2021年4月27日、iOS 14.5、iPadOS 14.5、およびtvOS 14.5が適用されたことにより、ついに IDFA の、アプリ単位でのオプトイン化が必須となった。これにより、アプリマーケターはどのような影響を受けるのか、AppsFlyer Japan カントリーマネージャーの大坪直哉氏に訊いた。
2021年4月27日(日本時間)、iOS 14.5、iPadOS 14.5、およびtvOS 14.5が適用されたことにより、ついにIDFA(Identifier for Advertisers)の、アプリ単位でのオプトイン化が必須となった。今後IDFAを取得するには、AppleのATT(App Tracking Transparency)フレームワークを実装し、アプリごとにユーザーから同意を得なければならない。
昨今、プライバシー保護の観点が世界的に強まるなか、今回のアップデートはユーザーに多大なメリットをもたらす。しかし、iOSシェアが60%以上にもおよぶ日本市場において、アプリマーケターたちが受ける影響は計り知れない。現に、これまでIDFAを用いて広告の効果測定、およびターゲティングを行ってきたアプリマーケターのあいだでは、不安と動揺が広がっている。というのも、ユーザーは一般的に、自らの情報をアプリ側に渡すことを好まない。IDFAの取得は、極めて困難になるだろう。
Appleはこうした規制を行う一方、IDFAを用いずに広告効果が測定できるソリューションを提供している。それがSKAdNetwork(StoreKit AdNetworkの略)だ。しかし同ソリューションは、そもそも管理画面がないため、データの一元管理ができない。さらに、プライバシー保護に配慮しているがゆえ、リアルタイム計測ができない、リターゲティングや不正検知機能がないなど、できることは極わずかだ。これもまた、アプリマーケターたちの悩みの種であり、今後は既存のMMP(Mobile Measurement Partner:モバイル計測ソリューション)とSKAdNetworkの並行利用が一般化することが予想される。
だが、こうした困難な状況だからこそ、「今回のアップデートは、私たち業界に関わる人間が、改めてデジタルマーケティングとユーザーエンゲージメントのあるべき姿を考えるいいチャンスだ」と主張するのが、MMPとして世界No.1のシェアを持つAppsFlyer Japan(アプスフライヤージャパン)で、カントリーマネージャーを務める大坪直哉氏だ。ユーザーエンゲージメントが確立されていれば、全てではないにせよ、多くのユーザーはIDFAの提供を拒まないだろう。「この困難を経験することで、業界全体で、より良い顧客体験を作り出すことができる」というのが同氏の構えだ。
──まず、これまでのIDFA規制の流れを、簡単に教えていただけますか?
はじまりは、2020年6月に開催されたAppleの開発者向けイベント、WWDC(Apple Worldwide Developers Conference)で、iOS 14におけるIDFAのオプトイン必須化が発表されたことです。
ちなみに、IDFAとは、「Identifier for Advertisers」の略語で、Appleがユーザーのデバイスにランダムに割り当てる固有のIDのこと。この広告識別子は、これまで既定値で「オン」になっていました。ところが、昨年のWWDCにおいて、今後のアップデートでIDFAの既定値が「オフ」にされることが示唆されたのです。つまり、IDFAを取得することについて、必ずユーザーの許可を得なくてはならなくなったのです。
当時この発表は、多くのアプリ開発者たちを震え上がらせました。というのも、iOS 14のリリース日は2020年9月。アプリ開発者たちは約3カ月間で、オプトイン必須化に伴うATTフレームワークの実装をはじめ、Appleの新たな方針に対応するための準備を済ませる必要があったのです。
しかしIAB(Interactive Advertising Bureau:インタラクティブ広告協議会)といった業界団体や、GAFAなどの大手プラットフォーマーによる各種声明を受け、結果としてAppleは、IDFAのオプトイン必須化を2021年初旬に延期すると判断しました。こうした経緯を経て、ついにIDFA規制が本格化したわけです。
──なるほど。では、ATTとはどういったものなのでしょう?
ATTは、「App Tracking Transparency」の略語です。これは、Appleが提供する広告トラッキングの許諾を行うためのシステム、およびフレームワークのこと。今後、トラッキング目的でユーザーのデータを収集する場合、アプリ開発者はATTを実装し、ユーザーから許諾を得る必要が出てきます。
このATTを実装すれば、アプリ開発者はユーザーに対し、「このアプリがあなたをトラッキングしても良いか?」というポップアップを表示し、同意を求めることができます。なお、すでにダウンロード済のアプリに関しては、iOSアップデート後にアプリをはじめて開いたタイミングで、ユーザーに対してポップアップが表示されます。
しかしこのポップアップ、掲出のタイミングはアプリ開発者が決めることができますが、カスタマイズできる要素が非常に少ないことが特徴です。ユーザーは一般的に、自分の情報をアプリ側に渡すことを好みません。それだけではなく、ポップアップのクリエイティブも調整できないとなると、IDFAの取得同意を得るのは、相当難しくなる。そうなると、IDFAを用いた既存の計測やターゲティングのスキームは、機能不全に陥ります。

