インフルエンサートリップ は、いまだ「有効」なのか?:ビューティブランドたちの課題

インフルエンサーたちを遠く離れたロケーションへと旅行させる「インフルエンサートリップ」を手がけているビューティブランドは多い。ビューティ界のトレンドに影響を持つインフルエンサーたちを、プロダクトのローンチと結びつけてエキゾチックな場所へ連れていくこの手法は、極めてスタンダードになった。有力なインフルエンサーマーケティング手法が確立したことで、ナーズ(Nars)は現在、ベネフィット・コスメティックス(Benefit Cosmetics)と同様に、主要なラインのローンチにはインフルエンサートリップを実施している。2018年8月のマスカラ分野への再参入がその例だ。

資生堂も同様だ。ここ1年半のあいだに、同社は6つのインフルエンサートリップを実施。2019年には、この企画を運営するためのインフルエンサーマーケティング予算を50%増加させている。直近の8月のものは、シンクロスキン・セルフリフレッシング・ファンデーション(Synchro Skin Self-Refreshing Foundation)のローンチに合わせて行われた。これ以外はすべてインフルエンサートリップの行き先は日本だ。これでミレニアル世代の消費者に資生堂の歴史と由来をアピールしている。8月のトリップに関しては、ジャッキー・アイナ、アリッサ・アシュリー、そしてアレクシス・ガブリエル・ジョンズ、といった有名なインフルエンサーたちをチリのアタカマ砂漠へと連れて行くという変わった内容であった。

「昨年開始したカラーカテゴリーの再ローンチが完了したことで、YouTubeとインスタグラム(Instagram)におけるビューティーインフルエンサーの起用を考えた。すでに人々の信頼を持っているオーソリティーと一緒に、ファンデーションの信頼性について語りたかった」と、統合コミュニケーション部門バイスプレジデントであるティファニー・カータートンプソン氏は言った。

米国での価値は下がった

資生堂は2020年もインフルエンサー予算を増やすようだ。しかし業界全体では、インフルエンサートリップの成果には疑問の声もあがっている。トライブ・ダイナミックス(Tribe Dynamics)によると、ベネフィット(Benefit)のインフルエンサートリップのEMV(アーンド・メディア・バリュー:これはソーシャルメディア上で獲得したメトリックで測られる)は、2018年から2019年にかけて減少している。昨年が1500万ドル(約16億円)であったのに対して今年は420万ドル(約4.4億円)だ。それでも同じ時期でふたつの年を比べると、ブランド全体のベネフィットのEMVは2億9400万ドル(約314億円)から3億600万ドル(約327億円)へと増えている。

トライブ・ダイナミックスの共同ファウンダーであるコナー・ベグリー氏の説明では、昨年1年間で、米国内におけるインフルエンサートリップの価値は下がったという。グローバル市場で国際的なインフルエンサーを起用することの成績は比較的良い。これはアメリカにおけるインフルエンサーマーケティングが成熟したことが大きな要因のようだ。

「当初は、インフルエンサートリップに際してブランドたちは、インフルエンサーたちに報酬を支払わなくて良かったので、ビジネス貢献への成果は良かった。インフルエンサーたちは、素晴らしいロケーションで、クオリティの高い、ボーナスコンテンツを大量に作ることができたからだ。いまでは、無報酬でトリップへ参加するインフルエンサーたちは少ない。トリップ自体の運営に大金を支払い、さらにインフルエンサーたちに報酬を支払う必要がある。彼らの飛行機はビジネスクラスで、さらに彼らの同伴者たちの飛行機代も支払う必要がある」と語ったのは、インフルエンサーマーケティング・プラットフォームのフォール(Fohr)のファウンダーであり、CEOのジェームズ・ノード氏だ。

フォールはビューティー、ファッション、ライフスタイル業界のクライアントにインフルエンサートリップを提案することを18カ月前に止めたと、ノード氏は語る。彼らのビューティークライアントには、セフォラ(Sephora)が含まれる。フォールは、2017年にはまだこういったアクティビティに参加していたが、その当時は3〜4日間のトリップに6人のインフルエンサーを連れていく企画に対して、ブランドが支払う金額は約5万ドル(約534万円)だった。ビューティーインフルエンサーのキム・カーダシアンの場合、一回の投稿に30万から50万ドル(約3200万円から約5300万円)を要求する。

