米国を拠点とするブランドたちは、ライブストリーミング・ショッピングを活用する方法を模索しながら、ストリーミングに出演する人材を調達するためにさまざまなアプローチを取っている。ライブストリーム・ホストは、ただインスタグラムでフォロワーの多い人物をカメラの前に登場させるよりも複雑だからだ。
「後払い決済(the buy-now-pay-later)」サービスを提供するクラーナ(Klarna)の最高マーケティング責任者であるデーヴィッド・サンドストローム氏は、自分の会社のライブストリーム配信のホストを誰に頼むべきかを考えていた。
2021年、ほかの小売業界の多くと同様に、クラーナはライブストリーミング・ショッピングに多額の投資をしている。12月にはライブスタイル(Livestyle)というファッションショーをアプリ内でライブ中継し、3月上旬にはメイシーズ(Macy’s)と雑誌コスモポリタン(Cosmopolitan)と共同で数日間の「ホーリデイ(Hauliday)」イベントを開催した。このイベントはメイシーズのニューヨークの旗艦店で収録され、オーディエンスはライブ配信プラットフォームのショップショップス(ShopShops)を通して視聴した。
サンドストローム氏は、ショッパブル(購入可能)なライブストリームに期待している。これらのストリームでは、熱心な番組ホストがさまざまな製品を試し、コメントを通して何時間もオーディエンスと話をする。この現象の先駆けとなった中国では、ライブストリーミング・ショッピングは660億ドル(約7.2兆円)のビジネスだ。現在アメリカでは、ノードストローム(Nordstrom)、Amazon、モール・オブ・アメリカ(Mall of America)、TikTok、ウォルマート(Walmart)をはじめとする数百ものブランドがこのメディアの普及に努めている。その結果、小売業において「ライブストリーム・ショッピングのホスト」という新たな職業が台頭している。
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しかし、サンドストローム氏やほかのエグゼクティブたちにとって、どのようなホストを起用するのが正解なのかはあまり明確ではない。彼によると、大きな疑問は「すでに有名な人を起用するのか、それとも新しい人をそのための人材として生み出すのか」という点だ。アメリカでは、QVCがテレビショッピングの技術を完成させている。彼らが起用するホストたちは親しみやすいと同時に、カメラアングルにも驚くほど熟達している。しかし、それらのホストたちはそれぞれ6カ月間のトレーニングを受けており、研修期間が長いことは新しいライブストリーミング・ショッピングのモデルに合わせるのを難しくしている。さらに、オンラインライブ配信のオーディエンスは、これまでのテレビのオーディエンスとは異なっている。適切な人材を見つけることは、まだ解決されていない難問だ。
米国を拠点とするブランドたちは、この手法を活用する方法を模索しながら、ストリーミングに出演する人材を調達するためにパッチワーク的なアプローチを取っている。Twitch(ツイッチ)やインスタグラムのインフルエンサーと提携するブランドもある。また、ライブストリームの番組ホストを専門とする新規従業員や請負業者を雇う企業もある。さらに多くの企業が、エグゼクティブから販売担当者に至るまで、自社の従業員を利用して自社のストリームを行っている。
中国では、ライブストリームショッピングの番組ホストとして働くことが、ますます一般的になっている。番組ホスト業だけで正社員並の給与を稼ぐことができるインフルエンサーは一部に限られているが、2019年の調査によると、中国のライブストリームホストの約24.1%が毎月1444ドル(約16万円)以上稼いでいると答えており、平均収入は年々増加している。
ライブストリーム・ホストは、ただインスタグラムでフォロワーの多い人物をカメラの前に登場させるよりも複雑だ。ライブストリーム・プラットフォームのショップショップスのプレジデントを務めるアーリン・デヴィッチ氏は、「(ライブストリームのホストを務めることは)まさに芸術だ」 と語る。
ホストがライブストリームを成功させるためには、素晴らしい映像を作るだけでは十分ではない。彼らはプロダクトを熟知していなければならないし、配信のエンゲージメントを維持するために、コメントを投稿するユーザーと(ときには一度に何時間も)会話できなければならない。インスタグラムやTikTok出身のインフルエンサーの多くがライブストリーミングによるショッピング配信を試し始めているが、ひとつのプラットフォームで成功したことが、別のプラットフォームで成功する保証はない。「インスタグラムのインフルエンサーとしてのスキルは、ライブ配信販売のスキルとは大きく異なる」と彼女は言う。
新しいキャリアの道
