- Appleのデータプライバシー保護強化策やGoogleのサードパーティCookieサポート終了見込みがあるなか、D2Cブランドは依然としてメタ(Meta)とGoogleに広告費を投入している。
- あるマーケティングエージェンシーによれば、取引先のデジタル広告予算の60%から80%がGoogleとメタに投じられており、今後もクライアント広告予算の割合は変わらないという。
- 一部の広告主は過度な依存を減らすため新たなメディアチャネルを試行するも、広告配信における2大巨頭と同等の規模のプラットフォームは現状存在しない状況である。
Appleが2年前に実施したデータプライバシー保護強化策に伴う仕様変更は、アプリ内広告のトラッキング制限を招き、業界を大いに騒がせた。しかしここへ来てD2Cブランドの多くは、メタ(Meta)とGoogleへ広告費を戻す動きを見せている。
Appleが2021年にATT(App Tracking Transparency:アプリのトラッキングの透明性)フレームワークを導入して以来、広告主にとってはiOSでのモバイル広告効果測定目的のアトリビューション分析が難しくなったといわれる。一方、Googleは、ChromeブラウザにおけるサードパーティCookieのサポートを2024年前半まで継続する見込みだ(同社のCookieサポート終了計画と関連の課題についてはこちら)。
一連の変更によりメディア支出の多様化をめぐる議論が巻き起こり、メタとGoogleへの依存から脱却する必要性が叫ばれたが、D2Cブランドは依然として、顧客基盤の拡大を狙って広告費の大半をこの2社につぎ込んでいる。
依然として広告費はメタとGoogleに
CBD(カンナビジオール)入り炭酸水を販売するD2Cブランド、リセス(Recess)の創業者兼CEOのベン・ウィッテ氏はこう語る。「iOS 14 以降のプライバシー強化機能の影響は、少し大げさに語られているのではないか。業界各社はいまでも、デジタルマーケティングキャンペーンで収益化できる状況にあると思う」。同氏によれば、リセスでは副次的なチャネルとしてTikTokなどを経由した有料広告配信を増やしたが、広告予算の大半はメタ、Google検索、Amazonに投入しているという。
米DIGIDAYが今回取材したエージェンシー担当者の半数以上が、過去1カ月間にクライアントの代理でFacebook広告を買いつけたと答えた(2022年同月の81%に比べると減少傾向)。GoogleはサードパーティCookieのサポートを段階的に廃止する意向を示しているが、業界各社は廃止時期に対し懐疑的で、プログラマティック広告取引におけるCookie代替ソリューション導入はまだ進んでいない。
一方、Appleのデータプライバシー保護強化を受けて、ソーシャルメディア運営各社は収益効率化を図るべく広告掲載回数(アドロード)を増やしてCPM(インプレッション単価)を前年比で2桁低減させたほか、コマース強化に向けてAI搭載ツールを導入した。多くのD2Cブランドにとって広告による顧客獲得の主要チャネルであるメタとGoogleにはまだ、成長の余地があるとみていい。
「ブランド各社がメタとGoogleへの広告支出を増やす動きを見せているのは、メタ傘下のFacebookなど大手SNSが有するオーディエンス基盤の大きさを知っているからだ」と語るのは、VMLY&Rでイノベーション/データ部門のマネージングディレクターを務めるケヴィン・クワン氏だ。「SNS広告のパフォーマンスが低下しても、ブランドとしては広告を出稿しないわけにはいかないのだろう」。[続きを読む]
- Appleのデータプライバシー保護強化策やGoogleのサードパーティCookieサポート終了見込みがあるなか、D2Cブランドは依然としてメタ(Meta)とGoogleに広告費を投入している。
- あるマーケティングエージェンシーによれば、取引先のデジタル広告予算の60%から80%がGoogleとメタに投じられており、今後もクライアント広告予算の割合は変わらないという。
- 一部の広告主は過度な依存を減らすため新たなメディアチャネルを試行するも、広告配信における2大巨頭と同等の規模のプラットフォームは現状存在しない状況である。
Appleが2年前に実施したデータプライバシー保護強化策に伴う仕様変更は、アプリ内広告のトラッキング制限を招き、業界を大いに騒がせた。しかしここへ来てD2Cブランドの多くは、メタ(Meta)とGoogleへ広告費を戻す動きを見せている。
Appleが2021年にATT(App Tracking Transparency:アプリのトラッキングの透明性)フレームワークを導入して以来、広告主にとってはiOSでのモバイル広告効果測定目的のアトリビューション分析が難しくなったといわれる。一方、Googleは、ChromeブラウザにおけるサードパーティCookieのサポートを2024年前半まで継続する見込みだ(同社のCookieサポート終了計画と関連の課題についてはこちら)。
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一連の変更によりメディア支出の多様化をめぐる議論が巻き起こり、メタとGoogleへの依存から脱却する必要性が叫ばれたが、D2Cブランドは依然として、顧客基盤の拡大を狙って広告費の大半をこの2社につぎ込んでいる。
依然として広告費はメタとGoogleに
CBD(カンナビジオール)入り炭酸水を販売するD2Cブランド、リセス(Recess)の創業者兼CEOのベン・ウィッテ氏はこう語る。「iOS 14 以降のプライバシー強化機能の影響は、少し大げさに語られているのではないか。業界各社はいまでも、デジタルマーケティングキャンペーンで収益化できる状況にあると思う」。同氏によれば、リセスでは副次的なチャネルとしてTikTokなどを経由した有料広告配信を増やしたが、広告予算の大半はメタ、Google検索、Amazonに投入しているという。
米DIGIDAYが今回取材したエージェンシー担当者の半数以上が、過去1カ月間にクライアントの代理でFacebook広告を買いつけたと答えた(2022年同月の81%に比べると減少傾向)。GoogleはサードパーティCookieのサポートを段階的に廃止する意向を示しているが、業界各社は廃止時期に対し懐疑的で、プログラマティック広告取引におけるCookie代替ソリューション導入はまだ進んでいない。
