドはひっそりと段階的に廃止されている。テラサナのウェブサイトはもうアクティブではなく、エコファビュラスの製品は在庫がなくなるまでは購入できるようになっている。昨年から始まった急激な不況以来、美容業界のM&A環境は改善したが、2019年と2020年のような状況には戻っていない、とウルフマイヤー氏は述べている。
「アミリスは、科学主導で、限りなく革新的な企業だ」とキーフテンベルド氏は語る。「当社は、イノベーションから概念実証、そして効率的な大量生産に至るまでの道のりを遂げた唯一の消費者向けバイオテクノロジー企業だ。当社の現在の動きは、長期的なステークホルダーの価値を創造し、社会に永続的なプラスの影響を与えるために適切なフォーカスと実行をもたらすものだと確信している」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Biossance-owner Amyris attempts a turnaround in face of ballooning costs]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)