今年6月、Facebook広告をボイコットする運動「#StopHateForProfit」が本格化した。このボイコットは、これまでの抗議運動とは違うかもしれないと、筆者は思った。ある点においては、この考えは正しかった。しかし、それ以外の点では、このキャンペーンはかつてのそれと同じような展開を見せている。
今年6月、Facebook広告をボイコットする運動「#StopHateForProfit」が本格化した。このボイコットは、これまで過去に広告主が起こした抗議運動の亡霊とは違うかもしれないと、筆者は思った。
ある点においては、この考えは正しかったと、筆者はいまも思っている。このプレッシャーキャンペーンは間違いなく、過去のソーシャルメディアボイコットよりも大規模だった。より良く計画され、多くの企業が参加していた。ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット(Stop Hate For Profit)によれば、1200以上の企業がこのボイコットに参加したという(必ずしも、すべての広告主のボイコットがこのキャンペーンと直接関係していたわけではなかったが)。また、公民権団体もこのキャンペーンに加わったことにより、Facebookは指標や隣接する広告の問題だけでなく、基本倫理やユーザセーフティなどの問題についてもその責任を問われることとなった。
しかし、それ以外の点では、このキャンペーンはかつてのそれと同じような展開を見せている。Facebookは体質改善を約束しているが、こうした改善のほとんどはまだ実行されていない。だが、たとえそうでも、広告主はFacebookのもとへと戻った。米DIGIDAYは8月上旬、パスマティクス(Pathmatics)のデータをもとに、Facebookに出稿していた米国内の広告主上位20社のうち、5社だけが現在もボイコットを続けているとレポートした。同社が集めた8月1日~9月26日のデータを見ると、これら5社のうち、CVSとユニリーバ(Unilever)、ディアジオ(Diageo)の3社はFacebookへの出稿を再開していることがわかる(残りの2社、マイクロソフト[Microsoft]とコカ・コーラ[Coca-Cola]も、200ドル(約2万1000円)とごく少額ながら出稿を再開している)。
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ストップ・ヘイト・フォー・プロフィットは、Facebookは経営幹部クラスに公民権の専門家を雇うべきだという内容のコメントを発表している。それに対して、Facebookは公民権のリーダーを「バイスプレジデントレベル」で任命すると述べているが、いまのところまだ具体的な発表は行われていない。また、Facebookは7月、メディア・レーティング・カウンシル(Media Rating Council:以下、MRC)の監査を受けて、広告主とパートナーに提供するブランドセーフティコントロールや、コンテンツマネタイズに関するポリシーを評価すると発表しているが、話し合いは現在も続いている(7月の時点では、MRCは監査の範囲の拡大を強く求めていた)。Facebookによれば、監査の範囲と時期についてのアップデートを9月30日までに発表するということだった。Facebookは8月、自社のコミュニティ規定施行レポートに対する第三者の監査を求める提案依頼書を発表した。この監査については、2021年の実施が見込まれている。
もちろん、こうした大きな改善が一夜にして実現することはない。そして、このことを知るべきなのは、プラットフォームが次はもっとうまくやると断言するや、電光石火の速さで反応して、出稿を再開する多くの広告主たちだ。
「真のFacebook監視委員会」
「デジタルエコノミーはこのビジネスモデルを中心に築かれている。そのため、その周囲での抗議運動はいわば象徴的なPR活動であり、啓蒙活動だ。ブランドが当代の政治討論に参加するひとつの方法なのだ」と、パーソンズ・スクール・オブ・デザイン(Parsons School of Design)でメディアデザインを研究するデビッド・キャロル准教授は語る。「企業でありながら、売上を断つことは不可能だ。純粋な公共心をどれだけ持っていられるかについては、Facebookにも広告主にも限界がある。純粋な公共心を持った組織とは、非営利団体やボランティア団体、納税者が資金提供する団体だからだ」。
キャロル准教授は新たに結成された「 The Real Facebook Oversight Board(真のFacebook監視委員会)」のメンバーだ。同グループはFacebookを声高に批判するメンバーから成り、同社の問題に世間の注目を集めることを目的としている。Facebookが自社独自の監査会をはじめて提案したのは、2018年のことだった。この監査会は10月に発足することが決まっており、20人のメンバーで活動を開始することになっている。同監査会は、Facebookによってコンテンツを削除されたユーザーからの訴えのヒアリングを開始するほか、Facebookから判断を委ねられたコンテンツに関する決定権も与えられる(ただし当初は、Facebookから直接持ち込まれた案件のみ)。
