ショッピングモールが、来店客の減少が続く状況から脱却しようと、ライブコマースに乗り出している。これからは、ライブコマースがより一般的になるかもしれない。
ショッピングモールが、来店客の減少が続く状況から脱却しようと、ライブコマースに乗り出している。これからは、ライブコマースがより一般的になるかもしれない。
ミネソタ州に本拠を置くモール・オブ・アメリカ(Mall of America)は、ライブコマースアプリのポップショップ・ライブ(Popshop Live)を手がけるポップアップ・テクノロジーズ(Popshop Technologies)と提携し、この秋から自社の店舗でストリーミング配信を開始した。また、米国内に100件を超えるショッピングモールを所有する、商業不動産会社のサイモン・プロパティ・グループ(Simon Property Group)も、ライブストリーミングアプリのショップショップス(ShopShops)と提携したと報じられている。パンデミックによる売上の減少が長期化するなか、彼らはライブコマースによって、顧客が店舗に来なくても商品が売れるようになることを期待している。
こうした企業の動きに対応するべく、プラットフォーマーたちもライブコマース機能の追加や拡張を実施している。Facebookは2020年秋、インスタグラムでのライブコマースに対応する機能を追加し、その後Facebook自体にもライブコマース機能を拡張している。またAmazonも、長らく放置状態だったAmazon Live(アマゾン・ライブ)にインフルエンサーを引き寄せる取り組みをはじめている。そして直近では、ウォルマート(Walmart)がTikTokを活用し、ライブコマースをはじめることを明らかにした。新たに参入した彼らの狙いは、2021年にライブコマースをさらにプッシュするための準備を整えることだ。
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ここ5年ほどのあいだ、話題先行気味だったライブコマースが、2021年には米国で大流行するかもしれない。苦戦が続くショッピングモールは、そのような状況を利用したいと考えているのだ。
小売業界を救う可能性
「ライブコマースは、小売業界を救う可能性があると思う」。こう話すのは、小売り・テクノロジー業界の調査企業、コアサイト・リサーチ(Coresight Research)の創設者でCEOを務めるデボラ・ウェイスウィング氏だ。同氏によれば、ショッピングモール企業の取り組みはこの点を確かめるのに最適な事例になるという。「モールや各店舗に、複数のライブストリーマーがいたらどうなるだろうか」と、同氏は問いかける。ウェイスウィング氏が思い描いているのは、複数のホスト役が巨大なモールのあちこちを紹介して回る姿だ。オーディエンスは暇な時間にそのライブコマースにアクセスし、めぼしい新商品がないかチェックする。買いたい商品が見つかったら注文し、カーブサイドピックアップでその商品を受け取ることができる、といった具合だ。
もっとも、モール・オブ・アメリカ(Mall of America)やサイモン・プロパティ・グループ(Simon Property Group)のライブコマースは、いまのところウェイスウィング氏が考えているような野心的なものではない。モール・オブ・アメリカの場合、配信するライブコマースは1種類だけで、店舗を訪れるホストもひとりだ。サイモンのライブコマースについては、詳細は明らかにされていない。
ウェイスウィング氏が考えているモデルは、むしろ中国やシンガポールで成功している戦略に近いだろう。今年の夏、シンガポールのショッピングモール、サンテック・シティ(Suntec City)は、ショッピングアプリのサンテック・プラス(Suntec+)でライブコマースを配信。40社以上のブランド企業が参加した。さらに、シンガポールのもうひとつの主要なショッピングモール、キャピタランド(CapitaLand)も、数カ月後に独自のライブコマースイベントを開催するなど、あとに続いている。上海にあるショッピングモールの新世界城も同様のイベントを開催し、13万人のオーディエンスを集めた。なおこのイベントの参加企業には、ディオール(Dior)やアディダス(Adidas)、レゴ(Lego)などが名を連ねている。
モール・オブ・アメリカの取り組み
