3Dボディスキャンは、人の手を代替できるレベルではない:アパレルリテーラーの現実

アパレルのリテーラーにとって、3Dボディスキャンはもしかしたらフィッティングのプロセスを抜本的に変えてしまう万能薬のような可能性を持っていた。しかし、いま彼らが気付いた現実は、人間ができることすべてを再現できるようなマシーンではない、ということだった。データを集めることには適しているが、難しい判断をこなすまでには至っていない。人間が使うことで業務を改善できるツール、というレベルにとどまっている。

かつて語られていた夢は「空港にあるような動く歩道を通り過ぎたら採寸がすべて完了してしまう」ようなものであったと、ボディスキャナーを活用してカスタムメイドのスーツを購入できるアカスタム・アパレル(Acustom Apparel)のCEO、ダン・ノークロス氏は言う。しかし何年もの試験運用を通じてアカスタムのようなブランドたちが達した結論は、フィッティング体験のすべてを3Dボディスキャンで代替することは不可能だということだった。正しいフィットがどのように感じるか、という主観的な感想に加えて、姿勢といった要素も加わり、顧客ごとの好みの問題もあるからだ。

「(このプロセスが)いかに複雑で詳細に渡るか、理解している」と、ノークロス氏は言う。

「専門家の目が必要」

アカスタム・アパレルやアルトン・レーン(Alton Lane)、そして香港ベースのゲイ・ジアーノ・テイラー(Gay Giano Tailor)といったカスタムメンズウェアブランドたちは、3Dスキャンの技術を使って、体型のデータを収集している。そして、デザイナーや製造元がテイラースーツを正確な寸法に基づいて製作するためのデジタルアバターを作っている。採寸プロセスの一側面を標準化し、採寸における不均質という問題を避けることが、目的だ。

アカスタム・アパレルを2年前にファウンダーのジャマル・モットラフ氏から買収したのがノークロス氏だったが、彼によると、アカスタム・アパレルは3Dボディスキャン技術が人間による業務を代替する可能性を持っているという信念に基づいて創立されたという。しかし、この技術にも限界があることが明らかになったが、アカスタムは人間を配置することで、各顧客にとっての「ベストフィット」が何を意味しているかを見極め、適応してきたという。

「時間をかけて、我々の体験は3Dスキャン技術がカスタムメイドのプロセスを拡張し、スムーズにする、という性質のものになった。しかし、フィットした衣服を作ることには、専門家の目が必要とする」と、彼は言う。

ソフト面でも改善必須

14のカメラから成る3Dデバイスによって顧客がスキャンされたあと、ソフトウェアがスキャンを解析し、人間のスタッフによるフィードバックを入力したのちに、この情報はデザインプロダクションチームに送られる。そして、3〜6週間で顧客の自宅へと配送される仕組みだ。マシーンは何十万ものデータポイントからデータを収集するが、フィッティングのプロセスで決定的に大事なのは、個人について学ぶことだ。ライフスタイル、習慣、姿勢のパターンといった情報は、人間のスタッフが観察し、質問することでしか手に入らない。

「(マシーン内では)顧客は立ち止まった姿勢だ。それはちょっと自然ではない。その人の姿勢を多少は理解できるが、情報の多くは、スタッフがスキャナーの外で、本人と話をし、歩き方や立ち方を観察することで得る。それによって、『この人の歩いたり座ったりするときの姿勢は、どんなものか?』といったことが理解できる」と、彼は言った。

ボディスキャニングの機械自体だけでなく、データを解析するソフトウェアも非常に重要だ。人間のスタッフがこのフィッティングプロセスから完全に必要なくなるまでには、ソフトウェア面でもさらなる改善が必要となる。

