「ガンプラ」宇宙へ 、突飛すぎるマーケティングの背景:BACKSTAGE2019レポート

よく考えればわかることだが、「ガンプラ」は簡単に宇宙へ行けない。…本物の「機動戦士ガンダム」なら、造作もないことかもしれないが。

「機動戦士ガンダム」のプラモデル・通称「ガンプラ」が2020年春、JAXAの協力により、ISSから宇宙空間へ放出される。その目的は、目前に迫った東京オリンピック・パラリンピック2020に向け、機運醸成を図るためだ。このプロジェクト「G-SATELLITE 宇宙へ」の公式サイトによると、宇宙空間に放出されたガンプラは、「東京2020大会の期間前から期間中にかけて、地球周回軌道を飛行しながら、東京2020への応援メッセージを地球に向けて発信」していくのだという。

「過去にもオリンピックを盛り上げるために、国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙飛行士が応援メッセージを送るといった取り組みは行われてきた」と、プロジェクトの主幹である、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 イノベーション推進室 エンゲージメント企画担当部長 天野春果氏は語る。「さらに、ISS船外の宇宙空間からとなると、2014年のソチオリンピックの際にロシアの宇宙飛行士が船外から応援した1例のみ。東京2020でも世界を驚かせるような取り組みを宇宙から行いたいと考え、宇宙空間にこだわった」。

2019年8月29日に開催れた体験型マーケティングカンファレンス「BACKSTAGE 2019」のセッション「ガンダムがTOKYO2020を盛り上げる! 天野式スポーツマーケティングの極意」では、天野氏とともにプロジェクトを牽引する、衛星搭載ガンダム開発者の山中信弘氏、東京大学研究員の青柳賢英氏らが登壇。「G-SATELLITE 宇宙へ」の背景について、裏話を披露してくれた。なお、本セッションのモデレーターは、DIGIDAY[日本版] エグゼクティブアドバイザーである田中準也が務めている。

左より登壇した天野氏、青柳氏、山中氏、田中

左より登壇した天野氏、青柳氏、山中氏、田中

もともとは「鳩」だった

元川崎フロンターレプロモーション部部長の天野氏は、東京オリパラ2020を盛り上げるプロジェクトを企画するにあたって、簡単には手が届かない存在である宇宙から応援するというのは、チャレンジする価値のある壮大な取り組みだと感じていた。そこで、最初に思いついたのは、鳩を飛ばすことだ。オリンピックでは平和の象徴として鳩を飛ばす決まりがある。鳩が宇宙で飛ぶのは面白いのではと考え、プロジェクションマッピングなどで実現できないかと考えたという。

はじめは、その企画をもって、スポンサー獲得のために動きはじめた。しかし、なかなかスポンサーの理解が得られず、計画は頓挫。鳩に代わって、宇宙に送り込む「白いもの」はないかと仲間と話していたときに、出てきたのが「ガンダム」だった。

「膨大な企画書を作りながらも、正直なところ鳩が宇宙にあるイメージは浮かんでいなかった。だが、ガンダムが地球の周りを飛んでいるイメージはすぐに思い浮かび、これしかないと感じた」と、天野氏は続ける。すぐに鳩の企画からガンダムへと切り替えたという。

ガンダムのイメージはすぐに浮かんだと天野氏は語る

ガンダムのイメージはすぐに浮かんだと天野氏は語る

ガンダムに切り替えたものの、ガンダムはおろか人工衛星と関わるようなコネクションは、なにもない。その状態で、実現するかは、まったくわからなかったが、これまでの経験から、イメージが思い浮かんだものはたどり着けると直感していたという。「浮かんだイメージに意味や理由がなくても、実現できる気がしていた」。

「次の衛星はガンダムを載せる」

実現に向けて人工衛星開発に携わる企業などに相談をしたものの、「突飛すぎて実現できない」「4年10億円かかる」といった反応で、なかなか道筋は見えない。そんななか、天野氏は偶然目にした人工衛星に関する資料で、小型人工衛星の権威である東京大学の中須賀真一教授の存在を知る。

「失敗を繰り返していながら、教授の写真は常に笑顔。この人しか相談できる人はいないと考えた」と、天野氏は研究室を訪れる。そしたら、なんとガンプラが置いてあったという。企画の説明をしたところ、即『やろう』と返事をもらった。「実は中須賀教授も以前、宇宙にガンダムを持っていくという企画を提案したことがあったという。このような企画がきたのは、運命だとおっしゃっていただいた」。

その後すぐに中須賀教授は、部下の青柳氏を呼び出して、こういった。「次の衛星はガンダムを載せる。できるか?」。

「今振り返ると奇妙な話」と苦笑する青柳氏

「今振り返ると奇妙な話」と苦笑する青柳氏

「今振り返ると奇妙な話だ」と、今回登壇した青柳氏は振り返る。それでも、あまり考えずに「はい」と答えたという。

「小型衛星でも通常2年程度はかかるものだが、今回のプロジェクトの場合は非常に時間がなく半年で取り組んだ」と、青柳氏。「時間的にも計画的にも制約の多いなか、私を含めメンバーにもガンダム好きが多く、ガンダムであることがひとつの大きなモチベーションになっていたと思う」。

宇宙に耐えうるガンプラを

玩具メーカーで入社以来プラモデルの設計を手がけてきた山中氏も、トップダウンでこのプロジェクトの存在を知った。

「誰かやらないかという話があったとき、通常の業務もあり同僚たちは黙ってしまったが、私はこのようなチャレンジが好きだった」と、山中氏は説明する。「ぜひやってみたいと手を挙げた」。

ガンプラの最小スケールは1/144だが、衛星ガンダムは1/200。新たに設計図面を起こす必要があるうえ、普段は考慮することもない温度や真空に耐えうる宇宙用のプラモデルを開発しなければならない。まったくノウハウもない状態で、トライアンドエラーを繰り返した。

「ガンプラといえばディティールが命」と、山中氏は続ける。「宇宙空間に耐えつつも、しっかりとしたガンプラを実現したかった」。

あくまでディティールにこだわったガンプラ開発に取り組んだと山中氏は語る

あくまでディティールにこだわったガンプラ開発に取り組んだと山中氏は語る

ロマンがプロジェクトを動かす

壮大で巨大な規模感のある、本プロジェクト「G-SATELLITE 宇宙へ」。失敗を恐れず、チャレンジしようとするモチベーションは、どこから生まれているのかと、最後にモデレーターの田中は、全員に対して訊いた。

常に失敗を恐れていると、青柳氏は話す。「人工衛星を宇宙に送り込むのはすべてが一発勝負であり、失敗は恐ろしい。だからこそ失敗を管理できるよう、あらゆる状況を考えている。そのうえで、面白いことをしたい、人と違うことをしたいという思いが原動力になっている」。

山中氏を突き動かすのは、昔からの夢だ。「ガンダムは宇宙にあるべきものだが、これまでは地球上にしか存在できなかった。それが、今回のプロジェクトによって本当に宇宙に行くことができる。その夢が叶うという思いが根底にある」。

最後に天野氏は、「まさにロマンだ」と答える。

「オリンピックという大舞台を前に量産型ではない、国内外の人々を驚かせようなことをしたいという思いがある」と、天野氏。「オリンピックはもちろんアスリートが主役だが、日本が注目される機会でもある。こんな面白いことにチャレンジしている国なんだということを世界にも見せたい」。

Written by 分島翔平
Image courtesy of Facebook Page of BACKSTAGE 2019