ブランドがウォルマート(Walmart)を恐れていた時期があった。だが、いまウォルマートが所有するeコマースサイト、Jet.com(ジェット・ドットコム)は、Amazonに対する不安を利用して、自社サイトを「友人」と位置づけようとしている。【※本記事は、DIGIDAY+会員以外の方にも『note』にて個別販売中(190円)です!】
ブランドがウォルマート(Walmart)を恐れていた時期があった。だが、いまウォルマートが所有するeコマースサイト、Jet.com(ジェット・ドットコム)は、Amazonに対する不安を利用して、自社サイトを「友人」と位置づけようとしている。
Jet.comは、Amazonだけでなく親会社のウォルマートの影にも隠れて、eコマース市場でのシェアと継続的な関連性を得るための厳しい闘いをしている。差別化のため、CEOのマーク・ロア氏率いる同サイトは、ブランドをプラットフォームの中心に据える戦略を立てつつある。ユーザーの位置に基づいて、現地で作られた商品にスポットライトを当てたり、家族経営の小規模ブランドを販売したりしているのだ。高級ブランドは自由に価格設定できる。顧客は、検索履歴の傾向ではなく、美的センスに基づいて発見するよう促されている。
反Amazon的アプローチ
Amazonが主導するeコマースは、効率性の最大化にシフトしているが、Jet.comは、体験の重要性を強調して、どうにかやっていこうとしている。
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初の最高顧客責任者として2017年にJet.comに参画したデビッド・エチェゴエン氏は、次のように語る。「eコマースでは、できるだけ短時間に調べさせることに軸足を置いて、体験が構築された。検索の最適化とアルゴリズムだけに基づいて成り立っているショッピングだ。我々は、そうしたものにノーと言おうとしている。オンラインであっても、ブランドや商品を発見する魅力を取り戻したい。我々のようなマーケットプレイスでは、ブランドはごちゃ混ぜのなかで見失われることが多い。だから、もっと内容豊かなストーリーテリングで顧客に近づき、いまでは見つけるのが難しくなっているブランドと結びつくさまざまな方法を作り出すことによって、ブランドの足場を築こうとしている」。
これは、オンラインで紙おむつのパンパース(Pampers)やペーパータオルを買うのにはロマンチックな、新しい視点だ。そこが大事なところだ。Jet.comは、顧客にとって、クリックするだけの実用的なショッピングセンター以上の存在になりたいと思っている。そうしたものは、すでにAmazonにあるからだ。Amazonのシェアを奪い、ウォルマートの支配下で繁栄するために、同社は、都会のリッチなミレニアル世代という特定層をターゲットにしている。こうした層は、現代の小売業者――眼鏡のオンライン販売で知られるワービー・パーカー(Warby Parker)が出現してこの層にアピールして以来、基本的に、流行の先端を行く新興デジタルネイティブ企業すべて――に見落とされることはほとんどない。だが、エチェゴエン氏から見ると、量販型オンライン小売はまだ、流行に敏感な都市在住の若者の感性や美的センス、望ましいショッピング体験に精通していない。
高級ブランドからのお墨付き
このアプローチはすでに、Amazonの手が伸びていない高級ブランドにJet.comが手を広げるのに役立っている。エチェゴエン氏によると、次のようなブランドからJet.comでの販売を持ちかけられたという。たとえば、グッチ(Gucci)やセリーヌ(Céline)、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)のような高級ファッションブランドはいずれも、Jet.comで販売を行っている。しかも、化粧品や香水だけでなく、ハンドバッグやアクセサリーも同サイトですべて提供している。
こういったブランドによるお墨付きは、2016年にJet.comを33億ドル(約3600億円)で買収したウォルマートよりも、もっと国際的なeコマースプラットフォームとして自社を強化するのに役立っている。Jet.comは、ウォルマートのCEOであるダグ・マクミラン氏が、2月に収支報告で投資家に予告した、創業間もない頃の急成長から成長ペースを鈍化させる動きとして、マーケティングを都市部だけに集中させる計画だ。ウォルマートはJet.comの売り上げを公表していないが、買収はウォルマートのeコマース売り上げの44%急増に貢献している(ウォルマートは、eコマースにおける特定の売り上げの数字も公表していない)。とはいえ、そうした顧客を獲得するとなると、Jet.comは、顧客が関心を抱くブランドも勝ち取らなければならない。
「ブランドとは双方向の提携関係を結んでいる。いっしょに築いていけるというメッセージを送りたい。当サイトの顧客がもっとも魅力的だと思うものをブランドが理解するのに役立つ、驚くほどのデータを当社は保有しており、購入プロセスを皆にとってもっと適切なものにするために、そうしたデータを共有する用意がある。Jet.comは、有力ブランドが都市部のリッチな顧客を見つける手助けをするためにあり、そのような規模で小売業者を利用できないブランドを立ち上げるのにも、うってつけのプラットフォームだ」と、エチェゴエン氏は語る。
「ブランドを優先したい」
顧客データの共有やブランドとの関係の優先、ブランド立ち上げの促進は、eコマースへの反Amazon的アプローチだ。Jet.comは、食料品の配達サービスなど、必須のものを提供する一方で、もっとライフスタイル重視のマーケットプレイスを実現するブランドとの提携関係を築くことも検討している。ファッションや家庭用品、美容、スキンケアといったカテゴリーの製品やブランドは、市場ごとにローカライズされているので、ニューヨークの買い物客は、ザ・ランドレス(The Laundress)やハッピー・ベビー(Happy Baby)、S.W.ベーシックス(S.W. Basics)のようなニューヨーク発のブランドをブラウジングできる。
「Amazonは、個々のブランドから関心をそらせ、Amazonファーストの決定を下すことで評判を得た。ブランドにとってすばらしいパートナーでないことは有名だ」と、市場調査会社ガートナー(Gartner)の傘下にある米デジタル調査会社L2の調査責任者、クーパー・スミス氏はいう。「Jet.comは、それとは反対のアプローチを採り、突出する手段としてブランドを優先したいと考えている」。
「このアプローチは、新しいブランドをJet.comの傘下に置くことをめぐって、意志決定の情報も提供してきた。ウォルマートがeコマースサイトのボノボス(bonobos)を買収したとき、ボノボスのCEOであるアンディ・ダン氏は、ウォルマートのデジタルコンシューマーブランド担当シニアバイスプレジデントに任命された。ミレニアル世代対象のブランドをJet.comのマーケットプレイスに誘導するだけでなく、そのポートフォリオも所有する計画だ。ボノボスは、モッドクローズ(ModCloth)に次ぐ2番目の買収案件だった。
「このコレクションを、『デジタルネイティブブランドにとってのLVMH』と呼んでいる。プレミアムなコレクションになるが、それは価格が理由ではなく、品揃えが理由だ。消費者のあいだでブームを作りつつある」と、ダン氏は語った。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)