ジェンダーレス スタイルの導入はブランドレベルではそれほど進んでいないが、ファッションにおけるジェンダーの役割についての議論はこれまでにないほど白熱している。19年の歴史を持つジュエリーブランドのケンドラスコットは今夏の初め、顧客からの要望に応え、初のメンズコレクションを発表した。
ジェンダーレススタイルの導入はブランドレベルではそれほど進んでいないが、ファッションにおけるジェンダーの役割についての議論はこれまでにないほど白熱している。
ジュエリーブランドがメンズコレクションを追加
19年の歴史をもつジュエリーブランドのケンドラスコット(Kendra Scott)は今夏の初め、店舗チーム、とくに店舗のスタイリストとの会話やソーシャルメディアを通じて収集した顧客からの要望に応え、初のメンズコレクションを発表した。
スコット氏いわく、「顧客からは何年もメンズ向けのデザインが望まれていた。男性客は女性のために製品を購入しているし、顧客の38%を占めているので、これは自然な流れだと言える」。
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スコット氏は、学齢期の3人の息子とともにメンズコレクションをデザインした。息子たちは、まだオムツをつけていた頃から母親のスコット氏がビジネスに取り組んでいるのを見てきた。男性たちが女性向けの定番ジュエリーを、そして女性たちがメンズ向けコレクションを身につけているのを目にしている、とスコット氏は言う。
「ジュエリーの素晴らしいところはひとつのサイズで対応できる点。誰でも好きなものを身につけられる。ファッションは性別ではなく、個人的なスタイルであり、(私たちの)ブランドはどんなスタイルにも、(そして)すべての世代にアピールする」。
ジェンダーレスを受け入れるZ世代
世代が若くなればなるほどジェンダーレスファッションへの推進力が高まっており、将来には性別を分けたコレクションが時代遅れになる可能性が示唆されている。ロブ・スミス氏は、ジェンダーフリーのファッションブランド、フルイッドプロジェクト(Phluid Project)の創設者だ。彼は、2019年11月のWWDイベントで、Z世代の消費者の56%が「割り当てられた性別以外」の製品を購入していると述べた。スミス氏によると、インクルーシブなジェンダーを受け入れている点では、Z世代は1430億ドル(約15兆7000億円)の購買力でトップ、その次には、1兆4000億ドル(約154兆円)の購買力を持つミレニアル世代が来るそうだ。
性別に関係なく、着たい服を着るだけ
ノーマカマリは、2019年にジェンダーレスにリブランドした。マーク ジェイコブスは昨年9月、ポリセクシャルカプセルコレクション「ヘブン(Heaven)」を発表。ジェイコブス氏によると、これは「男子である女子や、女子である男子や、どちらでもない人」向けだそうだ。若者向けブランドのパックサン(PacSun)とアバクロンビー&フィッチ(Abercrombie&Fitch)は、マーケティングキャンペーンとコレクションにおいて、ジェンダーインクルーシビティにシフトしつつある。ミュージシャンのハリー・スタイルズ氏は12月、グッチのアレッサンドロ・ミケーレによるフルレングスのドレス姿で「ヴォーグ(Vogue)」誌の表紙を飾り、記事内の画像ではチョポバロウェナのキルト風スカートを身につけた。
スタイルズ氏は昨年、ガーディアン紙でこう語っている。「女性用だとか男性用だとか、自分には関係ない。かっこいいシャツを見つけたとき、『それは女性用』と言われても『それがどうかした?』と思う。女性用だからといって着たい気持ちが変わるわけではない」。
トミー・ヒルフィガー氏は、女優で活動家のインディア・ムーア氏と協働して、2021年プレフォールのカプセルコレクション、トミー X インディアで性別を区別しない服を手がけた。また、ジェンダーレスファッションがそれほど遠くない未来に起こるという動向は、ハッシュタグ「#genderless」がついたTikTokの動画が5000万回の視聴回数を重ねていることからも、強く示唆されている。
ニック・パジェット氏は、トレンド予測のワールドグローバルスタイルネットワーク社のシニアアナリストだ。彼はNBCニュースにこう述べた。「個性を表現するものとしての服が、どちらかの性別に属しているという概念こそ、壊すべき社会的要素だ」。
ジェンダーレスファッションへの課題
ファッションデザイナーであり、つけまつ毛のブランド、ラブシーン(LoveSeen)の共同創設者であるジェナ・ライオンズ氏は、J.CrewはZ世代が生まれる前からジェンダーレスファッションだったとGlossyに語っている。
「私が1990年に入社したとき、J.Crewはユニセックスの服を揃えていた。定番アイテムの大部分はメンズとウィメンズの両方に含まれていた。女性が男性っぽいスタイルをすることは広く受け入れられているが、今のように、少なくともニューヨーク市では、男性が女性服を着られるほど境界線が曖昧になっているのは驚くべきこと。アメリカのほかの場所ではそれほど簡単ではないのは残念だが」。
ラブシーンは、同社の製品が女性限定ではなくあらゆる人たち向けであることをマーケティングで強調している。しかし、レディスウェアとメンズウェアの二分化を消し去るには、多大な努力が必要だろう。とはいえ、マーケティング会社のワンダーマントンプソン(Wunderman Thompson)による2020年12月の調査によると、アメリカの16〜24歳の消費者の70%が、以前ほど性別は個人を定義しないということに同意、または強く同意したと、CNNは報じている。
「ファッションは、世代、多くの場合、若者の文化と政治的信念を反映している」と、ニューヨークにあるファッション工科大学でファッションビジネスマネジメントを教えるショーン・グレイン・カーター教授はCNNに語っている。「ノードストロームやサックスのような伝統的な小売業者が生き残るためには、生涯にわたる顧客を確保するためにも、若い世代の価値観を反映しなければならない」。
どのようにしてそこにたどり着くのか。その実現には、デザイナーから小売業者、そしてファッション業界のあらゆる分野での賛同が必要だ。進歩はしているものの、全体的な導入には時間がかかるだろう。
「我々は、国として、社会的理想、寛容、受容について深く分断されている」とライオンズ氏は話す。「受容、愛、理解は進歩の基礎だが、我々の前にはまだ長い道のりがある」。
[原文:Are we inching closer to fashion without gender?]
RACHEL BURCHFIELD(翻訳:ぬえよしこ、編集:戸田美子)