ATTのポップアップ。カスタマイズできるのはテキストのごく一部だ
──それは困りましたね…アプリマーケターはどうしたら良いのでしょう?
「IDFAは死に、アプリマーケターも死ぬのか?」といった声も一部では囁かれていますが、私はそんなことはないと考えています。これは、むしろ業界全体が、プライバシー保護重視の方向に進む契機にもなりますし、同時にマーケターにとっては大きなチャンスでもあります。
チャンスとはどういうことか。iOS 13まで、ユーザーがIDFAを提供するかどうかは、端末単位で選択できる仕様になっていました。しかしiOS 14以降、その設定がアプリ単位で選択できるようになった。そして先日のアップデートで、アプリ開発者はこれに対応することが義務付けられたわけです。これにより、品質の悪いアプリはIDFAの取得が困難になり、結果的に淘汰されていく可能性がある。しかし逆に、良い顧客体験を提供するアプリには、ユーザーが「トラッキングしてもOK」と判断を下す可能性が、大いにあります。
つまり、アプリマーケターにとって今回のアップデートは、エンゲージメントを醸成する戦略を構築し、ユーザーとの関係をより良いものにしていく絶好の機会でもあり、またマーケターとしての技量を試し、他社と差別化を行う最高の機会でもあります。我々も、そのための支援を全力で行っていく考えです。

「IDFA規制は、マーケターにとって大きなチャンスだ」と語る大坪氏
──とはいえ、既存の手法が機能しなくなるのは相当厳しいのでは…。
おっしゃる通りです。そこで、我々はプライバシー保護を重視しつつ、これまでの手法に近い形でマーケティングが実行できるよう、ソリューションを拡張しました。その核となる技術のひとつが、ビッグデータとAIを活用した「確率論的モデリング」です。これは我々が2年前から開発を進めて来た技術で、ユーザーを特定する情報を一切取得せずに、どのメディアからインストールがもたらされたか推定する、統計的手法になります。データポイントを活用して、ユーザーを「特定」しようとするフィンガープリントとは異なり、確率論的モデリングは、あくまでインストールを「推定」することを目的としています。IDFAが取得できなくても、この「確率論的モデリング」を用いれば、95%の精度で数値を計測することが可能です。
AppsFlyerのグローバルシェアは72%。世界でNo.1です。それだけマーケットシェアがあるので、ユーザーのスマホに入るアプリのどれかには、AppsFlyerが入っていることになる。AIに機械学習させるときは、とにかくデータ量が肝になります。データ量が多いほど、指数関数的に精度は上がる。我々が、「確率論的モデリング」を精度高く実現できるのは、こうした強みゆえです。
また、IDFAが取得できた場合には、これまで通り「決定論的マッチング」、つまりIDマッチングでの計測が優先されます。ただその場合でも、AppsFlyerのソリューションなら、プライバシーに考慮した計測が可能です。たとえば我々は、ユーザーのプライバシーを保護するために、ATTへの同意状況に合わせて、計測データの取り扱い方法を変える機能をデフォルト設定として提供しています。こうした機能を実現しているのは、業界でAppsFlyerだけです。