コンテンツ作りは難しい

ローンチメトリックス(Launchmetrics)の最高マーケティング責任者であるアリソン・ブリンジェ氏によると、ビューティーブランドたちのコンテンツに対する渇望は依然として存在しているという。「ブランドはプロダクトの画像を毎日投稿するわけにはいかない。これらのブランドのほとんどは、一定のコントロールを保つ必要があるものの、パッとブランデッドコンテンツを作ることもできない。広告予算を使わずに、美しいデジタル画像を生み出すことは難しい」と、彼女は言う。

そのため、ビューティー企業がトリップを企画するわけだ。競争の激しい市場では、静止画のみでのプロダクトローンチは十分ではない。インフルエンサーを使ったコンテンツは見た目の質という点でも、コントロールという点でも優れている。取引をする前に、インフルエンサーや彼らの画像は、ブランドによって審査されており、またトリップ自体は、ブランドのガイダンスのもと行われるからだ。

資生堂にとって、8月のシンクロ・プロダクトのローンチはファンデーション製品の大幅拡大だった。その際に肌質、ファンデーションを話題に取り上げることで知られているインフルエンサーたちを起用した。NYXプロフェッショナル・メイクアップ(NYX Professional Makeup)向けにプロダクトラインを開発したアシュリーや、トゥー・フェイスド(Too Faced)による既存のファンデーションラインナップを批判したあとに、彼らと契約を結んだアイナ(Aina)がその例だ。このふたりは、それぞれインスタグラム上で100万人以上のフォロワーを抱えている。しかしまた、コンテンツを通じてエンゲージメントするオーディエンスが9%という高いエンゲージメント率を誇っている。これによってカラーコスメティクス分野における資生堂の信頼性を高めるだけでなく、スキンケア製品で知られる資生堂に対する消費者の認知度を高める目的があった。

資生堂の取り組みの意味

しかし、今日に至るまで、中級レベルのインフルエンサーたちの方がコンバージョンという点では優れている。19万6000人のインスタグラムフォロワーを抱えるガブリエル・ジョンズのエンゲージメント率は8.7%、24万3000人のフォロワーを抱えるカーラナ・バーフィールド・ブラウンは6%だ。カータートンプソン氏は具体的な数字は明かさなかったが、バーフィールド・ブラウンと今年前半に日差し用ケア製品のローンチでコラボレーションし、それはブランドにとって非常に効果的だったという。オーディエンスに何らかのアクションを求めるコール・トゥ・アクション投稿では、ブランドのeコマースサイトとセフォラ両方に顧客を誘導することができたという。現時点では、彼らはほかのマーケティングアクティベーションを行っていない。

コンバージョンと認知の価値を比べることは簡単ではない。資生堂のシンクロ・ファンデーションはデビューしてまだ間もないが、トリップが行われてすぐに資生堂のサイト上では「ファンデーション」が検索トップの単語となった。そして、「少なければ、少ないほどよい」という彼らの戦略は上手く行っているようだ。2018年8月と比べて43%少ないインフルエンサー数で臨んだ2019年8月だが、資生堂の可視度(Visibility)年比較は336%も増加した。これはコンテンツのリーチ、影響力と質、そしてブランドイメージの全体像に基づいた測定だ。しかし、最新のNPDデータによると、アメリカでの高級メイクアップブランドたちが軟化を起こしているなか、第2四半期は4%減となっている。このようなトリップがどれほど有効性があるのかは詳しく検証する必要がある。

「ブランドがトリップをするたびに、影響力を持つためのハードルが上がる。とあるブランドが、とびきりハジけたトリップをバリで実施したとすると、競合としてはインフルエンサーの集団を、ただマイアミに連れて行くだけでは良くなくなる」と、ノード氏は解説する。「直接プロダクト購入に結びつけるという点では、インフルエンサートリップはそこまで効率的ではない。特にインスタグラムは、さまざまな興味を投げつけてくるプラットフォームだからだ。トリップによって誰かの注意を引くことはできるかもしれない。だが、ROIを構築するのは依然として難しい」。

Priya Rao(原文 / 訳:塚本 紺)