現在、ライブストリーミング・コンテンツの奪い合いは激化しており、小売業界の大企業たちがコンテンツを追い求めている。Amazonのライブストリーム・ショッピング用プラットフォームであるAmazonライブ(Amazon Live)は、主に外部のインフルエンサーによるコンテンツで埋め尽くされており、インフルエンサーは自分が参照した販売に対して手数料を得る。しかし、Amazonは自社の公式ストリーミングもいくつか持っており、そのなかにはAmazonライブ・ディールズ(Amazon Live Deals)というものがある。そこでは広告主はセグメントの真ん中に最低3万5000ドル(約380万円)で広告枠を購入できる。
これらの公式ストリーミング番組を編成するために、Amazonはこの1年間で、カメラに映り、オーディエンスと対話する12人近いオンエア・ホストを雇った。Amazonライブのホストのひとりであるケイティー・サンズ氏は、Amazonに起用される前はインスタグラムのインフルエンサーでファッションブロガーだった。彼女は請負業者として支払いを受けており、販売ごとに価格の一定割合を受け取る形ではなく一括の手数料を得ているという。
ライブストリーミング・ショッピングはまだ始まったばかりなので、インフルエンサーとの提携がもっとも一般的な戦略のようだ。たとえばインスタグラムのインフルエンサーであるタリン・トゥルーリー氏は、YouTubeでJCペニー(JCPenney)のライブ配信を行っている。「多くの企業が、こうしたインフルエンサーを採用したり、長期契約を結んだりする手法を選んでいることは知っている」とサンドストローム氏は語る。
インフルエンサーが人気の高いホストである理由のひとつは、ファンを呼び込めることだと同氏は指摘する。一般的に、米国では「人々はライブ配信イベントを自ら見ようとはしない」と同氏は言う。世界でもっともトラフィックの多いウェブサイトのひとつであることを誇るAmazonでさえ、ショッピング可能ライブ配信では百人単位のオーディエンスしかいないという。(Amazonライブには、ライブストリーム中に何人のオーディエンスがチャンネルを合わせているかを示すカウンターが含まれている)。
小売店に大規模なライブ配信を専門とするインフルエンサーを提供する代理店も数多く生まれている。ひとつはスタートアップのバイウィズ(Buywith)で、5月にブランドとライブストリーミング・ショッピングに詳しいインフルエンサーを結びつけるマーケットプレイスをローンチする。CEOであるアディ・ローネン氏は、ライブストリーム・ショッピングに投資することに関心のある小売業者やブランドにスケールを提供しようとしていると語った。「たとえば、月に4回や10回のセッションを行っているところを、月に数百回のセッションへと増やすことができる」と彼女は言った。
バイウィズはインスタグラムライブやYouTubeで活動している潜在的にストリーマーになれるインフルエンサーたちを見つけ出し、ライブストリーミング・ショッピングのホスティングの準備としてリハーサルを行う。「私たちは特に大きなインフルエンサーをスカウトしているわけではない。なぜなら、(有名なインフルエンサーだからといって)彼らがライブストリーミングショッピングに長けているとは限らないからだ」と彼女は言う。その代わりに、フォロワー数が2万人ほどでも「エンゲージメント率は実際には高い」中間層のインフルエンサーに焦点を当てている(ほかの多くのブランドも、ほかのマーケティングキャンペーンでも同じようなマイクロインフルエンサーたちに注目している)。
ショップショップスも同様のサービスを提供している。外部のブランドは自社従業員を使って同プラットフォーム上でストリーミングをホストすることもできるが、同社はブランドのためにライブストリーミング・ホストのチームも提供している。現在、世界中で約500人のホストが利用可能だという。同社は2月、次のライブストリーミング・ホストを雇うためのキャンペーンを開始し、参加者に白無地のTシャツをどのように販売するか、を示すアピール・ビデオを提出するよう求めた。同社によると、優勝者は1万ドル(約110円)の前払い金と、同社のためにストリーミングをホストする1年間の契約を受け取るという。
ショップショップスは定期的に「ライブストリーム・ホスト(Livestream Host)」と「ライブストリーム販売員(Livestream Sales Associate)」 の求人情報も掲載している。同社のデヴィッチ氏は、どのようにしてホストを見つけるのかは明らかにしなかった。「それは秘伝のソースのようなもの」と彼女は言った。しかし、「もっとも良いホストの何人かは学生だ。彼らはFIT(ニューヨークのファッション工科大学)を卒業し、買い物が好きで、一番いいショップがどこかを知っている」と続けた。
販売員からライブストリーミングのホストに
外部にインフルエンサーの人材を求めるブランドもあれば、社内から人材を求めるブランドもある。「いくつかのブランドは、彼らが抱える売り上げトップの販売員から選んでいる」とデヴィッチ氏は言う。売り上げは、ライブストリームのオーディエンスと上手く繋がりを持つことができるかを、よく示す指標のひとつだと彼女は信じている。
たとえば、イタリアのファッションブランド、モティヴィ(Motivi)は、彼らが持つ200店舗において、販売員たちに自社のウェブサイトで直接、商品のライブストリーミング配信をさせている。これらの販売員は新製品を紹介し、チャットで買い物客とのエンゲージメントを持っている。ライブストリーミングが彼らの職務内容にひとつ追加された形だ。
