DTC(Direct to Customer)ブランドの影響もあって、ポップアップショップの認知度は飛躍的に上がった。そして、2018年現在、主要な小売業者の戦略にとって、大きな役割を担うようになっている。最近ではAT&Tも、期間限定のポップアップショップを大幅に拡大すべく、基盤固めを進めている。
DTC(Direct to Customer)ブランドの影響もあって、ポップアップショップの認知度は飛躍的に上がった。そして、2018年現在、主要な小売業者の戦略にとって、大きな役割を担うようになっている。最近ではAT&Tも、期間限定のポップアップショップを大幅に拡大すべく、基盤固めを進めている。
AT&Tによると、2019年中に100のポップアップを立ち上げる計画があるが、これはアメリカ全土で1000の新店舗を作るという18カ月におよぶ壮大な計画の一部だという。AT&Tは、地方の田舎町や人口密度の高い都市部など、ブランド認知の低い地域の顧客にリーチするためにポップアップを活用しようとしている。AT&Tの顧客はオンラインで商品の下調べを行なっているが、売上の大部分を占めているのは店舗だ。ポップアップはリーチ拡大や地域開拓、新商品の売れ行きを試すうえでのリスクも低く抑えられる。
「新興地のコンドミニアムやアパートのコミュニティが若年層に人気があるが、我々はそのような人口密度の高い都市部でもっと認知度を上げる必要がある」と語るのは、AT&Tのスポークスマン、タイラー・ジェイコブソン氏だ。「我々は、デジタル化を推し進めてそれを伸ばすというアプローチを取っている。ほとんどの顧客がオンラインで商品を調べているのはわかっているが、最終的には店舗で購入している」。
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「期間限定」の長所短所
特に顧客が購入前に販売員と話して商品を実際に試せるという点で、AT&Tの5300もの店舗は売上を伸ばすための貴重な資産だ。ポップアップには60日間という建物のリース期間があるが、オンライン決済を好む顧客に対しても一定の満足感を与えている。AT&Tはポップアップのほかにも、素早くイベントを打ち出せるモバイル店舗や移動式の店舗を展開。低経費のポップアップストアは利益率も高く、期間限定の店舗であるため、売上に伸び悩む小売業者はリスクを管理できる。
ジェイコブソン氏によると、AT&Tはポップアップ戦略を含めた店舗の拡大計画をさらに進めるうえで、銀行や、眼鏡の小売をDTC形式で行うワービー・パーカー(Warby Parker)など、小売業界内から広く意見を集めたという。近年、ポップアップはオンライン限定の小売業者の間で人気が高まっているが、これは、しっかりしたテクノロジーを備えた実店舗を持つことで、顧客と長期的な関係を築くことができることに気づいたからだ。AT&Tも、実店舗内でセルフサービス型のキオスクや、シアトルでオープン間近の、顧客が買い物のほとんどを携帯電話から行えるカフェスタイルのアンテナショップなど、ハイテクな店舗を作り始めている。
ポップアップストアには、体験やリーチの機会があるが、「期間限定」であることが小売業者とってリスクになることもある。ソーシャルセリング型のマーケットプレイスであるファンシー(Fancy)創設者のジョセフ・アインホーン氏が米DIGIDAYに語ったところによると、「期間限定の」ポップアップへの投資が、顧客体験の価値を下げる可能性があるという。
「20店舗ほどの期間限定店舗を運用したが、家賃交渉や店舗工事、照明設備、WiFiセットアップ、スタッフ雇用など、いちからすべてやり直しになることに時間をかけすぎていたことに気づいた。顧客体験などの、本来大切なことに力を注げなくなってしまうのだ」と、彼は語る。
ビジネスの見極め方
AT&Tのジェイコブソン氏によると、ポップアップショップはその地域をよく知るために必要な柔軟性をAT&Tに与えてくれているという。小売業者には顧客が増えるかどうかテストする機会を与え、もし数カ月たっても十分な結果が出なければ、素早く別の場所に移ることができる。逆に、ポップアップショップが大きな利益を生み出していれば、営業期間を延長することもできると、彼は語る。
AT&Tによると、移動するかどうかの判断は、顧客の実店舗とオンライン両方でのトラフィック分析にもとづいているという。また、顧客が結果的に商品の購入に至るまでのプロセスを考えると、実店舗の重要性は高く、店舗を大幅に拡大する計画は、その多大な投資に十分見合っていたという(その金額は明かしてはくれなかった)。そして、AT&Tは顧客との対話のためにデジタルツールへの投資を並行して行うことで、コストを抑えながら実店舗の認知度を高めていくだろう。
たとえ期間限定の店舗だとしても、実店舗を持っていることがオンライン限定の小売業者との差別化になる。小売業者向けのeコマースのプラットフォーム開発を行う企業のフルーエントコマース(Fluent Commerce)でバイスプレジデントを務めるビル・フレンド氏によると、AT&Tが実店舗を持つのは当然の流れであり、その理由としては、家具と同様に、高額な電化製品は実際に目で見たい、という顧客も多いからだという。
外的要因による追い風
さらに、AT&T の計画がAppleの新しいiPhoneの発表の時期と重なっていたことで、ポップアップが顧客の新たな関心を引き寄せることにひと役買っていたと、eマーケター(eMarketer)のeコマースと小売部門でアナリストを務めるアンドリュー・リップスマン氏は主張する。
「ブランドの立ち位置を確かなものにするために、経済情勢の強い後押しや、大規模な携帯電話の新モデル発表のサイクルを利用しない手はない」と彼は語る。「ポップアップストアのコンセプトは、『鉄は熱いうちに打て』を実践できる柔軟性を持つことだ。だが同時に、顧客のニーズが緩みだしてきたときには、必要に応じて規模を縮小していくことも大事だ」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:Conyac)