一方、Appleのデータプライバシー保護強化を受けて、ソーシャルメディア運営各社は収益効率化を図るべく広告掲載回数(アドロード)を増やしてCPM(インプレッション単価)を前年比で2桁低減させたほか、コマース強化に向けてAI搭載ツールを導入した。多くのD2Cブランドにとって広告による顧客獲得の主要チャネルであるメタとGoogleにはまだ、成長の余地があるとみていい。
「ブランド各社がメタとGoogleへの広告支出を増やす動きを見せているのは、メタ傘下のFacebookなど大手SNSが有するオーディエンス基盤の大きさを知っているからだ」と語るのは、VMLY&Rでイノベーション/データ部門のマネージングディレクターを務めるケヴィン・クワン氏だ。「SNS広告のパフォーマンスが低下しても、ブランドとしては広告を出稿しないわけにはいかないのだろう」。
クワン氏によれば、VMLY&Rが抱えるクライアントの広告費は、いまだにその大部分がメタとGoogleに投入されている(詳細は非開示)。とくに一連のプライバシー保護強化策の導入以来、VMLY&Rはクライアントへのアドバイスとして、最適なメディア戦略を見い出すための試験運用を勧めているが、「いまのところ検索広告とSNS広告以外に説得力のある手段がない」という。「ほかの選択肢が検討されるにしても、大手プラットフォームはオーディエンス基盤の蓄積があるから、一番頼りになるチャネルとみなされるだろう」。
2大巨頭と同等の規模を誇るプラットフォームは現状ない
DIGIDAYリサーチは今年2023年3月に発表したレポートで、メタ傘下のインスタグラムに対するブランド各社の信頼が高まっていると報じた。当時、自社のクライアントが「インスタグラムにわずかな割合であれマーケティング予算を割り当てている」と回答したエージェンシーは93%に上った。インサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)の7月のレポートによると、メタの広告事業のシェアは今年、米国におけるソーシャルメディア広告費のおよそ75%に達する見込みだ。一方、デジタル広告費全体に占めるシェアではメタが20%弱、Google傘下のYouTubeが6%弱、TikTokが2.3%と予想される。
マーケティング/クリエイティブエージェンシーのベラルディ・ウォン(Belardi Wong)でデジタル戦略・統合マーケティング部門バイスプレジデントを務めるカーラ・マーフィー氏によれば、取引先のデジタル広告予算の60%から80%がGoogleとメタに投じられているという。ベラルディ・ウォンのクライアントには、インテリア装飾品専門ECサイトを運営するルル・アンド・ジョージア(Lulu and Georgia)、アパレルブランドのフランシス・ヴァレンタイン(Frances Valentine)やアウターノウン(Outerknown)などが含まれる。同社によると、Googleとメタに割かれるクライアント広告予算の割合はATTの適用前も後も変わらないという。
とはいえ、メタとGoogleへの予算配分の偏りを脱して多様なメディアに投資したいという広告主の意向は確かに存在する。ただ、メタとGoogleのような規模を誇るプラットフォームはほかにないというのが現状だと、マーフィー氏は語る。ベラルディ・ウォンのクライアントがGoogleに投じる広告費は前年比で4%増えているようだ。
「広告費の支出先では、メタとGoogleの両社がまだ主流を占めている。一方、TikTokのショッピング機能であるTikTok Shopsへの関心が高まっている。動画配信中に消費者が投稿したコメントがリアルタイムデータとして把握できるからだ」と、マーフィー氏は指摘する。「当社のクライアントのなかには、マイクロソフトのビング(Bing)経由で広告を配信したいという企業もある。ただ、オーディエンスのリーチが広くない。ビングは検索エンジンとしての運用開始から何年も経つが、Googleと同じレベルのオーディエンス基盤を確保できた広告主はないはずだ」。
メディア費の支出先を模索
D2Cブランド各社のマーケターはこれまで、メディア費支出先の多様化を目指し、新たな顧客獲得チャネル候補として、ピンタレスト(Pinterest)、TikTokなどで広告の試験運用をしてきた。清掃用具専門のD2Cブランドのドッティ(Dotti)では、メディア予算の72%をメタに投入しており、Googleは主にリターゲティング広告に利用している。しかし、共同創業者で最高クリエイティブオフィサーのレイチェル・ガーバット氏からDIGIDAYに送られてきたeメールによると、同社では広告チャネルミックスを固定しておらず、戦略策定にあたり、TikTok、ピンタレスト、アフィリエイトマーケティングについて、代替チャネルとしての役割を評価中だという。
「現状把握をつねに怠らず、状況によっては新規・既存チャネルのなかで機動的に優先順位を入れ替えて広告費を配分することが、これまで以上に重要になっている」とガーバット氏は述べている。
Apple iOSでデータプライバシー保護が強化される前は、ジュエリー専門のD2Cブランドであるジャン・ドゥセ(Jean Dousset)のマーケティング費はすべて、メタとGoogleにつぎ込まれていた。ただ、ここ1年はブランド認知度向上を狙って、屋外広告、TikTok広告、ダイレクトメールといったチャネルにも予算を配分しながら、メタとGoogle経由の広告配信も続けているという。
ジャン・ドゥセの最高マーケティング責任者であるサラ・ヴィンセンティ氏は、「iOS 14のプライバシー保護機能強化で、マーケターとして目を覚まされた気がした。そのとき、特定のプラットフォームに過度に依存してはならないと痛感した」と話す。
[原文:Apple’s ATT crackdown emboldened DTC marketers to reinvest in Meta, Google]
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)