ほかのブランドでは、社のエグゼクティブがライブストリームに出演している場合もある。モール・オブ・アメリカの事業開部門シニア・バイスプレジデント、ジル・レンスロー氏は以前、モダンリテール(Modern Retail)に対し、彼女自身が同社のライブストリーム・イベントの少なくともひとつでホストを務めており、彼らのイベントはポップショップ(Popshop)を通してストリーミングされると語った。3月にライブストリーミング・ショッピングのプラットフォームを開発したノードストロームは、外部の専門家が参加してストリーミングを行うイベントを行っている。また、ファッションやジュエリーのバイヤーを含むノードストロームの幹部陣が交代で各スピーカーを紹介することを行っている。
ビューティ・ブランド「タッチャ(Tatcha)」の芸術・教育部門グローバルディレクターを務めるダニエル・マーティン氏は、ライブストリーミング・ショッピング用プラットフォーム「ニューネス(Newness)」で毎週ストリーム配信を行っている。マーティン氏によると、週に1回のストリームは現在の仕事の「おそらく5%」を占めるという。ニューネスの前は、インスタグラムライブでストリーミングをホストしていたが、当時は自分がエキスパートだとは思っていなかったという。「非常に洗練された人、極めて有名な人、もしくはQVCの訓練を受けた人は必要ないと思う」と彼は言った。「必要なのは、会話ができ、オーディエンスと本当に本物のつながりを持てる人だ」。
ブランド投資の拡大
しかしタッチャは、ライブストリーミングをマーティン氏だけに頼っているわけではない。同社は近く外部のクリエイターを起用した配信を計画しており、将来のホストに関しては社内にも目を向けている。マーティン氏に加えて、同社は(エグゼクティブではなく)現場部門の関心のあるメンバーを起用しつつもある。「私たちの製品やブランドについて話をするとき、(現場のスタッフ)こそが専門家だ」と同社の広報担当者は述べた。「社内にスタッフがいれば、必ずしもアウトソーシングする必要はない」。
ほかの小売およびeコマース・ブランドも同じ考えを持っている。eコマース企業のボーダーXラブ(BorderX Lab)は最近、ライブストリーム・ホスト(Livestream Host)の人材の募集を発表した。その職務内容によると、週に2〜3回のストリーミングで「製品に命を吹き込み、製品に対する欲求を生み出す」ことができる人物を探しているという。しかし、小売業者やブランドがライブストリーミングのホストをフルタイムで雇うことはまだ珍しい。モダンリテールが話を聞いた多くの企業では、とりあえず様子見のアプローチが取られている。ホストとしての正式な役割を構築する前に、ライブストリーミングがどれほど大規模になるかを見極めたいと考えているようだ。
ライブストリーム・ショッピングの成長は、潜在的なホスト人材以外にも需要を生んでいる。多くの企業が、店舗やオフィス、あるいは完全にほかの場所に、ストリーミングを実施できる物理的なスペースを求めるようになっている。クラーナのサンドストローム氏は、「純粋にこれだけに特化したスペースがますます増えている」と語り、同社がストリーミング用に使っているスタジオスペースがいくつかあることを指摘した(ひとつはロンドン、ひとつはロサンゼルス、ひとつは北欧)。古い、閉鎖された店舗を使用したこれらのスペースは「ラグジュアリーの対極」と彼は形容した。「(スペースは)地下室が多いのが、スクリーンで見ると、当然素晴らしい見栄えになる」と彼は言った。
サンドストローム氏が最近考えている議題のひとつは、撮影状況をどれほどしっかりと、もしくは控え目にするかどうかだ。ライブストリーミングを計画しているときには、「インフルエンサーにライブカメラを送って、彼らのキッチンで撮影させるか?」、そうして彼らが日常を送るなかでプロダクトについて会話をするのか、といった疑問や提案に取り組んだ。全体的には、「まだデータを集めている最中の事柄がたくさんある」と彼は言った。
ライブストリーミング・ショッピングが米国で普及すれば、才能ある人材を調達するためのパッチワーク的なアプローチが、より正式なライブストリーミング職に統合されるかもしれない。ショップショップスのデヴィッチ氏は、「将来は誰もがライブ・コマース部門を持つようになると思う」と述べた。
将来的は、米国の多くの小売業者や小売ブランドが現在行っていることよりも、はるかに突発的(計画的でない)に見えるかもしれない、と彼女は言った。同氏によると、オーディエンスがスケジュールされた配信にチャンネルを合わせるのではなく、「ある店の店長が、『しまった、20枚のトレーナーを売らないと!』と言って」ストリーミングを開始し、オーディエンスに販売する状況を予想しているという。
[原文:As brands take livestreaming more seriously, hosts become a hot commodity]
MICHAEL WATERS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)