Apple幹部にとって、SKAdNetworkは非常に重要な存在で、同社が切望していたアプリトラッキングの取り締まり開始が迫るなか、広告主もその活用法を注視しています。デジタルマーケティングの最新用語を解説する「一問一答」シリーズで解説していきます。
Apple幹部にとって、SKAdNetworkは非常に重要な存在です。同社が切望していたアプリトラッキングの取り締まり開始が迫るなか、最近では広告主もその活用法を注視しています。
近い将来、Appleデバイスの所有者を大規模に追跡することはこれまで以上に難しくなり、SKADNetworkが次の選択肢となる可能性があります。それに際し、いま多くの広告主のあいだで、これが自社キャンペーンにどのような影響を及ぼすのか、知りたがっています。
今回の一問一答シリーズでは、SKADNetworkとは何か、どのように機能するのか、そして何に注意すべきかについて必要な情報を説明します。
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──SKADNetworkとは、ひと言で何でしょうか?
SKADNetworkは、プライバシーに配慮しつつ、トラッキングを行うためにAppleが導入しようとしているソリューションです。これが採用されれば、Appleはユーザーレベルやデバイスレベルのデータを一切開示することなく、コンバージョンデータを広告主に共有することができます。ただ、マーケティング担当者にとってこれは「報われない片思い中の人と、友達の関係でいるようなもの」です。というのも、詳細なトラッキングなど、SKADNetworkでは、実行したくてもできないことがたくさんあるのです。
ただ、プログラマティックアドバイザリー(The Programmatic Advisory)のシニアクライアントパートナーであるロイド・グリーンフィールド氏は次のように話しています。「ビュースルーへの対応など、ITP2.2におけるアップデートでは、より多くの機能が導入されていて心強い。現状、これまでのような詳細な情報は得られないと認識しているが、SKADNetworkがさらにアップデートされ、IDベースのトラッキングに近い機能を実現してくれると期待している」。
──SKADNetworkはどのように機能しますか?
「小規模なウォールドガーデン」をイメージすると良いでしょう。 まずAppleは、App Store内でアトリビューションを実行し、そのプロセスをAppleのサーバーで検証します。その後、個人の身元を危うくする可能性のある要素が浄化された状態で、データをアドネットワークで共有。ついに、広告主がデータにアクセスできるようになります。こうした制限は、Appleによる意図的なものです。
──その制限はどんな弊害をもたらしますか?
SKADNetworkに組み込まれた制限は、アドモンスターズ(AdMonsters)がこちらの記事で考察しているように複雑です。ここではどこに問題点があるか、焦点を絞って説明します。SKADNetworkのデータは浄化されているだけでなく、アドネットワークによって所有されています。広告主は、そこに直接アクセスすることはできません。これは、リアルタイムのキャンペーン最適化が困難になったり、広告パフォーマンスに関する情報不足といった、諸問題を引き起こすでしょう。また、SKADNetworkから取得したデータは、アドネットワークによって操作されている可能性があることから、その信憑性にも問題が生じる可能性があります。
──マーケターはどのように対応すべきですか?
SKADNetworkがどう機能するかに合わせて、マーケターは対応方針を考え直す必要があります。アドネットワークからSKADNetworkのデータを収集する際の、具体的な方策や検証方法まで、マーケターは再考しなければならないのです。
──アプリパブリッシャーはどうしたらよいでしょう?
準備を整えておくことです。モバイル識別子(IDFA)の収集が困難になると、今後SKADNetworkを利用したメディアバイイングが、主流になる可能性があります。そうなった場合、必要な準備をしていなければ、パブリッシャーはメディア予算の獲得を逃すことになるでしょう。大手DSP企業はすでに、アプリパブリッシャーに対し、作成が義務づけられているSKADNetwork IDのリストを常に最新の状態に保つように要求しはじめています。Appleが(正しいか間違っているかに関わらず)「あらゆる侵害に対して責任を負う」といっていることを考えると、パブリッシャーも同様に、厳格な対応をする必要があるでしょう。
──なるほど。では、この困難を回避する方法はありますか?
正直なところ、あまりありません。Appleは広告主に対して、選択肢を明確にしてきました。それは、Appleが示した条件の下、新しいエコシステムに完全に賛同するか、賛同しないかだけです。そのため、ユーザーの身元を特定しようとするいかなる試みも、ブロックされる可能性が高い。そうなると、広告主に残された選択肢はわずかしかありません。コンテクスチュアルターゲティングは、ファイバー(Fyber)のようなアプリ収益化企業が模索している分野のひとつですが、ターゲティングの有効性については、まだ明確な結論が見えていません。ほかにも、許容できる代替手段としてメールアドレスを勧めるアプリディベロッパーもいますが、十分な数の電子メールアドレスを調達することの難しさによって、こうした動きは制限されるでしょう。
決定論的手法と確率論的手法、そしてディファレンシャル・プライバシー(differential privacy:差分プライバシー)を組み合わせたデータ集約、およびアトリビューション戦略に目を向ける広告担当者は増えています。それでも、SKADNetworkはアトリビューション精度を高める上で重要な役割を果たすでしょうから、これは回避策とはいえません。
──Appleは他社のアドネットワークより、SKADNetworkを優遇していると聞きましたが、そうなのでしょうか?
広告主がSKADNetworkの機能の仕方を調べれば調べるほど、そのフレームワークはライバルに対して優位性を持っているように思えます。たとえばマーケターは、Apple独自のアドネットワーク上で運用されるキャンペーンに関しては、より詳細なデータを取得できます。
実際、App Storeの検索連動型広告で使われるアドアトリビューションAPIを使えば、clickDate、adGroupID、creativeSetIDを可視化することができます。サプライサイドプラットフォーム(SSP)のインモビ(InMobi)で、シニアプロダクトマネージャーを務めるセルジオ・セラ氏は次のように話しています。「これは、Appleが自社システムを活用する広告主に与えている、巨大で不公平なアドバンテージだ。インモビは、自社の提供物とエコシステムの質を向上させ続けるために、競争を歓迎している。しかし、Appleのようなプラットフォームが競合相手となる場合は、そもそもの平等性が担保されていることが必要不可欠だ」。
広告主たちのなかには、トラッキングの取り締まりが本格化する「数週間のあいだ」に、こうした不平等性が解消されると、希望を抱いている企業もいます。そうしないと彼らは、規制の観点から非常に立場が悪くなる可能性があります。
──ほかに、Appleが対応するべき問題はありますか?
SKADNetworkに関するAppleの意図は明白ですが、その具体的な運用方法については、依然として複雑性を帯びています。インモビのような大手企業は、多くの利害関係が絡んでいるため、Appleが定めたルールに従って行動するでしょう。しかし小規模なプレイヤーを監視するのは厄介です。エコシステムは広大であり、一部のステークホルダーが疑わしい慣行を採用している可能性も多いにあるのです。
[原文:For the IDFA-curious, WTF is Apple’s SKADNetwork?]
SEB JOSEPH(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)