標準化できるのは利点

アルトン・レーンは創立して9年のカスタムメンズウェアブランドだ。彼らもまた、フィッティングの作業にボディスキャンを取り入れている。バーで座り、顧客が店員と話すというプロセスが、そのなかの一部となっている。ファウンダーのコリン・ハンター氏によると、スキャナーを1年間使ったあと(スキャナーの利用は創立時から行われている)、フィッティングプロセスの一環としてサンプルのアイテムを顧客に提供しはじめたという。また、スキャナー以外にも、スタッフの手によって10ほどの寸法を取るという。顧客の好みにあった、主観的な「フィットしている」という感覚を測るためだ。

「(ボディスキャナー)は魔法の箱ではない。顧客のなかには、スキャナーが完璧なプロダクトを生み出してくれると考えている人もいる」と、ハンター氏は言う。このようにスキャナーの性能を過信してしまう顧客がいるため、ボディスキャンのマシーンが何をできるのかについて、ちゃんと教える必要があるとのことだ。

しかし、スキャナーは巻き尺を使った、人の手による採寸に勝っている部分もある。人間スタッフに完全に任されてしまっている場合は寸法の一部は誰が採寸するかによって大きく違ってしまうものだが、それを標準化できるのはそのひとつだ。人間のスタッフによる採寸と照らし合わせて、マシーンの結果はダブルチェックされる。そして、製造されたあとに顧客は店舗にやってくることで、フィットに問題がないかどうか確認することも、希望すればできる。

この技術が進化すれば、将来的にはスキャンのデータを解釈し、マシーンラーニングや個人の好みに応じたレコメンデーションなどを行うことも可能になるだろうと、ノークロス氏とハンター氏は考えている。アカスタムはまさにこれを行うための技術を自社で開発しようとしている。いまのところは必要に応じて人間スタッフのサポートを加えている。

エコー・ルックへの期待

インドチノ(Indochino)もカスタムメンズウェアに特化したブランドのひとつだ。しかし彼らは、人間スタッフの関わりを完全に代替することができないために、ボディスキャナーは導入しないと述べている。その代わりに、彼らは3つのシルエットのテンプレートを試着してもらい、どれが顧客が求めるフィットに近いかを知るプログラムを行っている。そこから実際に服を作る前に、自社アプリを使ってフィット関連のツールをスタッフが駆使するという流れになっている。

インドチノのCEOであるドリュー・グリーン氏は「ボディスキャナーは顧客に話しかけることができない。衣服がどれくらいフィットして欲しいか、尋ねることができない。好みの長さやどこか居心地が悪い部分はないか、といった質問もできない」という。

より幅広いオーディエンスに達するためのスケーラビリティも大きな課題となっている。ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)は数年活用したあとで、ボディスキャナーを段階的に廃止した。コストだけを取ってみても、ほとんどのリテーラーにとっては実用的ではないレベルだと、フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリストであるサチャリタ・コダーリ氏は言う。Amazonは最近、3Dボディモデルのスタートアップであるボディ・ラブズ(Body Labs)を買収した。そしてこの技術を消費者向けに応用すべく、実験を試みてきた。エコー・ルック(Echo Look)というAlexa(アレクサ)によるファッションアシスタント機能を発表したのも最近だ。これによって人間のフィードバックと機械による自動のアドバイスを組み合わせて、ユーザーたちにファッションチョイスの助言を行っている。消費者たちがどのようにこの技術と触れるのか、ここに答えを見つけることができれば、さらに幅広い消費者にリーチすることができるだろう。

「ボディスキャン技術の分水嶺」

「ボディスキャン技術の分水嶺に、我々は現在位置している。しかし、利用するハードウェアは、リテーラーにとっても消費者にとっても、店舗や自宅に設置するのは格好悪いものだ。そのため、この技術をスケールするのが極めて難しくなっている。しかし、スマートフォンがより洗練されデバイス自体がスキャナーとなることができれば、リテーラーにとってのチャンスが一気に増えることになるだろう」と、モバイル・コマースプラットフォームであるGPショッパー(GPShopper)のファウンダーであるマヤ・ミカイロフ氏は言う。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:塚本 紺)