[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ほとんどの新興の小売業者にとって、自社配送は費用がかかりすぎて、検討対象にすらなっていない。それが可能なのは、Amazonやウォルマート(Walmart)くらいだろう。だが、オンライン家具販売のアーティクル(Article)は、ラストワンマイルの配送を担う専門チームを立ち上げた。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]オンライン家具販売のアーティクル(Article)が、ラストワンマイルの配送を担うアーティクル・デリバリー・チーム(Article Delivery Team:以下、ADT)を立ち上げたのは、顧客体験を顧客の自宅に至るまでコントロールできるようにするためだった。
そのために、同社は9台の配送トラックを購入し、ニュージャージーとロサンゼルスの自社倉庫に近いエリアで商品を配送している。1台のトラックを5名のドライバーのチームに割り当てているため、ドライバーの数はカスタマーサービス担当者の2倍に及ぶ。おかげで、彼らはアーティクルで買い物をした顧客に、いわゆるフルデリバリーサービスを提供できるのだ。
これは、ドライバーが家具を部屋まで運んで設置したうえ、その場で顧客のあらゆる質問に対応するというサービスだ。ラストワンマイルの配送を自社で行うことによって、顧客体験を適切にコントロールしたり、配送時間などを顧客と細かく調整したりできるようになったと、共同創業者兼CEOのアーミル・ベイグ氏は説明する。注文を受けてから商品を届けるまでの時間は、運送業者を利用した場合と比べて平均で2日早くなった。この利点を活かし、ADTを展開しているエリアでは翌日配送サービスを提供している。
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自社配送の可能性
ほとんどの新興の小売業者にとって、自社配送は費用がかかりすぎて、検討対象にすらなっていない。それが可能なのは、Amazonやウォルマート(Walmart)くらいだろう、だがベイグ氏は、外部の配送業者と提携するよりも、自社でシステムを構築するほうがコスト効率が高いと主張する。また、利益を上げることにも成功しているという。同社の発表によれば、2017年には1億ドル(約110億円)の収益を記録した。
「我々が自社でこのような結果を達成している理由は、中間業者を排し、その代わりにサービスの向上、配送時間の短縮、正確な配達時間、スタッフのレベルアップを実現しているからだ」と、ベイグ氏は語る。「このレベルのサービスをパートナーとの提携によって実現しようとすれば、さらにコストがかかるのが普通だ」。
ラストワンマイル配送、返品処理、短期納品など、物流にまつわる問題への対処は、デジタルビジネスが継続的な成長をもたらすものになるか、プレッシャーで立ち行かなくなってしまうかの分かれ目となる。マーケティング戦略がどれほど優れていても、実際の改変作業に伴う多額のコストと資金によって、ビジネスの芽が摘まれてしまう可能性があるのだ。
配送を極めるアーティクル
アーティクルは、配送や設置からカスタマーサービスにいたる業務を、人の顔が見えるサービスとしてひとつに統合することで、効率重視のAmazonよりも魅力を高めたいと考えている。今後は、1年半をかけて、トロント、ボストン、ワシントンDCなど顧客の多い都市にADTを展開する計画だ。Amazonに対抗し続けるには、このようなエンドツーエンドの顧客体験が欠かせないと、マーケティング担当ディレクターのダンカン・ブレア氏は述べている。
アーティクルは配送期間をますます短縮しており、注文の80%は2週間以内に、30%は1週間以内に配送している。翌日配送や当日配送もADTによって実現した。ベイク氏は、顧客体験を自社でコントロールすることで、ビジネスにハロー効果がもたらされるはずだと考えている。
また、アーティクルはビジネスをますます洗練させている。テクノロジーを活用して、トラックへの積み荷の並べ方、配送ルート、注文状況に基づく在庫の引き取りを最適化しているのだ。「我々はこの仕組みを、ビジネスを完全なものにするためのゲートウェイと捉えている」と、ベイグ氏は語った。
Amazonは救世主になるか
とはいえ、すべてのブランドが配送トラックを購入しているわけではない。
デジタルブランドは、Shopify(ショッピファイ)でサイトを開設したり、Facebookのキャンペーンを利用したりすることで、顧客に大きなインパクトを与えてきた。だがいまでも、無料配送や即納サービス、無料で手軽な返品サービス、至れり尽くせりのカスタマーサービスなどを提供して、顧客の大きすぎる期待に応えることを余儀なくされている。これはコストのかかる仕事だ。投資家に対して将来の利益性を証明しなければならないブランドにとっては、特にそうだろう。
小売ビジネスにまつわるほかのさまざまな業務と同じように、ブランドが最終的に行き着く場所はAmazonなのかもしれない。Amazonは、マルチチャネルのフルフィルメントサービスを小売業者(Amazonのマーケットプレイスを使用している業者もしていない業者も含む)に提供している。自社の巨大な物流ネットワークを利用して、小売業者の商品を出荷、配送しているのだ。小売業者にとって、このような中核業務をAmazonにお金を出して依頼することは、理想的とはいえない。また、このサービスのユーザー事例としてAmazonに取り上げられているオンラインブランドの創業者たちに話を聞くと、コスト効率はよくないという。それでも、利益の拡大や収益目標の達成に苦労している新興ブランドにとっては、出荷と配送がもっとも手を付けやすいコスト削減対象になる場合がある。
Amazonの製品マネージャーによれば、同社が膨大なコストをかけてマルチチャネルフルフィルメントサービスを提供する理由は、Amazonにフルフィルメント業務を委託したほうがコストを削減できるブランドを、Amazonのエコシステムに取り込むことにある。とはいえ、増加する物流コストへの対応に悩むデジタル小売店が増えていることから、今後はShopifyが、彼らの悩みを汲み取る形で市場に食い込んでくるだろう。
それに、Amazonよりも優位な立場に立てる小売企業はいないのだ。
フードデリバリーは低迷気味
すばやく効率的な宅配をビジネスの柱としたスタートアップは、ベンチャーキャピタルから得た資金だけではビジネスを成功させることができないことに気づきはじめている。フードデリバリー業界では、スタートアップのマンチェリー(Munchery)をはじめとする多くの企業が、ビジネスを軌道に乗せることに失敗した。フードデリバリー企業はいま、さまざまな問題の解決策を立てているところだとアナリストらは指摘する。
「私の考えでは、マンチェリーの問題は、彼らがホールスタッフや座席を持たず、配達地域の広いレストランに過ぎなかったことだ。このビジネスモデルでは厳しい」と、フォレスター・リサーチ(Forrester Research)の小売アナリスト、サチャリタ・コダーリ氏はいう。「ラストワンマイルの配送は実に大きなコストがかかるが、レストランは非常に少ないマージンで大量の注文をこなすことでお金を稼ぐ商売なのだ」。
しかも、この分野では、大手の食料品店が地の利を持っている。
「このような食料品店は、ドアダッシュ(DoorDash)やデリブ(Deliv)などと提携して、調理済みの食事を低料金で配達している」と、メルカトゥス(Mercatus)のCEO、シルバン・ペリエ氏はいう。「我々のよく知らない(フードデリバリースタートアップの)企業が非常にたくさんあり、市場は過密状態なのだ」。
Hilary Milnes&Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)