「10年後には当たり前」:いまこそ知っておきたい、 インクルーシブマーケ の意味

この数年で、マーケティングキャンペーンを通じたダイバーシティおよびインクルーシビティの推進は、業界における標準となった。革新性はもはや感じられないが、それでもなお、ブランドにとってこの戦略は、新規顧客獲得だけでなく、売上増においても効果的であることが証明され続けている。

D2C水着メーカーのサマーソルト(Summersalt)から下着メーカーのミーアンディーズ(MeUndies)まで、多くのデジタルネイティブな若いブランドがインクルーシブマーケティングの効果を信頼し、さまざまなサイズや生い立ちの人々で広告を埋め尽くし、顧客との繋がりと、究極的には売上増によるブランドの成長を狙っている。そして、サマーソルトをはじめとする多くの若い企業にとって、こうしたインクルーシビティへのフォーカスは利益を生んでいるのだ。

サマーソルトの成功事例

サマーソルトは2019年6月17日、「エブリー・ボディ・イズ・ビーチ・ボディ(Every Body is a Beach Body)」キャンペーンを立ち上げ、年齢、サイズ、民族性の異なる30人の女性を起用した。サイズ24までの水着を販売するブランド、サマーソルトにしてみれば、この動きはきわめて理に適っていた。同社は当初から(2017年5月創業)商品を通じてボディポジティビティとサイズインクルーシビティを支持しており、インクルーシブマーケティングへの移行は次のステップとして論理的なものだった。

30人のさまざまに異なる女性の起用を決めたのは、同社の共同創設者レシュマ・チャンバーリン氏だ。彼女は水着の広告キャンペーンにおいて、インド人女性である自分のようなモデルを見たことがないことに気づき、そこでできるだけ多くの、さまざまな立場の女性を見せたいと思ったという。

「リプリゼンテーションとその重要性を考慮し、そしてもっと多くの女性に喜びを感じてもらいたいという思いから、あらゆる立場の女性をモデルとして起用することが、非常に重要であると感じた。誰もがさまざまな理由で、そうした女性に自身を投影できるようにしたいと考えたのだ」。

同キャンペーンの立ち上げ以来、サマーソルトはソーシャルメディアのフォロワー数を大幅に増やし、同時に売上も大きく伸ばした。なお、売上増の具体的な数字については、同社は明かしていない。

Z世代が求めるもの

こうした新進デジタルファーストブランドの多くが同様の戦略で成功を収めている。NYのコスメブランド、グロッシアー(Glossier)やミーアンディーズ、そしてリアーナが手がける両ブランド、フェンティ・ビューティ(Fenty Beauty)とサヴェージXフェンティ(Savage x Fenty)も然りだ。この背景には、若年層の顧客がインクルーシブで理念の見えるブランドから買うという事実があると、広告エージェンシー、ヤード(Yard)NYCの共同創設者でCEOのルース・バーンスタイン氏は語る。

「現時点で、これはZ世代[へのリーチ]にとって欠かせない。彼らはこれまででもっともダイバースで受容的な世代。彼らにしてみれば、どんな形であれ除外は不快となる」とバーンスタイン氏。

グロッシアーが展開する最新 (にして最大)の広告キャンペーン――テレビ、eメール、デジタル、ビルボードを網羅――では、社員とブランドの熱心なファンを起用し、マーケティングの信頼性とインクルーシビティの向上を図っている。リアーナの両フェンティ・ブランドも同様で、デジタルマーケティングにおいて、さまざまなボディタイプと民族性の女性を起用しており、サヴェージXフェンティのランウェイショーにもそのダイバーシティを反映させた。ミーアンディーズも実際の顧客をマーケティングキャンペーンに活用しており、先頃、自社下着製品のサイズ展開をよりインクルーシブなものへと切り替えた。

古株ブランドには要注意

ミーアンディーズといった若いブランドには新規性という利点があり、そのため彼らには、たとえばヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)のような、非排他性をあえて打ち出した履歴がない。

「下着市場の古株は長年、手の届かない完璧なイメージを広告で打ち出してきた。そのため現在のマーケティングトレンドを即席で取り入れたキャンペーンを展開しても、誠実性が感じられない。彼らの本性はかなり前から明らかになっている。一方、我々は個人に勇気を与えることで、そうした現状を変えようと不断の努力をしてきた」と、ミーアンディーズのシニアブランドマネージャー、グレッグ・ファス氏は語る。

そしてもちろん、トレンドへの便乗についてはどのブランドにも慎重な姿勢が求められる。

「インクルーシブマーケティングでは、それが自社ブランドにとって正しい選択なのかどうか、しっかりと見極める必要がある。現在のトレンドらしいという理由だけで便乗しているのか? それとも新たな開口部を本当の意味で広げる努力をしているのか? たとえば、LGBT支持を安易に打ち出したせいで反発に遭ったブランドを我々は数多く目にしてきた」と、バーンスタイン氏は語る。

10年後にはあたりまえに

また、いま現在インクルーシブマーケティングに関する話し合いを持つことはブランドにとって価値があるが、それもこの話題性が消えるまでの話だと、バーンスタイン氏は指摘する。

「インクルーシビティ自体はすでに勇気の印でなくなっている、そしてそれは素晴らしい」とバーンスタイン氏。「これはつまり、インクルーシビティが常識になりつつあるということであり、願わくは、いまから10年後には話題に上ることもなくなっているだろう。Z世代が今後、消費者層の中心的存在へと成長していくなか、インクルーシビティに関する会話がどう進化していくのか。それを見定めるため、我々は彼らの動きを注視していく」。

広告のメッセージが社の実態と合わない場合、インクルーシブマーケティングの強化はネガティブな結果を生みかねないと、クリエイティブエージェンシー、オプティミスト(Optimist)のアカウントマネージャー、ノミ・レジャー氏は指摘する。

表向きだけではボロが出る

D2Cブラジャーブランド、サードラヴ(ThirdLove)は2019年9月、、ブラック企業体制に関する10人の元および現役社員による訴えをザ・グッズ・バイ・ボックス(The Goods by Vox)が公にしたことを受け、猛烈な非難を浴びた。この体制について、共同CEOデヴィド・スペクター氏(共同創設者で共同CEOハイディ・ザック氏の夫)が責任の一端を担っていることも明らかになった。ボックスの報告書によれば、彼ら元/現役従業員はやる気をくれる、女性主導の職場環境という、同社が高らかに謳っていたインクルーシブな企業文化を期待して入社したが、待っていたのはネガティブな社内文化、低賃金、不十分な福利厚生、そして交渉の余地はほぼないという現実だった。

「我が社は女性が創業し、女性が営む、女性のための会社だというのはたやすいが、それには産休制度、避妊も含むヘルスケア、十分な家族休暇制度など、その言葉を裏打ちするだけの構造的な部分をすべて備えている必要がある」と、レジャー氏。「また『女性の活躍推進』を口にする際は、マーケティングの観点から、ビジュアルの観点から何を提示するべきか慎重に考える必要もある。これは非常にリスキーなことだからだ。もしも女性の活躍推進についてひとつの固定観念しか提示できないと、つまり我々が女性の活躍推進の概念を決定してしまうと、女性たちをまたひとつの箱に押し込めてしまうことになる」。

KATIE RICHARDS(原文 / 訳:SI Japan)