ユニリーバは、近年、苦戦を強いられている。同社は、1月、歯磨き粉のセンソダイン、鎮痛解熱剤のアドビル、セントラムビタミンなどのブランドを所有するグラクソ・スミスクラインの消費者向けヘルスケア部門の購入を試みて失敗したことで注目を浴びた。買収に関する課題や、優先していく5つの分野などについて考察していく。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ユニリーバ(Unilever)は、近年、苦戦を強いられている。
同社は、1月、歯磨き粉のセンソダイン(Sensodyne)、鎮痛解熱剤のアドビル(Advil)、セントラム(Centrum)ビタミンなどのブランドを所有するグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の消費者向けヘルスケア部門の購入を試みて失敗したことで注目を浴びた。680億ドル(約8兆円)の提示価格が受け入れられなかったことで、株価の暴落、著名投資家のネルソン・ペルツ氏からの注目、改革の一環として管理職1500人を削減する計画などのドラマが明るみに出た。機関投資家は法外な規模の入札を行った同社を非難し、ユニリーバは自社のコアビジネスにフォーカスすべきだと述べている。格付け機関のフィッチ(Fitch)も、債務に促進されたグラクソ・スミスクラインの消費者向けヘルスケア部門の購入が「複数段階の格下げ」を引き起こす可能性があると述べた。私は株の空売りはしていないが、下がってゆく株価から目が離せなかった。
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2016年からD2Cの低迷を経験
ユニリーバの危機は頂点に達したが、買収に関する同社の課題は何年も前にさかのぼる。2016年、ダラー・シェイブ・クラブ(Dollar Shave Club)に10億ドル(約1173億円)を費やして悪評を買ったが、これは売り上げを伸ばすのに失敗し、D2Cモデルの衰退の予兆となった。ユニリーバのCEO、アラン・ジョープ氏は、2月10日の第4四半期決算報告でこのような状況を認めている。D2Cの経済は近年変化している。その中には、デジタル広告支出に関連するクリック単価の上昇や、最近では広告のターゲティングと顧客データの収集を難しくするApple iOSのアップデートなどがあった。この記事のためにユニリーバにコメントを求めたが得られなかった。
「ダラー・シェイブ・クラブが拡張できなかったのは明らかだが、それには感謝すべき点もある。損失を出す事業はそれほど拡大したくはないし、ユニリーバのその分野の専門知識は限られていた」と、バーンスタイン社のシニアアナリスト、ブルーノ・モンテイン氏は述べている。
ラグジュアリーコスメを含む優先5分野
ダラー・シェイブ・クラブの低迷にもかかわらず、株主に新しい戦略を示し株価を引き上げるという大きなプレッシャーに直面しているジョープ氏は、根本的な成長の源としてやはりビューティに目を向けている。ユニリーバは投資する分野を明確にしてきた。優先される5分野とは、プラントベースの食品、スキンケア、衛生用品、ラグジュアリー化粧品、機能性栄養製品である。2016年のダラー・シェイブ・クラブの買収以来、同年のリビング・プルーフ(Living Proof)、2017年のアワーグラス・コスメティクス(Hourglass Cosmetics)、2018年の(メンズグルーミングブランド、ベヴェル(Bevel)を所有している)ウォーカー&カンパニー(Walker&Co)、2019年のタッチャ(Tatcha)と臨床スキンケアブランド、ガランシア(Garancia)、2021年のポーラズ・チョイス(Paula’s Choice)の買収を行ってきた。Digidayのレポートによると、ユニリーバが2015年から2018年の間に買収した25社のうち13社がビューティとパーソナルケア分野だったという。2019年、ユニリーバはそれらのうち、ダーマトロジカ(Dermalogica)、ケイト・ソマービル(Kate Somerville)、リビング・プルーフ、アワーグラス、レン(Ren)、ムラッド(Murad)、ガランシアの6ブランドをプレステージグループと呼ばれる部門にまとめた。
モンテイン氏は次のように述べている。「プレステージブランドはスケーリングにとても費用がかかる、というのが私の直感だ。顧客に広告をたくさん見てもらい、大スターを起用してこれこそが最善の製品だと売り込む。何年間もブランド価値に投資して、割引はけっして行わず、ようやく4、5年後に収益が出始める。ユニリーバは、ほかの国々においてこれらのプレステージビューティブランドの拡張のためにブランド価値構築に5年を投資する気はない。これは新しい取引計画にとっては良くないことだ」。
プレステージビューティブランドの獲得以外に、ユニリーバは独自のインキュベーションにもフォーカスしてきた。2018年、ラブ・ビューティ・アンド・プラネット(Love Beauty and Planet)とアポスケア(ApotheCare)をローンチし、どちらも2019年に製品ポートフォリオを拡大している。また、2019年には、大衆向けヘアケアブランドのザ・グッド・スタッフ(The Good Stuff)、社会的意識の高いボディケアライン、ザ・ライト・トゥ・シャワー(The Right to Shower)、ウェルネスにインスピレーションを受けたスキンケアラインのスキンセイ(Skinsei)をローンチ。また、2022年3月にはBHSというZ世代向けヘアケアブランドをウォルマート(Walmart)と共同で立ち上げ、ウォルマートで独占販売されている。
CEOのジョープ氏は決算報告のなかで次のように述べている。「何カ月にもわたって慎重な検討を行った結果、取締役会は、非常に魅力的な2つの隣接関係である消費者の健康とウェルビーイング、そしてビューティへのシフトを加速することによって、今後数十年にわたっていっそう速い成長を達成できるという結論に至った。我が社は、ビューティと消費者の健康・ウェルビーイングという魅力的な分野に向けてポートフォリオを推進するという決意を固めているが、そこに達する方法に関しては忍耐強く対応していく」。
売上高の伸びというポジティブな面も
ネガティブな報道は多いが、同社のポジティブな面も取り上げるべきだろう。第4四半期と年末の決算報告書によると、2021年全体で基礎的な売上高の伸びは4.5%であり、9年間でもっとも強力だった。ビューティとパーソナルケアは通年で最大の部門であり、売上高は前年比3.8%増の238億ドル(約2.8兆円)。タッチャ、アワーグラス・コスメティクス、ポーラズ・チョイスなどのプレステージビューティの売り上げの増加は2桁の割合だった。ユニリーバは財務実績よりも持続可能性への取り組みに重点を置いているという批判を受けているが、ウォール街の短期的な経済的利益よりも環境を優先すること(と環境保全への長期的な関心)は良いことである。ジョープ氏は、2019年、CEOの就任直後に次のように述べている。「目的のないブランドには、ユニリーバとの長期的な未来はない」。同社は、環境の持続可能性への取り組みのコストや投資収益率については詳しく説明していない。
バークレイズ社のアナリスト、ウォーレン・アッカーマン氏は次のように述べている。「ダラー・シェイブ・クラブのように計画どおりに進まなかった取引があったのは事実だが、ユニリーバのプレステージ化粧品部門と栄養機能事業は全体的にグループの有機的成長に60〜70ベーシスポイントを加えている。これは見事であるが、市場では適切に評価されていない」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: After a rollercoaster ride, Unilever sets its sights back on beauty]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)