IDFAが取得できた場合には「決定論的マッチング」が、取得できない場合は「確率論的モデリング」が適応される
──それはすごい! ちなみに、SKAdNetworkについても伺えますか?
SKAdNetworkは、2018年からAppleが提供している、プライバシーに配慮したソリューション。IDFAを用いずに広告キャンペーンの実行、および計測が可能です。このソリューションは、広告を野球にたとえると「新たな審判」です。選手は広告メディアで、そしてヒットや奪三振といった結果が彼らのフォーマンスです。審判は、広告のパフォーマンスをジャッジ、つまり計測し、広告メディアに結果を告げるわけです。
これまで審判を務めていたのは、我々のようなMMPでしたが、そこに「新たな審判」として、Appleが提供するSKAdNetworkが現れました。今後は、私たちMMPとSKAdNetworkというふたりの審判が共存し、アプリマーケターのあいだでは、両方のソリューションを併用するのが主流となるでしょう。
ただ、SKAdNetworkには課題も多い。この新しい審判はまだキャリアが短く、できないことがたくさんあります。たとえば、Web面計測が不可能なほか、リターゲティング機能、不正検知機能、そしてリアルタイムなポストバック機能もありません。ちなみにポストバックに関しては、SKAdNetworkの仕組み上、最大で2カ月間も遅延する可能性があるため、ROIやLTVの算出は困難になります。また、パラメーターを使って「広告クリエイティブごとの成果を比べる」といった、キャンペーン以下の分析も行うことができません。加えて、コンバージョン値の設定が非常に難しい点も、留意する必要があります。
そしてもっとも特筆すべきは、管理画面が存在しないことです。これでは、マーケティング実務が、煩雑になってしまう恐れがあります。

SKAdNetworkの機能は、いまのところ限定的
──つまり、各メディアのデータを一つひとつ別の管理画面で確認しないといけない、ということですか?
はい。これまでは、我々のようなMMPが数値を集計し、ひとつの管理画面で閲覧できるようにしていました。しかしSKAdNetworkを活用する場合、Facebookは何件、LINEは何件といった形で、各媒体の管理画面を確認しなければなりません。アプリ業界の黎明期はこんな感じでしたが(笑)。
AppsFlyerでは、前述したiOSアップデートに対応するための新ソリューションに加え、SKAdNetworkのこうした欠点を補完しつつ、その効果を最大化するためのツール群を提供しています。それが、SK360です。SK360を導入すれば、広告主はひとつの管理画面で各媒体のデータを確認できますし、コンバージョン値の設定も、簡単かつ柔軟に行うことができます。

広告主向けに用意された、SK360の管理画面(SKAdNetworkオーバービュー)
また、ポストバックの期間も1〜3日以内にコントロールが可能で、ProtectSKという不正検知機能も搭載しています。加えて、長期的なユーザーの期待値をスコアリングし、各キャンペーンを10段階で評価する機能、PredictSKも強みです。これは、収益額の予測を算出できるものではありませんが、中長期的な戦略を練るうえで参考になることでしょう。

SK360で実現できることの一覧
──最後に、アプリマーケターのみなさんにメッセージをお願いします
今回のiOSのアップデートで、これまでの通りのマーケティング施策が実施できなくなることに、懸念を抱くアプリマーケターは多いと思います。しかし世界的な業界の流れは、間違いなくプライバシー保護重視の方向に向かっています。アプリマーケターのみなさんは、この状況を好機と捉え、プライバシー保護を重視する観点と既存のモバイルエコシステムを、いかに共存させていくかを考えるべきです。
さらに、アプリ開発者、広告代理店の相互理解と協力も欠かせません。我々はMMPとして、ステークホルダーの相互理解に少しでも貢献すべく、務めていくつもりです。現在我々は、SKAdNetworkの管理画面を代理店向けにも提供すべく、準備を進めています。こちらも期待してもらいたいですね。
私が好きな言葉に、アインシュタインの「困難のなかに、機会がある」という言葉があります。このような渦中にいるからこそ、既成のフレームワークによらない最適かつ最高の答えを、ステークホルダーの皆さんと模索していきたいと考えています。
▼大坪直哉
AppsFlyer Japan カントリーマネジャー
33歳まで舞台俳優でありながら、MBAホルダーであり、カントリーマネジャー。俳優を辞めた後、検索連動型広告の大手、米Overtureに入社。2012年には仏Criteoに転職。アジア太平洋地域担当ディレクターとしてマーケットシェア拡大に貢献する。15年8月より、AppsFlyerの日本カントリーマネジャーに就任。ビジネス・ブレークスルー大学大学院同窓会前会長。プライベートでは、好きが高じて日本モンブラン協会を設立、日本中のモンブランを食べ歩く。NYにあるInstitute for Integrative Nutritionというヘルスコーチを養成する学校にオンラインで通学中でもある。
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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(海達亮弥)