パンデミックの初期、リテールメディアは数少ない勝者のひとつとなった。広告主が消費者の行動を追い、小売店や食料品店が運営するオンラインメディアチャンネルに広告費を移動したためだ。
パンデミックの初期、リテールメディアは数少ない勝者のひとつとなった。広告主が消費者の行動を追い、小売店や食料品店が運営するオンラインメディアチャンネルに広告費を移動したためだ。
こうした動向を踏まえると、CVSやホーム・デポ(Home Depot)などの小売企業が独自のリテールメディアを構築し、広告主に売り込みはじめたことは不思議ではない。直近では、ウォルグリーンズ(Walgreens)が、12月にウォルグリーンズ・アドバタイジング・グループ(WAG)の設立を発表し、広告費の獲得競争に参戦している。
広告主のリテールメディアへの関心が高まっている背景のひとつは、サードパーティCookieの完全廃止が迫っていることが挙げられる。小売企業各社はこれを見据え、自身が持つファーストパーティデータをビジネス活用できるよう、仕組み作りを進めてきた。そんななかパンデミックが起きた影響で、広告主のリテールメディアへの関心はより一層高まっているのだ。実際、米DIGIDAYが4月に報じたとおり、消費財(CPG)だけでなく、電子機器やパーソナルケア、衣料品、医薬品といったカテゴリーの広告主が、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)、インスタカート(Instacart)、Amazonに広告費を投資している。
Advertisement
広告バイヤーたちによると、ウォルグリーンズ、CVS、ホーム・デポなどの小売企業は、新しいリテールメディアネットワークを立ち上げ、Amazonやウォルマート、ターゲットに追い付こうと躍起になっているというが、こうした動きは市場の混雑を招いているという。
どのメディアも似通っている
クリエイティブと戦略を専門とする独立系エージェンシー、メニー(Many)のメディアディレクター、アレックス・バーンズ氏は「ウォルグリーンズの担当者は、『リテールメディアのあり方』について書かれた説明書を購読しているのではないか」と話す。バーンズ氏によれば、ウォルグリーンズはほかのリテールメディアと同様、サードバーティCookieの消滅を引き合いに出し、「上質で決定的なファーストパーティデータ」という謳い文句を掲げ、広告主へのセールスを進めているという。「(ほかのリテールメディアネットワークとの)違いを理解するのは非常に難しい。CVSにも同じことがいえる」。
リテールメディアは通常、(たいていロイヤルティプログラムを通じた)ファーストパーティデータへのアクセスだけでなく、広告が購買につながった場合、どのポイントが購買に寄与したかの効果測定の正確性を、広告主に売り込む。さらに、彼らは総じて、小売企業の電子メールやソーシャルチャネルといった、デジタルプロパティにも広告を掲載できる点を強調する。このように、新しいリテールメディアネットワークは中身が似通っているため、広告主にとっては、どれを選べば良いか、決めるのが難しいという。
マーケティングエージェンシー、ティヌティ(Tinuti)のマーケットプレイス戦略サービス担当シニアディレクター、エリザベス・マーステン氏は「ウォルグリーンズ、CVS(あるいはほかのリテールメディアネットワーク)、どのプレイヤーにどれだけ広告費を投じるか、いかに決めればよいのだろう?」と疑問を述べる。「多くのリテールメディアが、広告主の予算を狙っているが、最終的にどう判断したらよいのだろう? 広告主はこのような疑問を口にしている。そして誰もその答えを知らない。先に売った者が勝者になるというのが現状だ」。
現状は、答えより疑問が多い
リテールメディア市場が混雑するにつれ、小売企業が広告主にリテールメディアネットワークを売り込むためのB2Bマーケティングも、活発になっている。その結果、エージェンシーのもとにも、リテールメディアネットワークに関する問い合わせが増えていると、前出のバーンズ氏は話す。同時に、「リテールメディアを無視できない広告主が急速に広がり」、それは消費財分野以外にも拡大しているという。
広告バイヤーたちはこうした状況を踏まえ、2021年、広告主にとって大切なのは、どのリテールメディアネットワークを優先し、どこに広告費を投じるかをいかに早く決断できるかだと、口をそろえる。というのもリテールメディアが成長すれば、顧客が重複する可能性が高まるためだ。たとえば、消費財の広告主が小売企業のメディアネットワークと、インスタカートに広告を掲載した場合(その小売企業がインスタカートの配達に対応しているため)、広告費を二重に使い、同じ顧客にリーチすることも考えられる。
「来年、広告主は予算の兼ね合いに頭を悩ませることになるだろう。多くの小売企業が予算に群がり、広告主が想定している以上の金額を要求してくる可能性もある」と、マーステン氏は話す。「もうすぐ2021年第1四半期に突入しようとしているが、現状は答えより疑問の方が多い状況だ。特に、実店舗に関しては今後の予想が立てづらい」。
いずれにせよ、リテールメディア市場はまだ初期のフェーズにある。ワンダーマン・トンプソン・コマース(Wunderman Thompson Commerce)のマーケットプレイスサービス担当プレジデント、フランク・コチェナッシュ氏は「我々はいま成長期、拡大期にある」と述べている。「リテールメディアネットワークが成熟すれば、誰が勝ち、誰が統合されるかという次の展開が見えてくるだろう」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)