コロナ禍以降、カクテルやスピリッツの代替品を提供するスタートアップが大きな成功を収めている。人々がストレスを抱えがちないま、アルコール市場の売り上げは依然として代替品市場をはるかに上回っているのは事実だ。しかし、今年になってノンアルコール飲料は、以前にも増して脚光を浴びているようだ。
いま、ノンアルコールビールが注目を集めている。アルコールの代替品市場は何十年も前から存在するが、コロナ禍以降、カクテルやスピリッツの代替品を提供するスタートアップが大きな成功を収めているのだ。
人々がストレスを抱えがちないま、依然アルコール市場の売り上げは代替品市場をはるかに上回っているのは事実だ。しかし今年に入り、ノンアルコールのスピリッツやカクテルブランドが、以前にも増して脚光を浴びている。
実際、シードリップ(Seedlip)、リチュアル・ゼロプルーフ(Ritual Zero Proof)、キュリオス・エリクシール(Curious Elixirs)といった飲料ブランドは、記録的な売上を記録している。自宅で毎日嗜むカクテルよりも、健康的な代替品を探している消費者が存在するためだ。これらスタートアップの多くは、4月以降、2ケタの売上成長を達成しており、実店舗向けの流通業者やアルコールコングロマリットからの関心が高まっている。ノンアルコール飲料ブランドは、いまだD2Cや業務用の販売に依存するところが多いが、そんななかでも、こうしたブランド勢は、酒店や食料品店のあいだで存在感を高めているようだ。
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業界内でも注目を集める
ノンアルコール飲料市場は以前から成長していた分野だが、コロナ禍がそれを加速させた。調査会社のスタティスタ(Statista)は、米国市場におけるノンアルコール飲料業界の売上は、今年2億8000万ドル(約290億円)近くを記録し、2025年までには年間成長率7.1%に達すると予測している。
また、これまで禁酒制度を設けている国でも、ノンアルコールビールの売上がさらに伸びている。2016年には、世界で135億ドル(約1兆4200億円)超だった同市場の成長率は、2024年までに、年間7.5%にまで達すると予想されている。
業界内部でも、ノンアルコール市場に注目が集まっている。今年1月、ディアジオ(Diageo)は、昨年9月に創業したリチュアル・ゼロプルーフの一部株式を買い取ったことを発表。同社がノンアルコールのベンチャー企業に出資するのはこれで2度目だ。2016年6月には、同社のアクセラレータープログラムを提供する企業、ディスティル・ベンチャーズ(Distill Ventures)を通じ、英国のシードリップの株式を一部取得している。また、今年9月、大手酒造メーカーのモルソン・クアーズ(Molson Coors)は、ノンアルコール飲料の第一弾としてプロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物、または、それらを含む商品や食品など)を含む人工炭酸水「ハッツァー(Huzzah)」を発表した。
背景には健康意識の高まりか
ノンアルコールカクテルブランド、キュリオス・エリクシールの創業者、ジョン・ワイズマン氏によると、同社は現在、年間で2倍の成長を遂げているという。キュリオス・エリクシールの商品は、アルコール飲料をそのまま模倣することを目指していない。キュリオス・エリクシールが販売しているのは、カクテルにアダプトゲン(adaptogens:不安、肉体的疲労などのストレスへの抵抗能力を高める働きを持つハーブ)を加えた、炭酸入りカクテルといった商品だという。たとえば、同社の主力商品であるキュリオス・エリクシールNo.1は、昔ながらのネグローニをノンアルコールにアレンジしたものだ。
ワイズマン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、「今年、我々の売上は非常に好調だ」と語る。また、ノンアルコール市場にさまざまなブランドが参入したことで、同市場全体が盛り上がりを見せていると同氏は続ける。1月の時点で、すでに前年比300%増を記録していたキュリオス・エリクシールのECサブスクリプションサービス、「カクテルクラブ」の売上は、3月末にロックダウンがはじまると、前年比600%にまで跳ね上がった。同社のカクテルセットは現在、キュリオス・エリクシールのサイト上でのみ販売されている。また今秋には、プライベートパーティーなどの予約ができる、ブランデッド・スピークイージー(speakeasy:レトロスタイルのバー)をニューヨークでオープン予定だという。