これに比べ、モール・オブ・アメリカのライブコマースはいまのところ規模が小さい。同社の事業開発担当シニアバイスプレジデントのジル・レンスロー氏によれば、まだプロジェクトの初期段階とはいえ、同時視聴者数は平均で100人ほどだという。
同社はストリーミング配信のホストをひとりしか置いていないが、ホストを務める人物をときどき入れ替えている。これまでに、レンスロー氏を含むモール・オブ・アメリカの従業員や、同社のマーケティング担当バイスプレジデントがホストを務めてきたという。なお今後は、インフルエンサーのホストを増やす予定だという。実際最近では、ファッションデザイナーでリアリティ番組『プロジェクト・ランウェイ(Project Runway)』の卒業生でもあるクリストファー・ストラウブ氏のほか、ミネソタ州で人気のラジオ司会者など、地元の有名人もホストを務めている。
レンスロー氏によれば、ライブコマースでは個性の強い店舗の商品がよく売れる傾向があるという。同氏は成功例として、玩具ショップのレガシー・トイズ(Legacy Toys)や、高級ジュエリーショップのスワロフスキー(Swarovski)の名を挙げた。また、店舗が自分の店を取り上げてもらうために、ライブコマースのアイデアを売り込んできたり、モール・オブ・アメリカの方から店舗にアプローチしたりすることもあるという。大抵の場合、店舗は商品を取り上げてもらうのと引き換えにディスカウントを提供している。
ライブコマースが通常のeコマースより優れている点は、顧客に新商品を知ってもらうのに非常に効果的だという点だと、レンスロー氏は話す。従来のオンラインストアでは、顧客はすでに知っている商品に引き寄せられることが多い。これに対し、ライブコマースではホストが顧客に商品を紹介する。「重要な点は、普段なら買わないようなブランドや商品を見てもらえることにあると思う」。
視聴規模に課題
とはいえ、単発のライブコマースだけでモール・オブ・アメリカが救われることはないだろう。というのも、同社における5月の収益は、コロナ禍による営業制限により85%下落している上、施設の賃料支払いも遅れている。
レンスロー氏は、ライブコマースは対面での買い物に取って代わるものではなく、どちらかといえば、来店することに気が進まない人を呼び戻すための「補助的な手段」として見ているようだ。現在、同社のストリーミングのオーディエンスの75%は、州外の人で占められており、同氏は「我々の狙いは、彼らを惹きつけて店舗に足を運んでもらえるようにすることだ」と語っている。
しかしモール・オブ・アメリカのライブコマースは、オーディエンスの規模感に課題がある。提携先のポップショップは評価額1億ドル(約102億円)の企業だが、ソーシャルやeコマースの世界ではどちらかといえばマイナーな存在で、今年の夏の時点でのアプリの1日あたりのユーザー数は3200人程度に過ぎないと、インフォメーション(The Information)は報じている。それでも、ほかにも規模の大きいプラットフォーマーがライブコマースに参入してきたことは、苦戦が続く小売業者にとってはメリットがある
プラットフォーマーへの期待
一方ウォルマートも、先週TikTokと提携してライブコマースを試験的に開始。これは、ウォルマートにとってはじめてのライブコマースの取り組みとなる。その中身は、インフルエンサーが自宅でクローゼットの中身を紹介したり、ランウェイショーを開催したり、ダンスコンテストを開いたりするといった内容。配信中は同社のアパレル製品が表示され、カートに追加できるようになっている。
20億人以上のユーザーを抱えるTikTokをはじめ、プラットフォーマーによる大々的な取り組みが、不調に喘ぐショッピングモールにとって救いの手となる可能性がある。「ライブコマースが、当社にとって効果的な戦術になることを期待している」と、レンスロー氏は述べている。ただし同氏は、新しいライブコマースのテストを続けながらも、あくまで同社の狙いは人々を店舗に呼び戻すことにあるとする。「鍵となるのは、ゲストが得られる体験に常に焦点を当て、人の流れを実店舗に呼び戻せるようにすることだ」。
[原文: As malls and Walmart enter the fray, livestream shopping is becoming more mainstream]
MICHAEL WATERS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)