Advertising Week Asia 2017のセッションのひとつ、「グローバル志向とローカライズ」というテーマでは、IT起業家たちが、どのようにして、ビジネスのインフラとして欠かせなくなったインターネットサービスと産業とを融合し、ローカルな市場の規制に対処してきたのかを話し合った。
ローカルなサービスを突き詰めれば、グローバルに通用する。
Advertising Week Asia 2017(5月29日〜6月1日、東京 六本木ミッドタウン)のセッション「グローバル志向とローカライズ」では、そんな結論が見えてきた。今回は、IT起業家たちが、どのようにして、ビジネスのインフラとして欠かせなくなったインターネットサービスと産業とを融合し、ローカルの規制に対処してきたのかを話しあった。
セッションでは、株式会社アールの代表取締役社長の川辺洋平氏がモデレータを務め、株式会社Wondershakeの代表取締役社長、鈴木仁士氏、ジェイ・シード株式会社執行役員でTinder Japanの日本支社長の梅澤亮氏がパネラーとして登壇した。
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これから刈り取れる市場は東南アジア
ローカルからグローバルなサービス展開を目指しやすい市場について、女性向け情報を扱ったアプリでは日本最大級といわれている「Locari」を運営する株式会社WondershakeのCEO、鈴木仁士氏は以下のように語る。

左から梅澤氏、鈴木氏、川辺氏。
「日本市場にはリクルートと楽天といった巨大なEC事業を展開する企業がいるなか、新規参入するのが難しくなっている。翻っていま、東南アジアは20年前の日本のような環境。デバイスシフトが起こったときにメルカリが成功したが、日本でeコマースに参入するよりも、東南アジアにいまある日本の技術を持ち込んだほうがビジネスとして成長できる」。
2016年の日本のEC市場を見てみると、BtoCのEC市場規模は15兆1358億円(前年比9.9%増)、BtoB市場規模は291兆170億円(前年比1.3%増)となっている。そして、スマホを経由したEC市場規模は、BtoCのEC市場の物販系分野、8兆43億円のうち2兆5559億円(前年比28.7%増)を占める(経済産業省調べ) 。このように、デバイスシフトによるモバイルECの成長スペースはあるものの、全体的な市場の成長率をみると、今後は東南アジアが明らかに勢いがあるようだ。
フロスト&サリバンの調査では、現在もっとも成長を期待できる東南アジアは、2015年のEC市場規模が12億ドル(約1兆2000億円)。2020年までに、およそ2倍以上となる252億ドル(約2兆8000億円)になると見込まれている。2015~2020年までに予測されている年平均の成長率は17.7%だ。
また、東南アジアの総人約6億4000万人に対して、アクティブなモバイルのインターネットユーザーは3億200万人、そのうちモバイル経由でEC購入をするユーザーは2400万人以上とされている(We Are Social / ウィー・アー・ソーシャルの2017年の調査)。日本の総人口の2倍以上のモバイルのアクティブユーザーがすでに存在しているマーケットで、Web支払いをモバイルで行なうユーザーの伸びしろは今後十分にある。
鈴木氏は、「規制がきつい業界が面白い。決済やローンのサービス。消費者金融ローンとか。1日に相当な金額が動いている市場だが、わりとイメージが良くなかったり、利用者がある施設に訪れてローンをするという行為が煩わしかったりする。それを、アプリでの購買実績や自分の持っているモノを質に入れる形で、速攻ローンが出来たりするサービスがすでにアメリカではじまっている。さらに、自分の給料を日割りしてローンを貸し付けてくれるサービスも一般化している」とファイナンス分野のチャンスについて語った。
フロスト&サリバンによれば、シンガポールとマレーシアを除いて、東南アジアはまだ口座保有率が低いため、クレジットカードをもつ国民の絶対数が少ないという現状がある。しかし、モバイルが急速に普及していることと、市場がまだ発展途上であることは、IT系スタートアップにとって日本市場よりもハードルが低く、規制さえクリアすれば勝負し易いフィールドといえる。
サービスのローカル化に破壊的イノベーションは求めない
サービスを新しい市場にローカライズするとき、その市場の規制を守りつつもビジネスを構築するときの課題がふたつある。ひとつめは産業の組合と協力したビジネス構築、ふたつめはグローバルサービスとして各市場の規制に対応しつつもサービスの特徴を失わないことだ。
これまで配車サービスのHAILO(日本でのサービスは現在終了)や民泊事業のHomeAwayの代表として、ほかにも数多くのスタートアップ事業の支援を行い、現在はマッチングアプリ、Tinder(ティンダー)の日本支社長を兼任する梅澤氏は、ディスラプティブなイノベーション(破壊的イノベーション)の反対を目指していると話す。
「配車サービスのHAILOは国土交通省、
また梅澤氏は、「そのためにロビー活動が重要になってくるし、日本のユーザー向けの機能を作り出さなければいけないかもしれない。海外でとても人気なサービスがあるとして、それが日本でも通用するとは限らない。そこで、全国の組合とミーティングをして、プラットフォームが産業をどう成長に導くことができるのかを話し合いにいった」と語った。
「ただ黒船を持ち込むのではなく、ケーススタディを作り、グローバルで活用できるプラットフォームの体験を提供できるよう話し合った」。
こうした、既存ビジネスが取り込めていないニーズを、デジタルでマッチングさせるビジネスは、ほかにも多くの産業で事業化のチャンスがあるかもしれない。梅澤氏は、伝統産業や技術産業について言及し、デジタルでの事業化した事例をほかに紹介した。従来の産業を破壊せず、デジタルが補う形で消費者のニーズに応えるビジネスモデルは今後さらに発展していくはずだ。
※DIGIDAY[日本版]はAdvertising Week Asia 2017のメディアスポンサーです。
Written by 中島未知代
Image from AWA2017 and Getty Images