スマートフォンを使う人々は常にモバイル広告に目を向けているが、だからといって広告を常に「見ている」とは限らない。モバイル広告で注目を集めるために、どんな最新インタラクティブ機能を利用しているか、クリエイティブエージェンシー幹部へ尋ねたところ、各フォーマットには効果的なものとそうでないものがあることがわかった。
スマートフォンを使う人々は常にモバイル広告に目を向けているが、だからといって広告を常に「見ている」とは限らない。
眼球運動を追跡する技術がまだ広まっていない現在。年間800億ドル(約8兆9000億円)もの予算が注ぎ込まれるモバイル広告に、インタラクティブ要素を組み込むことで広告主は、確実に人々のアテンションを得ることをめざしている。
米DIGIDAYはクリエイティブエージェンシー幹部に取材し、モバイル広告で消費者の注目を集めるためにどのような最新インタラクティブ機能を利用しているのか尋ねた。その結果、フォーマットには効果的なものとそうでないものがあることがわかった。
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拡張現実(AR)
評価:モバイルで大流行
ヒュージ(Huge)の幹部は、1年前にポケモンGOの大成功を目の当たりにして、広告におけるARのポテンシャルに気づいた。オグルヴィ(Ogilvy)のデジタルイノベーション部門トップ、マーク・ヒンメルスバッハ氏も、「我々はすぐにクライアントにARを勧めるようになった」という。いまやARは、オグルヴィの「標準的な提案内容」のひとつだ。
ARがモバイル広告のクリエイティブのメイン要素になるかどうかは未知数だが、いくつかのブランドがARをアプリに組み込み、成功を収めている。オグルヴィが最近手がけた、映画『ドリーム(原題:Hidden Figures)』とタイアップしたIBMのARキャンペーンは、現実のロケーションで「隠れた偉人たち」を発見できるアプリだ。全米150カ所以上にある歴史上の著名な人物の銅像(ほとんどは白人男性)に向けてスマホをかざすと、歴史を動かしたマイノリティや女性の像がAR上で表示される。
娯楽性に関しても、エージェンシー社員はAR体験を気に入っていると、ヒンメルスバッハ氏はいう。「我々はARの大ファンだ。クライアントにもすぐに勧めるようになった」。実店舗にAR体験を常設で実装することもできる、と同氏。たとえば、店舗にある商品を競合他社の商品と画面上で比較したり、割引対象の通知を受け取れるようにするなどだ。
コークゼロ(Coke Zero)のショッピングモール用デジタルポスターもオグルヴィの仕事だ。このポスターにスマホをかざすと、画面に表示されるストローを使って、ポスター画像のなかのコーラをバーチャルに「飲む」ことができる。また、音楽検索アプリShazam(シャザム)を使えば、コークゼロのテレビCMが流れると同時に、画面上の空っぽのグラスにコーラを注ぐことができる。いずれも、AR体験のあとにコークゼロの無料クーポンが与えられる。
このテレビCMは、「もっともShazamで検索された」音楽となり、ユーザーはAR体験のためならひと手間をいとわないことが示された。
「ARは、次世代のQRコードのようなものだ」と、ヒンメルスバッハ氏はいう。
仮想現実(VR)
評価:モバイルでは受けない
ARとは対照的に、モバイルでのVRはぎこちなく、勢いがいまひとつだ。「頭部に何かを装着しないといけないとなると、人は躊躇する」と、ヒンメルスバッハ氏。
Appleも最近、ワールドワイド・デベロッパーズ・カンファレンス(WWDC)でこのことを認め、モバイルデバイスにAR機能を搭載する一方で、VRはデスクトップ専用とした。モバイル広告の原動力である「いつでも・どこでも」という特性は、VRとは相性が悪いのだ。消費者に無理にヘッドセットを装着させるより、広告主はVR最大の長所(ユーザーをコンテンツに完全に没入させることができる点)を、ほかのやり方で表現した方が賢明だろう。
インタラクティブ動画
評価:受け身の視聴者を積極的な利用者にしたいなら、ぜひ。
動画というマーケティング戦略は、パーチェスファネルにおける最初の段階である「認知や関心」の拡大とブランド構築に有効だと定評がある。さらにそこにインタラクティブ要素を組み込むと、没入空間が生まれ、消費者の購入意欲をさらに高めることができる。
モバイル動画広告に、ごくシンプルなインタラクティブ要素を付け足すだけでも、消費行動を大幅に変えることができる。ヒンメルスバッハ氏によれば、「最近はほとんどの人が紙のクーポンを受け取らない」が、モバイルのインタラクティブ動画を体験したあとに提供されるクーポンや、そのほかのリワードは利用されているという。
自動車ブランドなら、インタラクティブ動画を使って、画面上を走る車にズームインしたり、ハプティック(振動)効果を使ってうなりをあげるエンジンを感じさせたり、広告をタップすると車の外観から内装に切り替わるようにしたりができるだろう。こうした要素があれば、動画視聴後に、パーチェスファネルのより下層にある消費者行動(たとえば試乗予約)を促すことができる。
ディズニーは映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のモバイルキャンペーンで、カスタム予告映像を公開した。視聴者が画面上で「宝探し」をプレイして、「宝物」をひとつ見つけるごとに、映画の独占映像が見られるようになるというものだ。
エッセンス(Essence)で体験デザインを統括するグローバルディレクター、ギャリック・シュミット氏は、インタラクティブモバイル動画のパーソナライズ化によってブランド想起率が向上することが市場調査で判明したと話す。こうしたパーソナライズされた体験は、他サイトの訪問履歴に基づいた商品表示や、コンテクストからの推定(たとえば、音楽アプリにヘッドホン専用の動画広告を出す)のような、ごくシンプルなものもあり得る。
インタラクティブ・ダイナミック・ディスプレイ
評価:全方面的に有効
エッセンス(Essence)のクリエイティブ部門は、インタラクティブダイナミックディスプレイ(ユーザーと使用環境に基づいてパーソナライズされた広告)に注目し、これを使ってモバイルでの購入機会を生み出そうとしていると、シュミット氏はいう。
画面上で商品が横回転し、タップすると購入ができるカルーセル広告は、「広告ユニットを実質的に店舗に変える」と同氏はいう。このような「店舗」でユーザーが商品を購入する確率が高いのは、訪問履歴や位置情報、ユーザーが画面操作するデバイスの種類などに基づいて商品を提示しているためだ。
小売企業にとってダイナミックディスプレイが魅力的であることは明らかだが、シュミット氏は「活用できるのは小売企業だけではない。どんなブランドにもきわめて有効だ」と述べた。
AdColony(原文 / 訳:ガリレオ)
Image by GettyImage