バンク・オブ・アメリカ(The Bank of America)のSVP兼エンタープライズメディアエグゼクティブであるルー・パスカリス氏は、MMAのチェアマンであり、そしてIABのスタッフメンバーでもある。そんな彼に、2018年のマーケティング業界での出来事を振り返ってもらった。
ルー・パスカリス氏はマーケティング業界のなかでも屈指の、歯に衣着せずに物を言う幹部のひとりだ。
バンク・オブ・アメリカ(The Bank of America)のSVP兼エンタープライズメディアエグゼクティブであるパスカリス氏は、MMA(Mobile Marketing Association)のチェアマンであり、そしてIAB(Interactive Advertising Bureau)のスタッフメンバーでもある。そんな彼に、2018年のマーケティング業界での出来事を振り返ってもらった。
以下、インタビューの抄訳だ。一部読みやすさを重視して編集してある。
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――私が2018年を象徴する言葉をひとつ選ぶとしたら「ブランドパーパス」だが、この言葉はもう聞き飽きたか?
いや。私は生まれついてのブランドマーケターだ。私自身、誰もがブランドパーパスを口にしていることにワクワクしている。バンク・オブ・アメリカには、ルーツに深く根ざした一連のパーパスがある。
我々は、やるべきことはやってきたが、話すべきことを話す、という点では消極的だ。ある意味、これは自己権力の拡大に対する恐れだ。何が変わったかといえば、我々は注目を集めるために競っているということだ。人々が反応し、それに関わりたくなるようなメッセージを届ける必要がある。我々には語るべきストーリーがたくさんある。いまは、そのストーリーを語るうえで満たすべき要求項目がある。長年、それをやってきた我々のような企業もあるし、いまになって急いで追いつこうとする者もいる。顧客はその違いを見抜いているだろう。
だが、ブランドマーケティングについての対話はそれを超えて中心的なものになっている。コンテキストもその重要な要素の一部だ。我々は、ゴールデンタイムに自分たちの素晴らしさを声高に叫ぶような広告は打たない。イベントは毎日どこかで開催されている。準備の整ったストーリーがあれば、それが「やるべきことをやる」を実践するものだ。このストーリーをそのようなイベントで公開できるのだ。
――それは、一時「リアルタイムマーケティング」と呼ばれていたもの?
その通りだ。当時は一世を風靡したと思う。だが、我々はそれを感情的なものとつながるための機会だと捉えている。たとえば、我々のグリーンボンドは良い環境を保つのにひと役買っているはずだ。
――プラットフォーム全体で、計測やシステムの欠陥、アドフラウド問題などに関連し、2018年は大変な1年だった。今後はどう対応していくか?
私がこの業界に来たときの仕事は、オーディエンスがいるところに行くことと、すべてを計測するという、ふたつの使命を背負っていた。ひとつ目に関しては、私の20年以上のキャリアを活かすことで比較的簡単に達成できた。
いま、私のキャリアではじめて、計測が必要なものごとを計測できていない。我々には、ブランドセーフティや説明責任などの課題を自分自身で評価しているプラットフォームがある。プラットフォームが与えるインパクトはそれぞれ異なる。個人に対してはまだだが、それが必要になるときは近づいている。
数学的なエラーは、マーケターの役目ではなく、プラットフォーム自体の機能の向上に役立っている。投資額に見合った機能を発揮しているどうかについては、私は必要とされるところがあれば行く。我々に必要なのは、MRC(Media Rating Council:以下MRC)の認定だが、私にはそれだけでは不十分だ。メディアすべてにおいて、これまで以上の公平性が必要だ。
――それでも、さらに予算を引き出すつもりか?
これは業界全体に広がる、衛生上の問題だ。このウォールドガーデンのなかで、より関連性が高くユニークなメッセージを伝えなければならないことの表れだ。そこでの会話に関わり続けていたいのだ。
アルゴリズムは毎日賢くなっている。それの恩恵に授かっているのは広告主ではない。業界が口を揃えてそれを称賛しているのを聞いているかもしれない。アルファベット(Alphabet)の歳入の90%は広告主からのものだ。これらのプラットフォームでビジネスを行いたいのはもちろんだが、気持ちよく、健全だと感じられる方法で行うにはどうすればよいのだろうか。
――なぜなら、予算を引き出すことはあまり得策ではないからだ。
これは白黒をはっきりさせるということではない。原則的な観点からは、我々はブランドセーフティの問題にあたって、ときどき立ち止まる必要があった。あるプラットフォームでは、我々はまだ赤信号で止まっている状態だ。原則面での条件がクリアになり、すべてがうまくまとまりさえすれば、何の疑問もなくなり、この先も疑問はなくなるだろう。
一方で、抱え込み切ることができない「検索魔」がいるのも事実だ。競合相手の全員がやらない限り、そこに対して予算を引き出すことはできなかった。検索結果に現れなければ、それは顧客にとっても損害を与えてしまいかねない。これについては、我々は日々苦悩している。以前は、この件について1年に2回は検討してきた。だが、我々が出した決断のすべてにおいて、このことが中心的な事柄になった。
これは長期的なパートナーシップや共同開発にとっては良い前兆ではない。なぜなら、すべてはケースバイケースで、ある一瞬が我々の次の行動に大きな影響を与えかねないからだ。
――ある意味、ブランドマネーが業界内の酷い悪行を手助けしているともいえる。多くの人がそこに注意を払っているようだ。
これには期待している。環境は常に明るくて健全であるべきだった。誓約の条項が広告主と顧客とのあいだで交わされるべきときが来た。プログラマティックは、広告業界で起こった史上最悪なことであり、同時に前に進むための救済策でもある。我々は、それをもっとも低俗で卑劣なものに仕立てあげてしまったのだ。我々は、単に靴を探している人を見つけたいだけだ。そのコンテキストなどどうでもよい。彼らが半年前に靴を探していたとしても、そんなことはどうでもよい。だが実際には、顧客の要望に対する関心度の水準は高まるだろう。
――了解した。しかし、ブライバシー、水準の引き上げ、ブランドセーフティ、これらは、すべて安くは済まないのでは?
マーケターが身を置いている環境は、それぞれが少しずつ異なっている。我々はエージェンシーに対して、コストが要因で何かを止めるように指示したことは一度もない。銀行業においては、我々は常にブランドセーフティに重きを置いてきた。最近になって、専任の担当者を設けることについてアナウンスした。
コストについていえば、我々はデジタル広告のフラウドにはとても慎重になっていて、それを見つけるために3段階の検知システムを導入した。我々が緩和しているアドフラウドのすべては、さらなる企業努力に必要なコストよりも高くついてしまうといってもよいだろう。純粋数学のレベルでも、このシステムはアドフラウドを企む者への障壁を高くする効果があり、彼らが簡単に金儲けできなくするために役立っている。それ以上に、評判についても考えるべきだ。ブランドの悪態を示すようなスクリーンショットがひとつふたつでも出てしまうと、(回復に)かかるコストは算出不可能かつ天文学的な数字になってしまうだろう。
我々に対する適正な評価は、保証問題にかかっている。たとえ収支がプラスにならなくても(実際マイナスなのだが)、その投資には価値があるだろう。我々はまた、今日のプラットフォーム上のリスクについても話し合っている。特定のプラットフォームで、評判が問題になるレベルまで達してしまったことはあるだろうか?