サステナビリティを重視するジュエラーで大気中の炭素から作られたダイヤモンドを専門に扱うイーサー(Aether)は、3月2日に1800万ドル(約20億6800万円)のシリーズAの資金調達を行ったと発表した。この人口ダイヤモンドへの価値理解はどう進むのか?
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サステナビリティを重視するジュエラーで大気中の炭素から作られたダイヤモンドを専門に扱うイーサー(Aether)は、3月2日に1800万ドル(約20億6800万円)のシリーズAの資金調達を行ったと発表した。
Bコープ認証を得ているこのこのダイヤモンドブランドは、サステナブルでエシカルなスタートアップに焦点を当てた投資家グループから資金提供されている。最新の資金調達ラウンドは社会的意識の高い投資会社ヘレナ(Helena)とクリーンテックに特化したベンチャーキャピタルのトライテック(TRIREC)が共同主導し、アシュトン・カッチャー氏とガイ・オセアリー氏のベンチャーキャピタルであるサウンドウェイブ(SoundWaves)のほか、コースラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)とソーシャル・インパクト・キャピタル(Social Impact Capital)が参加した。イーサーの投資額は現在、合計2100万ドル(約24億1300万円)となっている。同社はニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトにある。
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天然ダイヤと同等の価値のある炭素回収ダイヤ
イーサーの技術は「高級ダイヤモンドジュエリーを買いたいが、環境や社会的観点から自分の価値観に合ったものがほしいという人々に向けて、この市場を開放するものだ」と、イーサーのCEOでライアン・シャーマン氏は述べている。彼はかつてジュエリー会社デヴィッド・ヤーマン(David Yurman)に勤めていた。
イーサーのダイヤモンドはラグジュアリーな価格帯で、コストと品質の両方の面で「天然ダイヤモンドと同様である」とシャーマン氏は説明した。同社は、炭素回収ダイヤモンドを採掘された天然ダイヤモンドと「原子レベルで同一である」と定義している。「消費者は、購入に付随するインパクトを理由に、追加の価格を喜んで支払うことに気づいた」。
シャーマン氏は、ダイレクトエアキャプチャー(DAC、大気中から直接CO2を回収する)技術に特化したスイスの企業クライムワークス(Climeworks)を紹介され、2018年からこのブランドに取り組み始めた。クライムワークスではCO2を液体の状態で地下に注入、CO2は特定の岩石層と反応して地下鉱化というプロセスを経て固体化する。同ブランドは主にクライムワークスから炭素を購入し、独自の施設でダイヤモンドに変換している。
大気中の炭素を取り出す技術をどう生かすか
クライムワークスは2017年度ヘレナ賞を受賞している。この賞は、自らを「グローバルな問題解決組織」と定義し、サステナビリティに注力した営利目的のスタートアップや非営利団体に投資するヘレナが与えるもので、クライムワークスには、ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting group)による経営とデジタルコンサルティングのサポート、カリフォルニア大学デービス校のビジネスインキュベータ・ワークスペースへのアクセス、ヘレナのブレーントラストのメンバーシップがあわせて与えられた。
ヘレナの創業者でCEOのヘンリー・エルクス氏は、「大気から吸い上げた炭素で実際に何かをできる会社があると知ったとき、すばらしいと思った」と話す。エルクス氏がイーサーを知ったのは、同ブランドに関するヴォーグ(Vogue)の記事を読み、ヘレナの過去の受賞者から炭素を購入していることに気づいたのがきっかけだったという。
「自分たちが空気中から炭素を取り出す新たな方法を開発する必要はないのはわかっていた。さらに、これらの企業が、自社が行っていることや取り出した炭素の使い道に関する運営コストや収益化にまつわる課題に直面しているという、いくつかの困難についても知っていた」とシャーマン氏は言う。
ラグジュアリーをサステナビリティにフォーカス
イーサーは2021年に製品販売を開始し、D2Cのeコマースサイトでダイヤモンドジュエリーを提供している。当初は婚約指輪からスタートし、その後ほかのカテゴリーへと展開しているが、とくにブライダルカテゴリーのマーケティングに力を入れている。そのマーケティングメッセージは、ラグジュアリーという位置づけとサステナビリティの双方に重点を置く。同ブランドでは、ダイヤモンド1カラットを販売するごとに、20メートルトンのCO2を大気中から除去していることをウェブサイトやソーシャルチャネルで強調しているが、これは平均的なアメリカ人の1年分以上の二酸化炭素排出量を相殺することになるという。
ジュエリーに関しては、イーサーではフェアマインド(Fairmined)が認証した販売業者から購入したホワイトゴールド、ローズゴールド、イエローゴールドのみを使用している。フェアマインドは、労働条件や環境保護に関する採掘基準を制定している団体だ。イーサーはリサイクルゴールドではなく、フェアマインドを選択した。
リサイクルゴールドには「多くのグリーンウォッシングが起きている」とシャーマン氏は指摘している。「たとえば、『汚い』やり方で調達したゴールドを使ってたくさんのジュエリーを作り、その製造過程で出たくずを集めて溶かして新しいジュエリーを作れば、いきなりそれはリサイクルされたということになる」。
天然ダイヤに代わる高級品を目指す
イーサーでは自社でジュエリーを製造するだけでなく、今年から卸売りも開始する。さらにラグジュアリーブランドへのダイヤモンドサプライヤーになるという可能性について、「さまざまなアッパーエンドのブランドと話し合っている」という。
イーサーが期待しているのは、人工ダイヤモンドの使用をためらう宝石商から天然ダイヤモンドに代わる高級品として位置づけられることだ。
「だれもが人工ダイヤモンドを採用するかどうかは、ある意味で大きな疑問がある。市場の上位に位置するブランドは、消費者の知覚価値の問題に対処しなければならない。おそらく自分たちの製品ラインが通常位置する場所と消費者の心の中で人工ダイヤが位置する場所が一致しないかもしれない」とシャーマン氏は述べた。
業界アナリストのポール・ジミンスキー氏によれば、ダイヤモンド採掘業界では人権侵害が横行しているという報告があり、消費者はますます人工ダイヤモンドに目を向けるようになっており、現在では人工ダイヤは世界のダイヤモンド取引の7.5%を占める。しかしイーサーでは、社会的責任をさらに一歩進めているという。
「人工ダイヤモンドの分野は、一見正直だと思わせるような問題のあるメッセージがあふれている。人工ダイヤモンドにも炭素という資源が必要なのだ」とシャーマン氏は述べた。
[原文:Atmospheric carbon-made diamond brand Aether raises $18 million]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)