2020年に入り、収益性の高いポートフォリオビジネスを構築する目的で、Amazonのサードパーティセラーの買収に乗り出す企業が増加している。これらの企業は、通常50万~500万ドル(約5200万〜5.2億円)と引き換えに、Amazonで成功を収めているサードパーティセラーを買収する。
Amazonセラーの世界にベンチャーキャピタル(VC)資金が殺到しはじめている。
2020年に入り、収益性の高いポートフォリオビジネスを構築する目的で、Amazonのサードパーティセラーの買収に乗り出す企業が増加している。これらの企業は、通常50万~500万ドル(約5200万〜5.2億円)と引き換えに、Amazonで成功を収めているサードパーティセラーを買収し、手に入れた商品を大きなコングロマリット化する。こうした企業の成長は、巨額の外部資金が流入することで、Amazonセラー界隈の様相が変化することの前兆なのかもしれない。
Amazonにとって2020年は飛躍の年となっており、多くの企業がこれに便乗しようとしている。もちろん、サードパーティセラーも例外ではない。Amazonは第3四半期、前年同期比53%増のサードパーティ売上を記録した。eマーケター(eMarketer)によれば、米国では2020年、デジタル売上全体の38%をAmazonが占めているという。Amazonは自社のeコマースの優位性を証明し、一部のセラーは売上の記録的な伸びを経験している。だからこそ、サードパーティセラーの事業を傘下に収めようとするプレイヤーが現れているのだ。
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Amazonセラーのビジネスが形になったのは、ここ5年のあいだだ。しかしエンパイア・フリッパーズ(Empire Flippers)のようなベテラン企業は、2013年ころから、Amazonセラーの買収を続けてきた。この数カ月のあいだに、Amazonセラーのビジネスは10億ドル(約1000億円)規模に急成長。セラーと買収企業の取引を仲介するハーンベック(Hahnbeck)の経営者、タリアセン・ハリウッド氏は「ほかのセクターでは一部の投資家が消極的になっているが、eコマース界隈は、コロナ禍をきっかけに好調を維持するところか、期待がより高まっている」と話す。
2020年に入ってから、これまでの大型投資のおかげで、買収を行った企業は莫大な利益を手にしている。その1社がスラシオ(Thrasio)だ。同社は2018年に創業されたばかりだが、すでにユニコーン企業の地位を獲得している。クランチベース(Crunchbase)によれば、同社の評価額はちょうど10億ドル(約1040億円)を超えたところだという。スラシオは、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、現在同社はAmazonでの販売用に8000~9000の商品を用意しているという。
しかしスラシオは、Amazonセラーの盛況ぶりを示す事例のひとつにすぎない。ほかにも、10月に1億2300万ドル(約128億円)を調達したパーチ(Perch)、101コマース(101 Commerce)、9月に8700万ドル(約91億円)を調達したブーステッド・コマース(Boosted Commerce)、そして「ヨーロッパのスラシオ」を自称するヒーローズ(Heroes)などがいる。ハリウッド氏は、この世界に飛び込んできそうな企業の噂を、さらにいくつか聞いているという。「とにかく莫大な資金がつぎ込まれている」。
買収企業のビジネスモデル
なお、スラシオのような企業のほとんどは、サードパーティセラーからAmazonのアカウントと知的財産を買い取る。また、セラーに対して収益分配を提案することもあれば、セラーを完全撤退させることもあるという。後者の場合、買収側は完全な支配権を得ることになる。そして、自社の物流、法務、クリエイティブチームを駆使し、すでにAmazonで成功している商品を本物のヒット商品に変える。ハリウッド氏によれば、ほとんどの買収取引は、セラーの年間純利益の3~4.5倍に相当する金額で成立するという。なお、買収企業のポートフォリオは家庭用品、DIY用品、掃除用品、衣料品、子供用品、ペット用品といったカテゴリーの企業で占められている。
スラシオは、新しいAmazonセラーを買収すると、すぐにいくつかの変更を加える。まず、潜在的な法律上の問題を回避するため、商品ごとに徹底的なコンプライアンスチェックを行う。実際、セラーの輸出承認書に不備があったケースに何度か遭遇したこともあるという。また、通常は商品価格の値下げも実施する。大量購入し、有利な製造委託契約を結ぶためのリソースがあるためだ。さらに、パッケージのデザインを変更したり、商品に新色を追加したり、商品情報を書き換えたり、商品が高品質に見えるよう、プロによる写真撮影を行うなど、表面的な部分の修正が入ることもある。創業者のジョシュ・シルバースタイン氏は「醜いブランドを、洗練されたブランドに変えたこともある」と話す。
ただし消費者にとっては、商品そのものは変わっていないように見える。スラシオは、買収したセラーの社名とAmazon内の店舗は、そのままに維持することにしている。変更を加えるとしても、「スラシオのパートナーブランド」と書き添えるくらいだという。
一方セラーにとっては、バイアウトそのものに魅力がある。「2年前は、最初からイグジット(事業売却等による利益確保)するつもりでビジネスを立ち上げる人など、いないだろうと思っていた」と、シルバースタイン氏は振り返る。しかしセラーは、返品や物流に関する顧客の厳しい要求と日々闘っており、いまや買収は彼らにとって魅力的なものになっているという。「はっきりいえるのは、Amazonでビジネスを運営、拡大、維持することはとてつもなく難しいということだ」。
