熱心なアニメファンにとって、ストリーミングサービス「クランチロール(Crunchyroll)」は、日常生活の一部になっている。そしてこの1年、同ブランドは積極的に事業拡大をしてきた。オーディエンスのさらなる満足をめざし、コマース、イベント、ライセンス供与、オリジナルコンテンツに進出しているのだ。
熱心なアニメファンにとって、ストリーミングサービス「クランチロール(Crunchyroll)」は、長年にわたり欠かせない日常生活の一部になっている。そしてこの1年、オッターメディア(Otter Media)傘下の同ブランドは、積極的に事業を拡大してきた。オーディエンスのさらなる満足をめざし、コマース、イベント、ライセンス供与、オリジナルコンテンツに進出しているのだ。
今年8月、クランチロールは初のコンベンションを開催し、3日間で1万6000人の来場者を集めた。それに先立つ7月には、初のオリジナルアニメシリーズの制作を発表。予定されている50作品のうち、第1弾は日本有数の制作会社NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパンとの共同制作となる。さらにさかのぼって1月には、初の「アニメムービーナイト」を開催。映画配給会社スクリーンビジョンメディア(Screenvision Media)と提携し、全米300館以上の映画館でアニメ映画を上映した。
これらのプロジェクトは、イベント、コマース、小売提携など新たな収入源を求める事業開発部門に相当の資金が投入された結果だ。社員数300人のクランチロールにおいて、同部門の従業員数は25人を超えている。
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「自然な流れだった」
「ほかの事業に進出するのは自然な流れだった」と、クランチロールのCOOを務めるコリン・デッカー氏は語る。「我々は、コマースやイベントを単なる売上増加の手段とは考えていない。我々はまず、『これはオーディエンスが求めるものか?』と自問し、答えがイエスなら、それを実現する手段を見極める」。
ごく最近まで、クランチロールの主な収入源は有料サブスクリプションだった。同社によると、登録者は100万人に上り、それぞれが6ドル95セント(約790円)または11ドル95セント(約1360円)を払い、広告なしのアニメ見放題を楽しんでいる。現在のエピソード数は2万5000本だが、2016年は1万5000本だったことから、急速に拡大していることがわかる。
ただし、クランチロールでコンテンツを視聴する全員が有料登録しているわけではない。「有料登録をしなくても、ライブラリーの大量のコンテンツを視聴できる。ただし広告収入に支えられているので、わずらわしいほど大量の広告が入る」と、デッカー氏は明かす。
「彼らは業界を変えた」
和製コンテンツを扱うライバルの多くが依然としてDVDとホームビデオにこだわるなか、ストリーミングに早くから注力したおかげで、クランチロールはアニメファンのあいだで優位な立場を確保。「彼らはある意味で業界を変えた」と、クランチロールと競合するファニメーション(Funimation)に12年勤めたコンサルタント、ランス・ハイスケル氏は指摘する。「デジタルストリーミングを手がける全社をランク付けするなら、彼らがナンバーワンだ」。
覇権を確立したことで、デッカー氏らクランチロール幹部は、サブスクライバーをライバルに奪われる心配をせずにすんでいる。実際、クランチロールはたびたび、自社が国外配信権を保有するコンテンツを、NetflixやHuluに非独占条件でライセンス供与している。その目的は単純に、アニメ全般への関心を高めることだ。「そうしたプラットフォームを使って新たな層にリーチできるなら、そうするまでだ」と、デッカー氏は語る。「よその視聴者がアニメをもっと深く知りたいと思ったら、クランチロールにやって来るだろう」。
こうした状況から、クランチロールは既存のオーディエンスからさらに売上を引き出すことに余念がない。同社はユーザーの動向を、自社サイトのフォーラムに加え、Facebook、YouTube、Twitterといったプラットフォームも含めて注視している。コミュニティマネージャー20人以上からなるチームがあり、週に1度プラットフォーム内外の書き込みを精査して、オーディエンスのセンチメント分析を実施している。
「クランチロールはいつでも、オーディエンスとのコミュニケーションを得意としてきた」と、ハイスケル氏は評価する。「彼らのサイトを訪れると、番組と一緒にフォーラムがまず目に入る」。
徹底的なオーディエンス分析
クランチロールのオーディエンス分析は、デジタル空間のなかにとどまらない。彼らはデッカー氏が「民俗学研究」と呼ぶ取り組みも実施していて、定期的にイベントへ取材班を派遣し、来場者へのインタビューを撮影する。さらに年に数回、10~20人のサブスクライバーの自宅に調査チームを派遣し、好きな番組や嫌いな番組を聞き出す。
こうした取材で得た知見(デッカー氏の言葉を借りれば「発掘品」)は、クランチロールのサブスクライバー層を理解するための検討材料として社内で活用される。「我々は、クランチロールのファンがどんな人たちなのかを徹底的に把握する必要がある」と、デッカー氏は語る。
新事業からの売上高を尋ねたが、クランチロールは回答を避けた。ただし、初期の収支は好調なようだ。同社はこれらの事業に収益性を認めており、コマース、ライセンス供与、イベント、小売提携のすべてについて、2018年度も拡大を予定している、とデッカー氏は語る。さらなる新分野、たとえばレストラン事業に参入する可能性もあり、デッカー氏は「まったくの手つかずで、非常に興味深い」と評した。
「ブランドが事実上のライフスタイルになれば、事業の選択肢が大きく広がる」と、デッカー氏は語る。
Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)