いまだ安定している、自動車メーカーの「広告支出」の謎 :そして、その持続も見込まれている

新型コロナウィルス感染拡大による前代未聞の事態が続くなか、多くの企業は広告支出の中止または抑制を選択している。ところが、3月第3週時点で、自動車業界の広告支出額はほとんど変わらなかった。

インベントリを巡る競争の減少はCPMの低下を意味する――そして、人々が自宅待機を余儀なくされるなか、テレビの視聴者数は増加している。たしかに、多くの消費者はいま、自動車を買う気分ではないのかもしれない。だが、自動車の販売サイクルはもともと、ほかの商品よりも長い。これはつまり、世の中が落ち着きを取り戻すときに備え、自社ブランドのアウェアネスとプリファレンスを高める長期キャンペーンを張るのに、いまが絶好のタイミングであることを意味する。また、家計への影響を心配する人々の気持ちをくみ取り、新たな支払オプションをはじめ、消費者を支援するメッセージの制作に焦点をシフトさせた自動車メーカーもあるようだ。

広告活動のレベルはほぼ維持

アイスポットTV(iSpotTV)のデータによると、3月1日から18日にかけて、自動車メーカーは5万4000回のテレビCMに推定1億8400万ドル(約199億円)を費やし、196億のインプレッション数を獲得した。もっとも、実際の支出額は前年同時期を下回っている。これは主に、マーチ・マッドネス(NCAAトーナメント)といった人気ライブスポーツイベントの中止によるもので、テレビネットワーク勢は、予定していたキャンペーンではなく、ニュースといった他番組での低コストのインベントリにシフトした。ただし、広告活動のレベル自体はほぼ変わっていない。同じくアイスポットTV(iSpotTV)のデータによると、2019年度は54000回のテレビCMに推定2億1500万ドル(約233億円)を支出し、インプレッション数は182億だったという。

この傾向は、大半のネットワークおよびストリーミングプラットフォームでも見られた。数百万のスマートTV視聴データを分析する企業、サンバTV(Samba TV)の調査によれば、3月7日から16日にかけて、自動車ブランドのアドロード(広告掲載回数)は全米80のチャンネル全体で13%上昇している。

ただし、世界を見れば明らかなとおり、状況は流動的だ。テレビ業界のあるシニア幹部は、3月第3週末にかけて、自動車業界のクライアントからCM出稿のキャンセルが多少入るようになったと語る。実際、大半の自動車メーカーは3月第4週、米工場の操業を停止しており、その理由として、新型コロナウィルスに関連する安全面への配慮を挙げている。2020年度の米国の自動車売上は20%急降下し、1350万ドル(約14億円)まで落ち込むと、RBCキャピタル・マーケットのアナリストらは予測している。

各自動車メーカーの動向

トヨタ(Toyota)は「We’re here for you(トヨタはあなたのためにここにいる)」をキャッチコピーとするキャンペーンをスタートし、3月末まで、すでに購入している全国および地方の広告枠で展開している。トヨタの広報は、4月は例年売上が伸びる月ではないため、自然と広告費は減少すると述べたが、「状況は日々変化している」とも言い添えている。

その一方、日産(Nissan)は消費者に新たな支払オプションを知らせるメッセージ戦略に方向転換した。

「大半はいまも営業を続けている大切なディーラーを支援するため、我々は依然、全国と地方の別なく広告を出している。また、この難局において多少なりとも家計を援助できることを願い、既存および新規の顧客に対し、特別オファーや支払据置のオプションも提供している」と、日産の広報は声明のなかで述べている。

シボレー(Chevrolet)は当面、新たなメディアの購入を控え、「Chevy Cares(シェビーは気に掛けている)」キャンペーンに紐付けたメッセージ戦略に切り替えると、広報は述べている。同キャンペーンは、この難局中もシボレーは常に顧客のそばにいる――つまり、ディーラーと顧客に必要な部品やサービスなどを提供しつづける――といった印象づけを狙いとしている。スポンサーシップに関しては、現在、パートナーと協力して短期および長期的解決策を精査しているという。

他方、フォルクスワーゲンは新型SUV、アトラス・クロススポーツの発売に向けたキャンペーンの只中にあり、マーケティング活動には当然、相応の予算が組まれている。ただし、「新型コロナウィルスによる市場の不確実性に鑑み、もちろん、あらゆる選択肢を視野に入れている」と、同社広報は述べている。

いま広告主が把握すべきこと

オムニコム(Omnicom)と日産の共同エージェンシー、ニッサン・ユナイテッド(Nissan United)EMEAの元メディア部門トップでメディアコンサルタントのクリス・カーマイケル氏は、この現況下での支出について精査中の広告主には、自社のメディア支出の内、どれがアウェアネスとコンシダレーションに当たる部分で、どれがファネル下流へのコンバージョンに当たる部分なのか、明確に把握する必要があると語る。そしてさらに、ブランドの健全性を測る確かなメトリクスも欠かせない、とも言い添える。

価格が下がり、テレビ視聴者が増えているいま、「どこに、なぜ資金を注ぎ込むのかが鮮明に見えているならば、投入額を増やし、投資以上の利益を得られるチャンスはある」。だが、「そうするには、ほかを抑える必要もある」と、カーマイケル氏は語る。

新型コロナウィルス騒動がいつまで続くのか、そして状況がどこまで悪化するのかは、誰にもわからない――ただ、見通しは暗い。

残されている3つの選択肢

いま現在、依然として広告に支出できる体力のある企業には3つの選択肢があると、パリに拠点を置く大手広告代理店ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)のシニアアドバイザー、リシャド・トバコワラ氏は指摘する。

「(1)世界が何も変わっていない振りをする。(2)すべてのマーケティング活動を停止する。(3)マーケティング活動は続けるものの、世界の状況は変わったと認識し、メッセージを変える」。

「賢い人は、(3)を選択する」と、氏は言い添える。

Lara O’Reilly(原文 / 訳:SI Japan)
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