2020年、米国では30近くの小売企業が破産を申請し、何千もの店舗を閉鎖した。しかし、そのうち数社はオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group:以下、ABG)のようなコンソーシアムに買収されている。ABGの哲学はシンプルで、過去の勝利の上に成り立っている。
2020年は小売企業にとって厳しい1年だった。小売企業を見る目があるビリオネアでもない限りは。
2020年、米国では30近くの小売企業が破産を申請し、何千もの店舗を閉鎖した。しかし、そのうち数社はオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group:以下、ABG)のようなコンソーシアムに買収されている。もっとも新しいところでは、ABGがブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)、フォーエバー21(Forever 21)、バーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)を立て続けに買収した。いずれもそれぞれの理由で苦しんでいた小売企業だ。
ABGの哲学はシンプルで、過去の勝利の上に成り立っている。その哲学とは、安く買い、あらゆる局面で、あらゆる手段を使って利益を絞り出すことだ。パートナーシップ、ライセンス、利益をもたらすとわかっている事業だけを維持することなどが含まれる。2020年には、そのモデルがいまだかつてない規模に到達した。至るところで小売企業が破綻、炎上しており、ABGはそれを待ち構え、適切な物件を拾い上げるだけでよかったためだ。
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目論見が外れた2020年
2020年8月には、ABGとサイモン・プロパティ・グループ(Simon Property Group)が(合弁企業SPARC―サイモン・プロパティ・オーセンティック・リテール・コンセプツを通じて)ブルックス・ブラザーズを3億2500万ドル(約337億円)という安値で手に入れた。ABGが期待しているのはブルックス・ブラザーズの家具、下着、ネックウェア、靴下、靴、香水、美容といったカテゴリーのパートナー契約だ。CMOのニック・ウッドハウス氏は「ブランドプロミスを再定義し、未来を見据えて伝統を取り戻す」と説明する。過去のプロジェクトと同様、コスト削減、収益性の高い店舗への注力、オンラインでの存在感を4倍にするという手法が採用された。
ABGは長年、顧客が一目で認識できるという条件付きで、さまざまなビジネスを買収してきた。ポートフォリオにはスポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)、ジューシー・クチュール(Juicy Couture)、フレデリックス・オブ・ハリウッド(Frederick’s of Hollywood)、エルビス・プレスリー(Elvis Presley)などが名を連ねる。これらのほとんどが、ブランド名をライセンス供与し、わずかな売上を得るという仕組みだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)によれば、これらのブランドをすべて合わせると、売上は年間150億ドル(約1.5兆円)になるという。
しかし、新型コロナウイルスによって、こうしたビジネスの多くがいかに脆弱かが明らかになった。実際、多くの老舗小売企業が抱えていた長期的な問題が、わずか数週間で白日の下にさらされた。eコマースの実績が乏しく、立地と来客に依存し続けてきた百貨店のようなビジネスは、売上の枯渇を目の当たりにした。J.C.ペニー(J.C. Penney)は2019年9月、10億1000万ドル(約1048億円)の売上を計上したが、1年後の売上は6億9400万ドル(約720億円)だった。ノードストローム(Nordstrom)は大多数の老舗に比べ、業界の逆風に備えていると考えられていたが、それでも2020年第2四半期、53%の売上減を記録した。
起死回生の一手は不動産
ABGはポートフォリオに不動産を加えることで逆風に立ち向かおうとしている。大手デベロッパーとの提携は、小売企業を安く買うゲームの選択肢が増えることを意味する。小売コンサルタントのレベッカ・コンドラット氏は「ビジネスパートナーに大地主を務めてもらうことで、賃料を安く抑え、立地の戦略性を確保できる」と説明する。
コンドラット氏は両者の関係を互恵関係と表現する。ABGが斧を振ってブランドのぜい肉をそぎ落とし、「サイモンがモールの稼働率を維持し、テナントをつなぎ止める」
それでも、まだ動きはありそうだ。老舗ブランドのつまずきは続いており、「回収人」はほぼ確実な安売りを待ち構えている。次は誰の番だろう? 専門家の間ではサ・ラ・テーブル(Sur La Table)、さらにはAMCシアターズ(AMC Theatres)のようなショッピングモールの定番の名前が挙がっている。「(ショッピングモールの)テナントが破綻したら何が起きるのだろう?」とコンドラット氏は問い掛ける。「果たしてそれらも買うのだろうか?」
「まだ終わっていない」
次が誰であれ、ビリオネアたちは目を光らせている。小売アナリストのスティーブ・デニス氏は「間違いなく、副次的な影響はまだ終わっていない」と話す。「今後、信じられないほど大きな名前や資産が破格で売りに出されるだろう」。
[原文:How Authentic Brands Group has positioned itself as the 2020 repo man]
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:)