ワイズマン氏は、コロナ禍で毎日のように自宅で飲む人が増えるなか、健康的な飲料の需要が増えていると分析する。「消費者はアルコールよりも健康的、かつリラックスできる飲み物を求めている。また、好奇心も理由のひとつに挙げられるだろう」と同氏は語る。「もちろん、当社の商品が好評で、さまざまな出版物で取り上げられているのも背景にはあるだろう」。
同社は、パンデミックがはじまった当初の数カ月間、生産が需要に追いつかず(あえて)広告費を削減していた。現在のオンラインマーケティングの支出額は、通常の水準に戻っているという。「当初我々は、高級料理に合う商品のリリースなどを予定していたが、コロナ禍による既存商品の好調ぶりを受け、戦略を変更した」とワイズマン氏は語る。
チャネルの拡大も
また、2019年にディアジオに買収され、ノンアルコールのスピリッツを製造しているシードリップで、米国のマーケティング責任者を務めるケイト・メリマン氏は以下のように語る。「顧客はカクテルのように楽しめて、アルコール摂取量を減らせる商品を探している」。同社では、パンデミックがはじまった時点で、すでにオンライン、つまりD2C販売に対応できるインフラが整っていた。こうした状況もあり、以前までは高級バーやレストランへの流通に力を入れていた同社だが、現在は、専門店やAmazonでの販売にも注力しているという。
「ここ数カ月、カスタマーのあいだで、我々が提供するノンアルコール飲料への関心が高まり、より受け入れられやすい空気が広がっている」と、メリマン氏は続ける。なお、米国でのアルコールの店舗における取り扱い方は州ごとに異なるため、同社はマーケティングの焦点を、家庭内消費と祝いの席をメインに絞っているという。
さらにメリマン氏は、「自宅で新しいものを試そうと考える顧客が増えている」と指摘する。同社は、新規顧客にリーチするため、さまざまな手法を試みている。たとえば、無料の電子書籍でレシピを提供したり、IGTVでモクテル(ノンアルコールカクテル)をトピックとしたシリーズ番組をホストするなど、新たな取り組みをはじめているという。なおいずれも、シードリップのWebサイトで販売されている商品を使って、自宅でノンアルコール飲料を楽しむ方法を提案している。
実店舗展開を進める
リチュアル・ゼロプルーフは、テキーラやジン、ウイスキーのノンアルコール商品を販売する企業だ。共同創業者で最高ブランド責任者を務めるマーカス・サキー氏は、「『3杯目のカクテル』や、アルコールを減らしたい人のために最適な商品だ」と語る。2019年の販売以降、同社の需要は「天井知らずに増え続けている」という。
リチュアル・ゼロプルーフは、米国ではAmazonで購入できるほか、トータルワイン(Total Wine)やビニーズ・ビバレッジ・デポ(Binny’s Beverage Depot)といった全米で展開されている酒屋130店舗でも購入できる。2月から4月には、半年分の商品がわずか5週間で完売したという。さらに4月から8月にかけて、同ブランドの月間売上は281%の大幅増を記録。
また、同社の商品は10月からABCファインワイン&スピリッツ(ABC Fine Wine & Spirits)120店舗にも置かれる予定だという。サキー氏は、「来年までに、全米の大多数の食料品店で取り扱ってもらうことを目指す」と語る。
大手から投資の話も
前出のキュリオス・エリクシールのワイズマン氏は、ノンアルコールの認知度が高まるなか、モルソン・クアーズやディアジオから投資の話を持ちかけられていると明かす。同氏は、現時点ではそうした提案を受け入れてはいないという。「この業界には、多数の成功企業を生むだけの余裕がある」と語る。「そのためには、カスタマーに新しいものを提供し続ける必要があるだろう」。
上記の創業者らは、同分野の成長の背景にあるのは、これまで愛飲していた商品を見直す顧客が増えていることを挙げる。リチュアルのサキー氏は、「我々はアルコールに反対しているのではなく、肯定的な選択肢のひとつを提供しているのだ」と語る。そして、D2Cチャネル以外に店舗販売が増えつつあることについては、次のように述べた。「ノンアルコール飲料が、単なるニッチな商品以上の立ち位置を獲得しつつある証拠といえるだろう」。
[原文:As pandemic fatigue sets in, alcohol alternative brands are booming]
GABRIELA BARKHO(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)