再生農法を優先しているファッション業界では、テキスタイルイノベーションの分野が新たな関心を呼んでいる。しかし、テキスタイルイノベーションは、環境に有意義な影響を生むために身体の熱を利用したソリューションを中心としている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ザ・ノース・フェイス(The North Face)の元幹部とスタンフォード大学エネルギー学教授が設立したライフラボ(LifeLabs)は、変化する世界に向けた素材ソリューションの開発において身体が発する赤外線と物理学を活用している。
生分解性素材や再生農法を優先しているファッション業界では、テキスタイルイノベーションの分野が新たな関心を呼んでいる。しかしまた、テキスタイルイノベーションは、環境に有意義な影響を生むために身体の熱を利用したソリューションを中心としている。これは、エネルギーを大量に消費する冷暖房器具への依存を軽減するために作られた、特定の素材の組み合わせによって行われている。
Advertisement
伸縮性や通気性を維持したまま熱を保つ新素材
12月に発売されたライフラボのメガウォーム(MegaWarm)ジャケットは、同社によると世界のどの衣料と比較してももっとも高い9.25というCLOの値を獲得している。CLOとはひとつの衣料品の断熱性の度合いを表す数値で、CLO値1は、室温が摂氏21度のときに、休んでいる人間にとって快適な温度を保つのに必要な衣服の数に相当する。そのジャケットを着た状態で屋外で快適な体温を保つことができる能力は、屋内に戻ったときに必要とされる暖房の量にも影響し、基本的に家庭用暖房機器の必要性を削減することが可能となる。
カナダグース(Canada Goose)のスノウマントラ(Snow Mantra)ジャケットは、CLOスコアが6.70、ザ・ノース・フェイスのサミットAMK L6パーカ(Summit AMK L6 Parka)は、CLOスコアが6.06だ。
「誰もが赤外線や熱を発しているので、赤外線放射をコントロールできれば、暖めることもコントロールできる」。ライフラボのCEOスコット・メリン氏の説明によると、ウォームライフ(WarmLife)の素材は、外側の生地と体温を反射する金属製の層の2層構造として機能している。「生地の伸縮性、多孔性、通気性はすべて維持したまま、赤外線放射と熱をすべて反射させ、断熱の必要性を最大30%削減する」。このジャケットはメンズとウィメンズのサイズXSからXLまでの展開で、LifeLabs.designで693ドル(約7万9600円)で販売されている。
新機能の衣服でエアコンへの依存を低減
ライフラボは、スタンフォード大学プレコートエネルギー研究所ディレクターで、省エネルギーに関する500以上の研究論文を執筆し、50の特許出願を持つイ・ツゥイ教授によって2020年に設立された。CEOのスコット・メリン氏は、以前ザ・ノース・フェイスでグローバルバイスプレジデントを務め、同ブランドの通気性のある防水アウターウェアを元にしたフューチャーライト(Futurelight)コレクションを開発した人物だ。多くの素材イノベーションが素材の組成に着目しているのに対し、ライフラボでは性能とエネルギーの使用削減を優先した、特許取得済みのテキスタイルに注力している。最終的にこの技術がより広く普及するようになれば、現在市場に出ていない新世代の省エネ衣料に情報を与えることができるかもしれない。
「メガウォームジャケットはその基準と範囲からしても驚くほど軽量で、保温衣料の一般的な基準を覆す」とツゥイ博士は述べている。「当社独自のウォームライフテクノロジーは、ペーパークリップ1個分以下のアルミニウムを使用し、30%少ない素材を使用して放射される体温を100%肌に反射させる」。
温暖化が地球に影響を与えているため、衣服はエネルギーを大量に消費するエアコンへの依存を減らす上で重要な役割を果たすことができる。国際エネルギー機関によると、エアコンの使用は気候変動の盲点となっており、建物内のエアコンや扇風機の使用は、世界のエネルギー消費の10%を占めている。
平均気温が上昇する中、衣服のイノベーションの需要が高まる
ライフラボはクールライフ(CoolLife)という衣料品シリーズでも革新的な取り組みを行っている。Tシャツや寝巻きといったアイテムを含むこのシリーズは、体感温度を4度下げるよう考案された。「生地の単純な分子構造によって、赤外線は100%生地を通して放射されるので、熱も100%生地から放散される」とメリン氏は説明している。「実際、ポリマーの化学的性質が皮膚から熱を奪う。まるで温度計が摂氏22度から20度に変わったような感じがする。試着した人からは、夜間にエアコンを使うのを完全に止めたというコメントもあった」。
世界気象機関が発表した新しい気候アップデートでは、今後5年以内に世界の平均気温が産業革命前より1.5度上昇する可能性が40%あるとされている。そのため、こうした衣服のイノベーションに対する需要は高まる一方だ。
米国を拠点とするライフラボは、今後10カ月で世界的に事業を拡大する予定だ。またライフラボは、自動車や家財道具などを含むほかの産業に自社が独占所有する素材を提供するべく、非公開だが多くのパートナーと協力している。
[原文:Material innovation update: Brands are betting on clothes that heat and cool]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)