8月30日、森ビル、虎ノ門ヒルズにてBackstage2017が開催された。今回のイベントのテーマは「体験型マーケティング」。ブランドの体験型マーケティング活動に必要な要素である、「コミュニティーの構築」「リアルな体験」「テクノロジー」を掛け合わせて、生活者にリアルな体験を提供するため、未来志向のブランドマーケター、イノベーター、メディアが語り合った。
8月30日、虎ノ門ヒルズにてビジネスイベントの裏側について語り合うイベント、Backstage2017が開催された。
今回のテーマは「体験型マーケティング」。ブランドの体験型マーケティング活動に必要な「コミュニティーの構築」「リアル体験」「テクノロジー」を掛け合わせて、生活者にブランドの価値を提供するため、未来志向のブランドマーケター、イノベーター、メディアが語り合った。
イベント運営には実験マインドが必要
オープニングトークでは、森ビル株式会社の杉山央氏とライゾマティクス(Rhizomatiks)のクリエイティブディレクター齋藤精一氏、日本アイ・ビー・エム株式会社のコグニティブエクスペリエンスプロデューサー岡田明氏が、街づくりとAIとアートという文脈で、公共エリアでのイベント制作の裏側や行政・企業との交渉の難しさについて話した。
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行政区間や公共施設での企業イベントの開催は、細かく厳しい規制がつきものだ。ネガティブな意識をもっている行政の人間も多く、企業側でさえも難色を示しがち。そんななか、森ビルの杉山氏は「我々は場所を持っているとはいえ、それだけではスケールできないし、イベントもプロモーション中心になりがち。それを解決するためにクリエイターやアーティストがイベントを主導してくれれば、スケール感を期待できる」と話す。
ライゾマティクスの齋藤氏はイベントには実験するマインドが必要だという。「収益化を最初から考えていてはアイデアが実現しない。イベントは実験出来る土壌を培うことが必要だ。そのために、政府、行政、産業、デザイナー、個人が共通言語をもって理解できるようなプロトコルを持つべき。行政や企業との交渉の際には、先にビジョンを共有し、交渉でそのビジョンを遡っていくのもひとつの手法だ」と語った。
岡田氏(左)齋藤氏(中央)杉山氏(左)
街中で開催されるイベントに集う人々に対して、テクノロジーはどんなアプローチをするのか。アイ・ビー・エムの岡田氏は、「アイ・ビー・エムのWatsonは、街を行き交う人々の感情を定量化するスキルを提供している」と紹介。イベントの参加者がいまどんな感情なのかをリアルタイムに可視化できるという。
齋藤氏は、イベントをどこで開催すればもっとも効果的なのか、それとも分散化させるべきなのかをWatsonで判断することができるようになると心強い、と期待を込めている。イベントにアートとデータが掛け合わされることで、従来のイベント開催の空間の捉え方が変わるきっかけになるかもしれない。
渋谷区が取り組む街づくり
街としてのコミュニティー再構築に取り組む渋谷区は、イベントを通して「Diversity(ダイバーシティ:多様性)」を可視化するプロジェクトに取り組んでいる。渋谷区副区長の澤田伸氏、株式会社東急エージェンシーで戦略事業本部 東急プロジェクトプロデュース局 局長の菊井健一氏、一般財団法人渋谷区観光協会 理事長の金山淳吾氏は、渋谷で生活・事業を行なう人々へのアプローチについて語りあった。
代理店出身でもある副区長の澤田氏は、「経営発想の行政を行っていく」と宣言。将来の具体的な取り組みとして、区が所有する建物の収益性のアップ、5G/LTE回線のインフラ整備、ブロックチェーンでの行政決済技術の導入、公園施設の民間企業の利用促進での収益化や、映画のロケ地としての活用促進などだ。
「企業にとってビジネスしやすい街づくりの実現のため、公共空間をどう活用してもらえるかを工夫しなければならない。そのための企業との連携やデータ活用は必須になってくる」と澤田氏。
金山氏(左)澤田氏(中央)菊井氏(右)
東急エージェンシーの菊井氏は、「街づくりはその地域の特徴や人々も違えば、街にある資産も異なるため、汎用モデルは存在しない」と語る。そこで、東京でも観光客がもっとも多い渋谷区について、弱点のひとつに、外国人観光客にとって英語が通じないことで生じる移動に煩わしさがあること、逆に強みでは、集客しなくても常に人がいることと、渋谷区観光協会の金山氏は述べる。「地域によって四季折々の良さがあるが、渋谷の場合は秋をベストシーズンにしている。カンファレンスやフェスの開催で、渋谷に来てもらう目的を意識的に作ろうとしている」。
地域の魅力を生活するように体験 Airbnb
民泊ビジネスで勢いのあるAirbnb(エアビーアンドビー)は、自宅を宿として提供したいホストと、宿泊場所を探しているゲストをマッチングするビジネス。宿泊までのプロセスのすべてをアプリで完結でき、ユーザーには宿泊先の安全性が担保され、決済方法も簡素化されており、レビュー確認・投稿が可能になっている。
田邉氏
また、宿泊をしないイベント体験も同サービスでは提供している。盆栽の制作をホストの家で行なう体験や、自転車で街の裏道を散策する体験などだ。Airbnb Japan株式会社、代表取締役の田邉泰之氏は、「ホストの情熱がリアルに共有される。オンラインでレコメンドされる体験は、すべて過去の行動に基づきパーソナライズされた情報なので、想定の範囲内を超えることはないが、オフラインでの体験は想定外なことを発見する魅力がある」と語る。
「宿泊だけでなく、盆栽や自転車などでホストと滞在時間を共有することで、テーマを横断した、融合的な体験を提供することができ、未来のイベントマーケティングにも繋がるのではないか」と語った。
イベントの協賛に公平性は必要ない
株式会社ニューバランスジャパンでDTC&マーケティングディレクターの鈴木健氏とスマートニュース株式会社でブランド広告責任者の菅原健一氏、モデレーターに株式会社インフォバーンの取締役・執行役員、ソリューション部門 部門長の田中準也は、「協賛したくなるイベント、協賛したくないイベント」というテーマで議論。鈴木氏はブランドにとってイベントを協賛するときに公平性は不要だと語る。
同氏は、イベントを協賛する立場として「理想はあるイベントに対して、ひとつのブランドしか協賛していないことを、参加者みんなが認知しているような状態にもっていくことがゴール。その成功例が、レッドブルが協賛しているエクストリームスポーツ。イベントを通して、レッドブルがどういう意味を持っているかを体験する場を提供している」と語る。
菅原氏(左)と鈴木氏(右)
また、スマートニュースの菅原氏は、イベント協賛は継続的にスポンサーになることで価値があるという。「今年しかやらないイベントを協賛しても意味がない。それに、コンテンツがつまらないイベントは協賛したくないし、繁栄しそうな良いコンテンツをもっているイベントに協賛したいと思う」。
ニューバランスジャパンは昨年、東京ガールズコレクション(TGC)に初出展した。鈴木氏は、企業がコミュニティーに参加するとき、コミュニティーのなかの伝道者に力を借りるべきだと語る。「そういう意味では、TGCでコレクションのモデルたちにフィッティングルームで商品を試履してもらえたことは、ブランディングの面では弱かったかもしれないが、ブランドを知ってもらうことができた。ブランドに足りないものを埋めてくれる要素をもったイベントに協賛したいと思う」と語った。
DIGIDAY[日本版]はBackstage2017のメディアスポンサーです。
Written by 中島未知代
Photo by Backstage2017 実行委員会