2021年頃に爆発的な話題を呼んだあと、非代替性トークンことNFTを巡る昨今の関心は劇的に低下しているように見える。 高額デジタルアート・収集品として祭り上げられたNFTのブームは完全に去ったという見解で、メディアエージ […]
2021年頃に爆発的な話題を呼んだあと、非代替性トークンことNFTを巡る昨今の関心は劇的に低下しているように見える。
高額デジタルアート・収集品として祭り上げられたNFTのブームは完全に去ったという見解で、メディアエージェンシーは一致している。だが、そのベースとなる技術に関しては、リワードプログラムやロイヤリティプログラムのなかで、さらには音楽・ゲーミングにおけるオーディエンスのエンゲージメント向上の新たな手段として、活用できるという考えを持っている。つまり、モンティ・パイソンのセリフを借りれば、NFTは「まだ死んでいない」のだ。
現在、世界でもっとも高い売上を記録する米国では、安定した伸びが続いている。市場調査会社のスタティスタ・マーケット・インサイツ(Statista Market Insights)によると、米国における2023年のNFT売上は7億8190万ドル(約1100億円)に達し、2023年から2027年の年間成長率は18.48%増になるという。なお、2023年のNFT世界売上は16億ドル(約2240億円)、2023年から2027年の年間成長率は18.55%増だ。
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NFTは死んでいない
ブランド各社はさまざまなロイヤルティプログラムや特典体験、イベント・音楽アルバム・映画に紐づいた特別コンテンツで、ますます活発にNFTを試している。デジタル中心のエージェンシーであるデプト(DEPT)のテックストラテジスト、アマンダ・ジュリアス氏は「NFTの投機的な段階が過ぎたことで、このようなシフトが起きている」と話す。
「ブランドにとってNFTとは、何らかの所有権を消費者に与えるためのものであるべきだ。そこで所有されるものは、バーチャルアイデンティティであったり、ブランドアドボケイトを生み出してくれるものであったり、さまざまな可能性がある」とジュリアス氏はいう。「これに関してはかなりのポテンシャルがあると考えている」。
現在世の中の関心を集めているのはAIだ。今やNFTには、さほど意味があるようには思えないかもしれない。だが、ジュリアス氏は具体的な数字は出さなかったものの、DEPTではWeb3とNFT分野に向かう「意欲と投資」がまだ見られると語る。デプトによれば、同社のWeb3事業は2022年とほぼ同じペースで伸びているという。
また、メディアエージェンシーではNFTのスマートコントラクト技術もさまざまに活用できると考えている。ジュリアス氏はNFTの購入によって、多様な報酬や特別なコミュニティへの参加権など、ブランドを気に入ってくれている消費者に、さらに何かを提供することができると見ている。
「消費者が商品開発に関与することも考えられる。ゲームプラットフォームなど、NFTの使用が有効な場所にますます消費者が集まる傾向が見られるため、そのような動きにブランドが応じる際には、NFTはとてもよい手段となる」とジュリアス氏は話す。
ブロックチェーン技術の長期的な活用に目を向ける
スタグウェル(Stagwell)傘下のエージェンシーであるコードアンドセオリー(Code and Theory)の共同創設者ダン・ガードナー氏も、NFTにとって「価値のないアートと偽物の実用性の時代は終わった」と同意する。同氏は、Web3に関する問い合わせについて「2022年に比べると大きく落ち込んでいる」としながらも、NFTを含むWeb3の長期的なポテンシャルや活用方法については、「今もクライアントと話し合いを進めている」と話す。なお、この落ち込みは業界でのメタバースやWeb3関連の取り組みに関する、最近の全体的な減速傾向に沿った状況といえる。
ガードナー氏によれば、早い段階で流行に飛び付いたブランドのほとんどがWeb3プログラムを廃止しているが、だからといってスマートコントラクトやNFTがまったく役に立たなくなってしまったということではないそうだ。代わって、企業はブロックチェーン技術の長期的な活用に目を向けている。
「2022年に大挙していたにわか参入のエージェンシーとは異なり、この分野で本当に専門性を持つエージェンシーには、クライアントの長期的なWeb3活用を可能にできるという意味で、かなりのオポチュニティがある」とガードナー氏は語る。「ほとんどの技術と同じように、消費者は裏で何が行われているかを知る必要はなく、知りたいとも思わないが、Web3にはビジネスやユーザーに関連したユースケースで重要な役割を担えるポテンシャルがある」。
NFTと呼ぶな
Web3の一部の専門家が指摘するように、「NFT」という名前にはよからぬイメージがつき、消費者の前では避けたほうがいい禁句となってしまっている(ナイキ[Nike]はそこをわかっている)。
NFTプラットフォームを運営するWeb3企業のワンオブ(OneOf)でCEOを務めるリン・ダイ氏は、この状況を映画『ファイト・クラブ』になぞってこう語る。「企業のNFTとWeb3技術に取り組むうえでのルールその1は、NFTと口にしないことだ。消費者はNFTに別の意味を持たせてしまっている」。
「NFTは早い時期に高額デジタルグッズと関連付けられ、投機的資産で損をした人もいたことからすっかり評判を悪くしてしまった」と、ダイ氏は説明する。だが今は、Web3ツールやNFTの実用性が認められ、ブランドのエコシステムの一部となりつつある。ただし、必ずしもNFTという3文字が使われているわけではないだけの話だ。
エンゲージメントプログラムを進化させる可能性
ワンオブは、マスターカード(Mastercard)やスナップル(Snapple)などのブランドに協力し、ロイヤルティプログラムを通して1億人を超える消費者とブランドとをつないでいる。同社が扱うカテゴリーのトップ3はクレジットカード会社、航空会社、ホテルだ。ダイ氏は、NFTが企業の従来のロイヤルティプログラムやエンゲージメントプログラムを現代的にするための手段になる、と考える。
たとえば、EUでは将来的に消費者がデジタル証明書を通して製品の材料や調達先を確認できるようになるかもしれないそうだ。ダイ氏は化粧品ブランド、自動車メーカー、エレクトロニクス企業の製品がどのように作られているかについて、消費者が簡単に追跡できるようにすることを義務付けるEUの取り組みを挙げた。
「ブロックチェーンが完璧に適している用途だ」とダイ氏は言う。「航空チケットの販売でも、Tシャツの販売でも、ユーザーに音楽を聴いてもらおうという場合でも、コアビジネスを強化する方法はたくさんある」。
今のところ、NFTの未来はまだ描かれている最中だ。誰もがジェネレーティブAIツールを試してみているなかで、「AIを活用すればNFTプログラム用の画像制作やデジタル資産管理のスピードアップを図ることができる可能性がある」とダイ氏は言う。画像認識すらできるかもしれない。また、バーに行ってビールのボトルにカメラを向けると、ビールの購入がブロックチェーンでトリガーとなって自動的に報酬を獲得できる、という状況を想像できる。今後その可能性が日常的になることは、大いにあるのだ。
[原文:Are NFTs dead? How media agencies are framing the future of this blockchain tech]
Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)
Illustration by Ivy Liu