新型コロナウイルス感染症の大流行にもかかわらず、桁外れな売上増を計上しているD2Cブランドは少なくない。需要がほぼ消滅しているカテゴリーは別として、さまざまなブランドが年内を乗り切れるだけの利益を手にしているという。今回、米DIGIDAYはD2Cスタートアップ5社を取材し、各社の取り組みをレポートしている。
この3月、自然派デオドラントを販売するキュリー(Curie)のサラ・モレットCEOは、年内の予定や計画を心ならずも放棄した。
創業2年目を迎えるキュリーでは、コロナ禍より前にハンドサニタイザーの製法を開発し10月の発売をめざしていたが、アメリカで広がる健康不安に対応するため製品の製造開始を前倒しすることにした。いくつかのフィットネススタジオと商品の委託販売契約を締結しその発表を間近に控えていたのだが、どのフィットネススタジオもこのさき数カ月では再開のめどが立たないことがわかってきた。その一方で、モレット氏はライフスタイルブランドのアンソロポロジー(Anthropologie)との業務提携を成功させ、先週同社の店舗とウェブサイトでキュリーの製品を販売しはじめた。
すばやい方向転換が功を奏した。モレット氏によると、キュリーの収益は3月から6月にかけて前月比で平均110%成長した。
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「勢い」のあるD2Cブランドたち
新型コロナウイルス感染症の大流行にもかかわらず、桁外れな売上増を計上しているD2Cブランドはキュリーだけではない。米DIGIDAYが話を聞いたもっとも強気の個人投資家たちでさえ、フォーマルウェアや旅行用品など需要がほぼ消滅しているカテゴリーは別として、ポートフォリオ内の企業の多くがコロナ禍中に大幅な売上増を達成していることに驚いている。
だが大きな問題は、いったいいつまでこの桁外れな成長が続くのかということだ。新型コロナウイルスの感染者が再び増加に転じ、カリフォルニアやテキサスをはじめ一部の州では再度の営業自粛を迫られている。にもかかわらず、議会では失業給付の増額措置について小競り合いを演じる始末だ。こんなことでは、D2Cが享受しているeコマース事業の成長に歯止めがかかるのではないかと案じてしまう。
今回、米DIGIDAYは各社各様のD2Cスタートアップ5社を取材したのだが、いずれも彼らを不安にさせる逆風の兆しはいまのところ見られないという。そして各社とも、パンデミックの初期に現金確保の措置を講じたこと、さらにはパンデミックのさなかに顧客の獲得コストが下がったことで、年末まではどうにか乗り切れると自信を見せた。ベビーカーや子供向けの家具を販売するラロ(Lalo)と、塗料ブランドのクレア(Clare)の2社は、7月の収益が6月を上回る見込みという。クレアのニコール・ギボンズCEOによると、「商品の性質上、需要は常にあるが、一般的にペンキが一番売れるのは、春夏の数ヶ月だ」という。
一方、モレット氏によるとキュリーは7月の最初の2週間に前月同期比で1桁台の売上減を経験したが、その後、売上は再び好転した。スポーツウェアブランドのヴオリ(Vuori)では、eコマース事業の売上が3月から7月にかけて329%増を記録した。7月も需要は伸びつづけているが、反面、在庫切れの問題も起きている。CEOのジョー・クドラ氏は、この問題が売上増の阻害要因になるかもしれないと見ている。
「eコマースへの広範なシフトは、このまま持続するだろう」とクドラ氏は言う。同氏によると、ヴオリでは今年の第2四半期、新規顧客の獲得数で前期比220%増を達成した。今年いっぱい、主にリテンションに注力してこの勢いを維持したいという。
基本に立ち返る
高級スポーツバッグを販売するカーラ(Caraa)は、今回取材したD2Cスタートアップのなかで、もっとも大きな打撃を受けたブランドだ。というのも、同社のバッグは旅行やジム通いなど、現状では実行不可能な活動向けの商品であるからだ。CEOのアーロン・ルオ氏によると、カーラの売上は4月と5月に急落したが、7月初めあたりから回復しはじめているという。
ここ数週間に見られたいくつかの傾向から、ルオ氏は年内については少し楽観的になったという。ひとつには、同社のもっとも高価な商品のひとつが、現在一番の売れ筋となっている。さらに、顧客が購入前にカーラのウェブサイトで費やす時間が伸びている。ルオ氏によると、「いまのところは買い控え」という様子がうかがえるという。
とはいえ、厳しい年の備えとしてルオ氏はこの春、できるだけ多くのカーラのベンダーと交渉を行った。さらにカーラが垂直統合型の企業で、在庫を綿密に管理できることからも、同社の事業が年内は「健全な状態」を維持できるだろうとルオ氏は自信を持っている。
彼ら創業初期のD2Cスタートアップたちは期待以上の売上増を享受しているが、現在の成功に満足しているわけではない。クレアのギボンズ氏によると、コロナ禍のおかげで、同社はいくつかの計画を保留にせざるをえなかった。だがその代わりに、この数ヶ月をかけてロイヤルティプログラムを立ち上げたり、商品の組み合わせを容易にするなど、ウェブサイトの改善に注力してきた。分析レポートの改善にも取り組んだ。一方、キュリーのモレット氏は、売上は好調としながらも、ここ数カ月は在庫の管理に力を入れていると語る。同社は昨年、何度か在庫切れを経験しており、今年は同じ轍を踏みたくないという。「勢いに水を差すなという教訓を学んだ」とモレット氏は振り返る。
モレット氏は、キュリーがここ数ヶ月に経験してきた売上増をありがたく思う一方、この状態が永遠に続くとは考えていない。「(売上は)常に右肩上がりというわけにはいかない」と同氏は言う。「流動的で、移ろいやすい要素がいくつもある。起業家として、会社の経営には浮き沈みがあることを承知していなければならない」。
[原文:As headwinds emerge, DTC brands bet on early growth to carry them through the rest of the year]
ANNA HENSEL(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)