銀行とスタートアップはデータのマネタイズ方法に関して、既存のルールを押し広げようとしはじめるだろう。銀行にとってのデータ戦略は、ただ顧客の信用やプライバシー確保だけではない。銀行が顧客データにアクセスする能力はデータが保管されているシステムの古さによる限界も抱えているからだ。
銀行はデータ戦略という点で遅れをとっている。特にプラットフォーム各社と比較するとその差は大きい。
ファイナンス企業は、それぞれの顧客に合わせてプロダクトを推奨するなどといったデータの活用を通して、データのマネタイズを図る。銀行の引き下ろしなどの記録からクレジットカードを提案したり、顧客の年齢などに基づいてローンを提案したりといったものがそれだ。しかし、オープンバンキングシステムへのシフトとAI技術の応用が進むに従って、FacebookやAmazonといった企業のマネタイズモデルを銀行は模するようになるだろう。こういった企業は、顧客がより多くのデータや新しい種類のデータを生み出すようなインセンティブを作り出している。
データは銀行の収入源
エクスプローラー・アドバイザー・アンド・キャピタル(Explorer Advisor&Capital)のフィンテック戦略責任者であるブラッドリー・レイマー氏は、「銀行はデータを収入源だと、ようやく見なしはじめたところだ」と語る。プラットフォームやAI主導のプロセスに銀行が関わるようになる、非常に面白い時代になったと、彼は言う。
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世界経済フォーラム(World Economic Forum)とデロイト(Deloitte)による共同レポートによると、データは銀行が差別化を図るポイントとして、ますます重要になるという。銀行は「データマネタイゼーションにおいて、テック企業についていくのに必要な深く広いデータを収集するために、さまざまななデータ戦略を組み合わせたもの」を活用する必要が出てくる。
たとえば、アリード・アイリッシュ・バンク(Allied Irish Bank)はVisaとのパートナー関係を持っており、それによってキャッシュバックを提供している。その報酬としてリテーラーたちは顧客のデータを受け取っている。それによってターゲットを絞ったオファーを提供することができるというわけだ。
銀行にとっての足かせ
もちろん、FacebookやGoogleよりも厳しい信用基準を銀行は抱えている。FacebookやGoogleに関しては、ユーザーたちは自分たちのデータが使われている、もしくは外部のグループに売られてすらいるかもしれないと感じている。しかし、自分の銀行がそのように自分のデータを扱うとは思ってはいないだろう。そして、銀行は顧客から特別な信用を持ってデータを預けられていることを理解している。そのため、一方では銀行はプラットフォームと競争しなければいけないが、一方では非常に異なるスタンダードを扱わないといけないのだ。
歴史の長いインフラであることも銀行にとっては足かせになる。データは通常、前時代的なフレームで保存されているため、顧客データにアクセスし分析する能力も限られているのだ。
「銀行のデータは複数の前時代的なデータベースにまたがって散らばっていて、簡単にはアクセスできなくなっている。データマイニングにはメタデータを含む種々のデータを1箇所の大きなアクセス可能な『データレイク』に収集することが必要だが、これは大手銀行が現在所有しているものではない」と、アイトグループ(Aite Group)のシニアアナリストであるロン・ヴァン・ウィーゼル氏は語る。
新しいプロダクトを提供するためには、APIを通じて外部データにアクセスすることもできないといけないと、彼は付け加えた。
分析能力が今後の要
世界経済フォーラムのレポートの著者のひとりであり、ファイナンス業務における変革的イノベーション部門のプロジェクトリーダーであるジェシー・マックウォーター氏によると、3〜4年前の主流モデルはコアなシステムを完全に取り除いて入れ替えてしまうというものであった。これはコストが高く、また失敗のリスクを抱えていた。
彼によると、現在銀行が行っているのは特定の機能やプロセスを取り出して、それをより早い環境へと移すことだそうだ。移す先はクラウドベースの情報プロバイダーとなる。これまでであれば外部クラウドとなってきたが、いまでは必ずしもそうである必要はない。
「これまでならファイナンス機関は大きなデータを所有しているから自分たちは有利であると考えてきた。しかし徐々に、保存されているデータを分析する能力において自分たちが融通が利かないということに気付きはじめている。そして、それを彼らは直そうとしているのだ」と、マックウォーター氏は言う。
スタートアップとの提携
世界経済フォーラムのレポートによると、このシフトによって銀行のデータマネタイズに関する姿勢が変わるという。伝統的な銀行たちがどうすれば効率的にデータを保存し、管理し、活用できるのかを判別しようとするなかで、フィンテックスタートアップにとってのビジネスチャンスが生み出されるはずだ。
例として挙げられるスタートアップがアルファランク(AlphaRank)だ。アルファランクはクレジットとデビットのデータをヒューマンインフルエンスグラフの形で提供してくれるという。ピーティック(Peotic)は購買行動と支払いデータを使って、リテーラーたちが消費者のターゲットを絞るのを手伝ってくれる。
ディーボルド・ニックスドーフ(Diebold Nixdorf)の戦略・オペレーションのバイスプレジデントであるデヴォン・ワトソン氏によると、銀行のマネタイゼーション戦略は銀行が抱える顧客、チャンネル、プロダクト以外にも及ぶだろうとのことだ。
「顧客からの信用を得た、安全なファイナンス機関であるだけでなく、独占的な金融商品情報や、種々のプロダクトといったエコシステムに顧客が参加することを助けることが、銀行にとっての未来だ。データをどうやって活用するか、外部の世界から顧客にどうやって価値を提供するか、という点で銀行はより深く関わるようになるだろう」。
Tanaya Macheel(原文 / 訳:塚本 紺)
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