キャロル准教授はFacebookによるこの監査会を「価値のあることなら何でもするために膝を撃ち抜かれた」と評している(ちなみに、自身に関するどのようなデータをケンブリッジ・アナリティカ[Cambridge Analytica]が保存していたのかを突き止める同氏のミッションは、Netflixのドキュメンタリー「グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル(The Great Hack)」に収録されている)。
「コンテンツ論争が二次効果なのか副作用なのか、それとも疾病の兆候なのかという根本的問題に、Facebookの監査会が取り組むことはない」と、キャロル准教授は語る。「悪事が起きるのを防ぐための仕組みは、Facebook内にはない。Facebookの監査会は『6番通路が汚れました。至急、きれいにしてください』的な受動的システムにすぎない。彼らが実施するのはそれだけだ」。
世界広告主連盟の評価
世界広告主連盟(World Federation of Advertisers:WFA)は先日、有害コンテンツの明確化と、それへの対処の改善をプラットフォーム各社に強く求める同団体の取り組み(「責任あるメディアに向けた世界同盟[Global Alliance for Responsible Media:以下、GARM]」の一環)に「大きな進歩」が見られたと発表した。そのプレスリリースによれば、マスターカード(Mastercard)やユニリーバ、マーズ(Mars)のマーケティング/メディア部門のリーダーたちは、その進歩を賞賛しているという。WFAのCEOであるステファン・レールケ氏は、広告主に関しては、このような話し合いは「エンジンルームからボードルームへ(現場から役員会議へという意味)」と広がりを見せていると話す。
「こうした議論は、つい最近まで企業のメディア担当責任者によって主導されており、どれも効果や効率、ブランドセーフティついてのものだった」と、レールケ氏は語る。「これが役員のあいだへと広がっているのは、ブランドがどこに表示されるのかが、そのブランドの価値に関する何かをユーザーに伝えるという感覚があるからだ」
繰り返すが、こうしたコミットメントが実際にどのように展開していくのかについては、今後も見守っていく必要がある。
FacebookとYouTube、Twitterはそれぞれ、有害コンテンツに関するGARMの一般的な定義を11月までに採用すると発表している。加えて、これら3社は今後、有害コンテンツの発生の評価・報告に対し、より標準化された手法を採用するという。ただし、その実施は2021年後半になる見込みだ。また、プラットフォーム各社が「隣接する広告に関するソリューション」を「年内に」見つけることも見込まれている。その目的は、プラットフォームまたはサードパーティの技術を用いて、広告主の広告が不適切なコンテンツの隣に表示されないようにすることだ。YouTubeが開発した隣接についてのメカニズムは、すでにGARMの要求を満たしていると、レールケ氏は話す。
第三者組織による見解
自主連合組織のコンシャス・アドバタイジング・ネットワーク(Conscious Advertising Network)は過去数年間にわたり、デジタル広告がオンラインヘイトまん延の資金源になっている件について国連と話し合いを重ねてきた。国連人権高等弁務官事務所で移住・人権部門のシニアアドバイザーを務めるピア・オベロイ氏は、「この問題に対するテックプラットフォーム各社の対応には一定に進歩が見られると、国連は認識している」が、オンラインヘイトが現実世界の暴力や差別へとエスカレートする状況はいまも続いており、十分な対応がなされているとはいい難いと述べている。
「この話し合いを世界規模にするためには、まだまだ多くのことがなされなければならない。財界の中心地から離れた場所というコンテキストに目を向ける必要がある」と、オベロイ氏は語る。「プラットフォーム各社は、被害をこうむっているグループのもとに足を運び、話を聞くべきだと思う。彼らの側にどのような提案があるのかを知るためにも」。
「こうすることこそ、人権に基づくアプローチのひとつではないか」と、オベロイ氏は続ける。「現場のコミュニティが参加し、力を与えられることで、その現場で実施可能な解決策を導き出すことができる」。
アルゴリズムそのものもバグ
7月の時点では、このボイコットに参加した広告主たち(その多くはすでに再び、Facebookのスケールと効率のいいターゲティングに大きく依存するようになっている)は、Facebookへの出稿の再開にベストなタイミングを見極める際、ファウスト的取引に直面した。各社のコンテンツモデレーションチームが収拾策を見つける前に世界全体に急速に広まる陰謀論/陰謀カルトは、Qアノンが最初ではなく。また、それが最後でもないだろう。
ユーザーの心をとらえる確率が高いコンテンツ・広告を配信することで、エンゲージメントを高めるように設計されたアルゴリズムそのものもまた、バグなのだ。
LARA O’REILLY(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)