パンデミックも7カ月目に入り、ハイエンドな保健衛生製品を販売するD2Cブランドに消費者の注目が集まっている。防災グッズのキットを販売するジュディ(Judy)、洗浄便座を扱うD2Cブランドのトゥッシー(Tushy)、空気清浄機メーカーのモレキュル(Molekule)などが、売上を伸ばし続けているのだ。
新型コロナウイルスのパンデミックも7カ月目に入り、ハイエンドな保健衛生製品を販売するD2C(Direct-to-Consumer)ブランドに消費者の注目が集まっている。
防災グッズのキットを販売するジュディ(Judy)や、洗浄便座を扱うD2Cブランドのトゥッシー(Tushy)、空気清浄機メーカーのモレキュル(Molekule)など、健康や安全に関連する製品のブランドが、売上を伸ばし続けている。こうした現象は、2次効果だ。パンデミックでも最初の数カ月は、食品や日用品といった生活必需品を販売する企業がeコマースの売上を大きく伸ばしていた。だが、今売れているのは、家やオフィスを清潔に保ち、感染から守ることを目的とした、より高価な商品だ。
「場所に対しても、高い衛生状態を」
モレキュルの場合、商品ラインナップを一般消費者向け以外のところにまで拡大したことも売上増の一因となっている。399ドル(4万2187円)から購入できる空気清浄機を扱うD2Cブランドである同社は、中小企業向けにプロ仕様の空気清浄機、エアープロ(AirPro)の販売を開始した。米国食品医薬品局(FDA)の認証を取得したというこのモデルは、室内に浮遊しているエアロゾル化したRNAウイルスMS2(新型コロナウイルスとして知られるSARS-CoV-2のテストケースとなるウイルス)を、30分で99.99%除去できるという。モレキュルのリピーターは、2016年の創業から200%増加した。また、一般消費者向けモデルであるエアー(Air)も毎月完売が続いている。
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サンフランシスコを拠点とするスタートアップのモレキュルは、今年はじめにはAmazonで、7月からは米大手家電量販チェーンのベスト・バイ(BestBuy)でも製品の販売を開始している。CEOのジャヤ・ラオ氏は米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、「買い物に対する消費者の関心が変わってきた」のを感じていると語っている。パンデミックが続くなか「健康に対する消費者の意識が高まっており、その関心は食べ物や水にとどまらなくなっている」という。そして「自分たちが訪れる場所に対しても、高い衛生状態を求めるようになった」と述べている。
さまざまな事業の営業が再開した頃、モレキュルの製品には、歯科医院や、少人数を対象に屋内での飲食物提供を始めたレストランなどから問い合わせが寄せられるようになった。そうして新しくパートナーとなった企業のひとつに、元NFL選手のバーノン・デービスがフランチャイズ経営しているスムージー・ジュースブランド、ジャンバ(Jamba)の店舗がある。また、医療機関を対象とした製品のエアープロRX(Air Pro RX)は、病院の待合室などにも導入されているという。
米市場調査企業のリサーチ・アンド・マーケッツ(Research and Markets)は、世界の小型空気清浄機市場の規模は、2019年は82億7000万ドル(約8743億円)だったものが、2027年には137億5000万ドル(約1.4兆円)にまで成長すると予測している。モレキュルは2月にシリーズCラウンドで5800万ドル(約61億円)を調達しており、シリコンバレーでのこの分野に対する期待の高まりが伺える。
目下、アメリカ西海岸で大気の質が悪化しているのも、消費者が環境の安全への懸念を高めているもうひとつの原因だ、とラオ氏は指摘する。山火事や地震などの環境災害が猛威を振るっているため、それに備えようとする消費者の意識が高まっている。
「健康に優しい代替品」と「危機への備え」
そしてモダン・リテールが以前にも報じたように、トイレットペーパーが店舗の棚から消えるのと同時に売上を急速に伸ばしたのが、洗浄便座だ。洗浄便座を販売するD2Cブランドのトゥッシーの場合、パンデミックの初期には売上が1週間で10倍になった。3月の販売数は2019年度の20倍を記録し、その後は昨年の5倍程度で推移している。
「医師の診察を受けられなかった時期、裂傷や尿路感染症の予防にトゥッシーを使っているという声がユーザーから寄せられていた」と語るのは、創業者でCEOのミキ・アグラワル氏だ。また、洗浄便座は健康に優しい代替品というだけでなく、トイレットペーパーの廃棄量を減らすという効果もあり「持続可能性の観点からも優れている」とも指摘する。
そして、2020年にもうひとつ注目の最前線に躍り出たのが、危機への備えだ。この分野で好調なD2Cブランドのひとつに、防災キットを販売するジュディがある。創業者でCEOのサイモン・ハック氏は、「自然災害に弱いコミュニティで、売上の驚異的な伸びが続いている」と語っている。
ジュディでは、顧客が防災キットを一度購入して終わりにならないよう、さまざまな対策を講じている。ハック氏によれば、パンデミック発生直前だった8カ月前にブランドを立ち上げて以降、同社がブログやメール、テキストメッセージなどで発信している防災準備のヒントや手引きの購読者は5万人以上になっているという。また「世界の終わりまであなたを導くポッドキャスト」という触れ込みのポッドキャスト番組「エマージェンシー・コンタクト(Emergency Contact:緊急連絡先)」も9月末にスタートさせた。この番組の狙いは、ポップカルチャーに焦点を当てたコーナーや有名人へのインタビューなどを通じて、同社の「防災」というミッションを広めていくところにある。
本業部分では、同社は現在50の州に3万人の顧客を抱えている。また先日は、マスクや手指消毒剤などのウイルス伝播防止グッズを詰め合わせた45ドル(約4758円)の外出用防災キット、ザ・セイフティ(The Safety)も発売した。
「贅沢品」から「必需品」へ変化
インフルエンザのシーズンが来ても、米国内での新型コロナウイルス感染症の拡大は続きそうだという見込みもあり、モレキュルやトゥッシーといった企業への関心は今後も高まりそうだ。空気清浄機や洗浄便座は、アジアや中東では一般家庭にも普及しているが、米国ではこれまで贅沢品だと捉えられていたと、ラオ氏は指摘している。「だがそうした考え方も、今年ですっかり変わってしまうだろう」
[原文:As the pandemic continues, high-end health and safety products see increased traction]
GABRIELA BARKHO(翻訳:半井明里/ガリレオ、編集:長田真)