これまで長年争ってきたソニーとマイクロソフトは、この秋発売予定のPS5と新型Xboxで再び対決する。だが、今回ほど「ゲーマーが求めていること」に対する考えの違いが鮮明になったのは初めてだろう。 手堅いコンシューマ向けゲーム販売モデルをとるPS5に対し、Xboxはサブスクサービスの販売を中核としているのだ。
ソニー(Sony)とマイクロソフト(Microsoft)は、この秋発売予定のプレイステーション5(PlayStation5:以下PS5)とXboxシリーズX/S(Xbox Series X/S:以下Xbox)で再び対決する。これまで長年争ってきた両社だが、今回ほど「ゲーマーが求めていること」に対する考えの違いが鮮明になったのは初めてだろう。
両社が市場に投入するビジネスモデルはまったく異なっている。ソニーはこれまでのゲーム機のモデルを踏襲。ハードウェアの価格設定も堅実で、実店舗での販売やPS5限定版のタイトルを重視しているのが見て取れる。一方、マイクロソフトはゲーム版Netflixのようなサブスクリプションサービス、Xboxゲームパス(Xbox Game Pass)を強化する見込みだ。これは、クラウドゲーミングへの進出を狙うAmazonやGoogleの出鼻をくじく狙いもあるだろう。
広告展開に注力するソニー
サブスクリプション専門の調査会社、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のコンサルタントであるギャレス・サトクリフ氏は「今回のソニーとマイクロソフトの戦いはあらゆる面で対照的だ」と語る。「マイクロソフトはサブスクリプションモデルに打って出た。長期間に渡ってXboxだけでなくPCやAndroidデバイスでもプレイできるゲームライブラリーを用意している。ソニーはあくまでこれまで成功を収めたモデルにこだわっている」(両社からは、この方針について本稿の公開時点までに回答をもらうことはできなかった)。違いはそれだけではない。各ゲーム機に対するマーケティング方法も異なっている。
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ソニーは発表から2カ月が経つPS5のマーケティングに、非常に力を入れている。直近の四半期で総収益の30%超、利益の半分以上を占めるゲーム事業に対し、大規模なマーケティングを展開しているのだ。一方、Xboxのマーケティングはそれと比べるといささか地味だ。広告数としてもそこまで多くなく、発売と同時に購入するコアゲーマーではなく、発売後に様子を見て買うカジュアルゲーマーに狙いを定めているようだ。
TV広告測定プラットフォームのアイスポットTV(iSpot.tv)が米DIGIDAYの依頼でおこなったデータ分析によると、8月1日から9月21日にかけてPS5は米国におけるテレビCMに1660万ドル(約18億円)を費やした。興味深いのは、この時期のCMではPS5のゲーム機自体が主役ではない点だ。「マーベル・アベンジャーズ(Marvel’s Avengers)」といったPS4の新作が、PS5でも発売されることを強調した内容のものも多い。その後の9月第4週にはクリエイティブエージェンシーのアダム&イブDDB(Adam&EveDDB)が製作したCMのなかで、PS5の没入感のある体験もアピールしている。
Xboxは対照的に、テレビCMはほとんど出していない。アイスポットTVによると、米国では8月1日から9月21日までの期間にXboxのテレビCMはゼロだ。さらに言えば、Xboxは2020年に入ってからほとんどテレビCMを出しておらず、今年の総額で470万ドル(約5億円)程度にとどまる。 そして、CMの大半は今年最初の4カ月間に放送されたものだ。対して同期間にソニーが投じた額は5370万ドル(約57億円)にもなる。
サブスク販売に注力するマイクロソフト
YouTubeにおける動きも異なる。 ソニーはYouTubeにPS5のプロモーション動画を多数投稿している。
YouTube動画の分析プラットフォームであるチューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、今年のプレイステーション関連動画のトップ10のうち8動画がPS5関連となっている。なかでもPS5のトレイラーは再生回数3280万回で、トップとなっている。世界中で700本以上のPS5関連動画が公開され、PlayStationのYouTube再生回数の25%以上を占める。
それと比べると、XboxのYouTube展開は少ない。だが光学ドライブ非搭載型のXboxシリーズSのトレイラーは630万再生と、同社のYouTube動画でもっとも再生数が多くなっている。
Xboxも11月の発売までにタイトルのランナップと合わせて存在感を増してくるだろうが、それはまだ先の話だ。これまでにわかっているXboxの位置づけからすると、マイクロソフトは家庭用ゲーム機というハードウェアを売っているのではなく、最新のXboxを使ったエンタテインメントサブスクリプションモデルを販売しようとしている。これはどんなマーケターにとっても難しい問題だ。
Xboxの事前予約でもその意図が窺える。英国におけるSeries Xの販売を例にとると、ゲーマーは小売店でXboxを449.99ポンド(約6万1000円、国内での希望小売価格は4万9980円)で買うことができる。あるいは、マイクロソフトに毎月28.99ポンド (約4000円)を支払い、XboxシリーズXとXboxゲームパス・アルティメット(Xbox Game Pass Ultimate)の24カ月アクセス権を手に入れてもいい。Xboxゲームパス・アルティメットは、これまでXboxで発売された100タイトル以上に加え、将来的にマイクロソフトやエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts:EA)が発売する全ゲームに、PCやモバイルからもアクセスできる。
SNS展開も控えめなXbox
Xbox関連の記事を掲載しているジェネレーションXbox(Generation Xbox)の編集長、TJ・エリクソン氏は次のように語る。「ソニーはPS5の販売に力を入れているが、マイクロソフトは消費者が自分でXboxのエコシステムへの参加方法を選択できるように選択肢を提示している」。
Xboxの宣伝がかなり抑え目なのも、このためと考えられる。ここ数週間、SNS上での宣伝ですら最低限のものになっている印象だ。パスマティックス(Pathmatics)によると、7月から8月にかけて、Facebookやインスタグラム、Twitter上にXboxの広告はほとんど展開されていない。
とはいえ、マイクロソフトの広告が少ないから消極的だと言い切ってしまうのも早計かもしれない。エンダース・アナリシスのサトクリフ氏は「最新のXboxを所有できるうえに、PS5の人気タイトルより安い値段を毎月払うだけで、大規模なゲームライブラリにアクセスできる」と指摘する。
差別化に成功するか
マイクロソフトのマーケティングは確かに積極的ではないが、この差別化からは強い攻めの姿勢が見て取れる。さらに、同社が時期を見極めてマーケティングを展開することも考えられる。
グリーンバーグ(Greenberg)の戦略コンサルタントで、ゲーム事業担当リーダーを務めるコリン・リアビック氏は「マイクロソフトの新モデルが提案する価値は非常に大きい。XboxゲームパスにおけるEAとの提携も強力だ」と語る。「だが、発売後に購入するカジュアルゲーマーにとって複雑なシステムになりつつあり、また、発売と同時に購入する一部コアゲーマー向けにPCからXboxの購入をオプトアウトできるようにしている。これによってカニバリゼーションにつながるリスクはあるだろう」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)