買収されるセラーの条件
スラシオにとってのスイートスポットは、年間売上100万~500万ドル(約1億〜5.2億円)のAmazonビジネス。市場価値は十分だが、あまりに規模が大きくなり、セラーの小規模なチームではまとまらなくなったビジネスだ。
スラシオは、モダンリテールの取材に対し、あまり手を出したくない商品カテゴリーをいくつか挙げている。ひとつ目は生鮮食品。ふたつ目はスニーカーのような返品率が高い商品だ。また、数年後に重要度が低くなりそうなテクノロジーも敬遠している。「陳腐化する可能性があるものは手を出したくない」と、シルバースタイン氏は説明する。
しかしそれ以外のカテゴリーであれば、スラシオはほとんど何でも買収する。ただし、同社は商品カテゴリーに関すること以外に、買収する際のルールを掲げている。そのひとつは、オリジナルブランドの商品を持つセラーであること。スラシオにとって、Amazonでのリセールビジネスは、拡大が容易ではない。また、Amazonはリセラーに対しオリジナル商品を持つセラーと同レベルの知的財産保護を提供していない。
セラーへの接触方法と緻密な評価方法
通常、買収企業はセラーに突然連絡し、Amazonマーケットプレイスでの日々の苦労から、簡単に解放される方法があると話を持ち掛ける。
もちろん、裏側でセラーの価値を評価した上でだ。前出のブーステッド・コマースの共同創業者、キース・リッチマン氏によると、同氏のチームはスコアカードシステムを用い、商品ごとに買収の価値があるかどうかを評価していると話す。セラーの評価、歴史、販売の傾向、レビュー数を基準にスコアを付けている。もちろん例外もあり、すべての評価はほかの商品カテゴリーや競合相手によって増減される。リッチマン氏によれば、ひとつの買収を成立させるまでに、1000以上の競合に対してこうしたスコア評価を行っているという。
スラシオのような企業は、特定のカテゴリーにおける人気商品を持つセラー狙っている。売上の観点からすれば、これは戦略的に重要なことだ。ハリウッド氏によれば、Amazonで一度1位や2位を獲得した商品が、その座を失うことはめったにないという。「Amazonのアルゴリズムは、勝者が勝つようにできている」。そうしたアルゴリズムの現実があるからこそ、スラシオやブーステッド・コマースのような買収企業が存在するのだ。サードパーティセラーにとって、トップの座を獲得できる商品を作り上げることは並大抵のことではない。しかし、「いったんその座を獲得すると、人々が心から買収したいセラーになる。同じことを成し遂げる方が、買収するよりはるかに難しいためだ」と、ハリウッド氏は話す。そのため、スラシオのような企業はゼロから商品をつくって売り出すのではなく、Amazonのアルゴリズムに愛されている商品、つまり確実な勝者を手に入れて、さらに改良しようと考えるのだ。
情勢が一変する可能性も
当然ながら、こうしたロジックには巨大なリスクが伴う。それはAmazonだ。Amazonがアルゴリズムを見直すことを、セラーやブランドは常に恐れている。商品ランキングが変わってしまう可能性があるためだ。買収企業はこの落とし穴を十分に認識しているとハリウッド氏は話す。多くのポートフォリオがさまざまな商品の寄せ集めになっているのはそのためだ。
商品を多様化しておけば、たとえAmazonがアルゴリズムを書き換えても、「すべての商品が影響を受ける可能性は低い」(たとえば、スラシオのポートフォリオはAmazonの商品カテゴリー全体の85%を網羅しているという)。
ハリウッド氏によれば、買収企業は一般的に、サードパーティセラーのビジネスを丸ごと買い取る傾向にあるという。会社とその商品の完全な権利を取得するというやり方だ。また、典型的な買収と異なり、Amazonビジネスのオーナーがそのままとどまることはあまりない。「典型的な市場とは全く異なる。普通は、オーナーがいなくなった途端、ビジネスが行き詰まるものだが、この市場はオーナーを必要としない」。
状況は変わりはじめている
ただし、すでに状況は変わりはじめている。競争の激化に伴い、セラーを買収後、彼らにそのまま仕事を任せるケースが増えているという。「彼らが(オーナーを)必要としているわけではなく、ただ取引を魅力的にするためだ」と、ハリウッド氏は説明する。
Amazonビジネスの買収はまだ新しい概念だが、Amazonで商品を販売する意味について、さらに大きな変化が起きる前触れかもしれない。Amazonのセラーは小さなビジネスだと広く考えられている。しかし、巨額の買収資金が押し寄せているため、2年をめどに大きな企業に売却するつもりで、セラーがAmazonビジネスを立ち上げる未来が訪れることは想像に難くない。シリコンバレーのスタートアップと同じだ。ハリウッド氏が指摘している通り、「ビジネスを構築し、すぐに売却することが可能になった」のだ。
一方セラー側は「自分たちには買収という選択肢がある」ことに、気付きはじめたところだ。ハリウッド氏は11月初旬に話したあるセラーのことを教えてくれた。このセラーは、10年以上前からフルフィルメント by Amazon(FBA)を利用しているが、「そのようにビジネスを売却することが可能だと知ったのは昨年だ」と話していたという。
[原文:As e-commerce skyrockets, Amazon seller acquisition companies are booming]
MICHAEL WATERS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)