アウディ (Audi)は2020年9月、同社初の100%電気自動車、e-tron Sportbackを日本で発売開始。そのローンチキャンペーンでは、ヤフーのポータルサイトと、同社が有する無料動画配信サービスのGYAO!(ギャオ)が活用された。
最低価格は1143万円。そんな高級電気自動車という商材にもかかわらず、あえて積極的に幅広い層にアプローチを行う…。アウディ(Audi)ではいま、そうした壮大なチャレンジに取り組んでいる。
2020年9月に日本で発売開始された、e-tron Sportbackは、アウディ初の100%電気自動車(EV)だ。高価格帯に位置するこの次世代モデルには、アウディのサステイナビリティに対する想いが込められている。しかし高価格帯の製品となると、当然、購買に直結しそうなターゲットは高収入層になり、マーケットも限定される。なぜ、アウディはターゲットを広く設定し、キャンペーンを展開したのだろうか。
e-tron Sportbackのローンチキャンペーンについて、アウディ ジャパンのマーケティングコミュニケーション部でジェネラルマネージャーを務める、池田マーク信治氏はこう語る。「いまはクルマの購入を検討していない、もしくは電気自動車が検討のリストに入っていない層も将来の顧客として捉え、この先興味を持ってもらえるようなコミュニケーションと、コンテンツ作りを意識した。また今回のキャンペーンは、e-tron Sportbackのプロモーションとしてだけではなく、アウディのブランディング強化の意味合いもあった。サステイナビリティを重視している未来志向なブランドであることを、多くの方に知っていただきたいと考えた」。

e-tron Sportbackのビジュアル
キャンペーンの設計と成功要因は
まずオフラインでは、幅広い層のターゲットにリーチするため、テレビCMや新聞、雑誌、さらには屋外広告など、さまざまなタッチポイントを設けた。加えて、実際にe-tron Sportbackの優れた性能を多くの人に体験してもらえるよう、試乗イベントを充実させた。池田氏は、顧客に試乗してもらうことは「強力なブランド体験になる」と説明する。
そして、オンラインでは、Yahoo! JAPANへの出稿や、GYAO!におけるブランデッドコンテンツをはじめ、さまざまなデジタルコミュニケーションの展開を行った。
Yahoo!プレミアム広告(※)では、Yahoo! JAPANのトップページにバナーや動画を掲出する「ブランドパネル」や、トップページをジャックする「トップインパクト」など、リッチな広告メニューを活用。これらは、以前からアウディが新製品のローンチの際など、頻繁に活用している広告商品だ。過去にアウディが実施した、来店をKPIとするキャンペーンの重回帰分析で、Yahoo! JAPANのリッチな広告メニューが貢献していたことが分かっていたため、今回も出稿を決めたという。

掲出イメージ
ランディングページとして用意された特設サイトでは、アウディのサステイナビリティへの思いを伝えるブランディングコンテンツをはじめ、商品のスペックやデザインなどが確認できるほか、価格シミュレーションや試乗予約を行うことができる。のちの調査の結果、価格シミュレーションを実施した人のなかで、Yahoo!プレミアム広告を経由して訪れた人の割合が、非常に大きかったことが分かった。池田氏はその成功要因について「『ビッグな広告』から『リッチなサイト』という、上流から下流までのジャーニーをうまく構築できたためだ」と語る。

「メディア展開から実際の体験まで、多角的にコミュニケーションを設計した」と語る池田氏
「番組として楽しめる」コンテンツを
またGYAO!に関しては、オリジナル番組「ダレノガレ明美が挑む『サステイナブルLIFE』」を2020年9月より無料配信(現在は配信終了)。番組内では、ダレノガレ明美が三浦半島の養蜂家やオーガニック野菜の生産者、漁師を訪ね、豊かな自然を堪能しながら、これまで彼女があまり考えたことがなかったという、サステイナビリティの重要性を学んでいく。その後都内に戻り、今度は銀座の屋上緑化や明治神宮の森作りなど、身近な自然にも目を向けていく──動画のなかでダレノガレ明美がハンドルを握るのは、もちろんe-tron Sportbackだ。
池田氏は、若者を中心に人気を集めるダレノガレ明美を、今回のプロモーションに起用した理由を以下のように述べる。「現状、日本のEV市場はまだまだ小さい。アウディのサステイナビリティとモビリティの在り方に対する姿勢を伝えることで、お客様自身がそれを考えるきっかけにしていただき、その結果としてEV市場を拡大させたい、ということがひとつの狙いだった。そして、こうしたコミュニケーションを続けることで、若者が簡単に買えるような車種ではないかもしれないが、いつの日か購入を検討してもらえれば、と考えている」。
なお動画制作は、広告系のプロダクションではなく、GYAO!の番組制作チームが担当。これは、広告色の強い一方的なコンテンツではなく、「番組として楽しめる」、メディアに馴染むものである必要があったからだ。池田氏は「視聴者がタレントの気付きを追体験し、少しでもサステイナビリティを意識してもらう、そんなコンテンツを目指した」と述べる。
では、施策の結果はどうだったのか。番組によるブランドリフトの成果を分析したところ、広告認知やブランド認知は当然のこと、「興味」「理解」「好意」のスコアがすべて向上したという。「長尺動画の制作はかなりの労力が必要だったが、CMでは得られない効果があったと考えている」。

番組内では、ダレノガレ明美がさまざまな場所を訪れ、サステイナビリティの重要性を学ぶ
ヤフーとの強固なパートナーシップ
アウディとヤフーの、強固なパートナーシップも特筆すべきだろう。両社は1年以上前から、e-tron Sportbackのローンチキャンペーンについて、定期的なディスカッションを交わしていた。「ここでの議論は、ローンチキャンペーンの方向性を決める上で役立った」と、池田氏は述べる。
その際、議論のベースになっていたのが、ヤフーのビッグデータを活用したレポートだ。これは、Yahoo! JAPANに蓄積された、検索・広告・ニュース閲覧・ショッピング・地域情報といった、膨大なデータをレポート化したもの。このレポートでは、現在、日本におけるサステイナビリティへの興味層は少ないという事実が示されていた。そのため池田氏は、日本人のマインドセットを変化させていきたいという思いを持って、キャンペーンを展開させたという。

サステイナビリティに関するユーザーレポートの例
また、「ダレノガレ明美が挑む『サステイナブルLIFE』」の制作は、予定していた撮影が実施できなくなるなど、コロナ禍の影響を大きく受けた。実際、予想外の事態で企画は何度も暗礁に乗り上げたという。しかし「厳しい状況下でも密に連携し、より良いものを一緒に作ろうという気持ちで、社の垣根を越えて団結することができた」と、池田氏は当時を振り返る。

「社の垣根を越えて団結することができた」と池田氏。ブランド体験のタッチポイントとして東京・青山で展開しているアウディのブランドストア「Audi House of Progress Tokyo」にて
ブランドの思想に共感してもらうため
今回のローンチキャンペーンについて池田氏は、「一つひとつの施策すべてが、製品の販売台数にすぐに貢献するとは考えていない」と語る。ブランディングを主眼に置いたGYAO!での取り組みは最たる例だろう。
もちろん、企業にとって売上は重要だ。しかし現実として、国内におけるサステイナビリティへの関心度は低く、EVのメリットである「低環境負荷」という価値は伝わりづらい状況だった。そうなると、単純に製品を販売するためのコンテンツだけではなく、まずは「ブランドの思想に共感してもらえるようなコンテンツ」の展開が欠かせない。
池田氏は「ようやく日本でも、エコバッグやマイボトル、プラスチック使用量の削減に向けた運動が見られはじめている。今後、こうした流れはさらに加速していくだろう」としつつ、以下のように抱負を述べる。「サステイナビリティが、ある程度日本でも根付いたそのときに、生活者がe-tron Sportbackやアウディを想起してくれるように、今後も根気強く取り組みたい」。
アウディが実購買層以外にも強く商品訴求を続ける背景は、こうした点にあった。
特にデジタル広告においては、短期の獲得に主眼が置かれる傾向がある。しかし消費者がいつか欲しくなったときに想起され、選ばれるブランドになるためには、ブランドが本当に大切にしていることを広く発信し続けて、強力なブランド体験をしてもらい、共感を得ることが重要だろう。
将来の顧客を見据えた投資には、直近の販売数やKPIにとらわれない判断、そしてときに労力のかかるコンテンツが必要になることもあるが、アウディはチャレンジを続けている。
※現在、Yahoo!プレミアム広告はYahoo!広告 ディスプレイ広告(予約型)という名称に変更しています(2021年3月時点)
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(田崎亮子)
Photo by 合田和弘