P&Gブランドの女性向けカミソリブランド、ジレットヴィーナス(Gillette Venus)は8月4日、任天堂の大ヒットゲーム「あつまれ どうぶつの森(Animal Crossing New Horizons)」を介して「スキンクルーシブ(Skinclusive)」キャンペーンを開始した。
カミソリの役目は、当然ながら毛を剃ることだ。P&Gブランドの女性向けカミソリブランド、ジレットヴィーナス(Gillette Venus)はこの機能を20年近く磨き上げてきた。
近年、カミソリ市場にはビリー(Billie)、アテナクラブ(Athena Club)、フラミンゴ(Flamingo)をはじめD2Cブランドが次々に参入し、一大勢力となっている。ヴィーナスはそんな市場でのイメージを変えるため、さまざまな取り組みを行っている。世界最大の女性向けカミソリブランドを自称する同ブランドは、2018年に「マイスキン、マイウェイ(My Skin, My Way)」という大規模キャンペーンでブランドイメージの変化を試み、それ以降もミレニアル世代やZ世代に強いオンラインプラットフォームで製品展開を続けている。
たとえば、任天堂の大ヒットゲーム「あつまれ どうぶつの森(Animal Crossing New Horizons)」で、肌をリアルに表現したデザインを多数公開しているのもそのひとつだ。ヴィーナスが8月4日に開始したキャンペーン「スキンクルーシブ(Skinclusive)」では、同ブランドが過去2年間で特に重視している肌の問題を、どうぶつの森のアバターという形で制作、公開している。同アバターではそばかすやニキビ、セルライト、傷跡、皮膚線条、そして体毛などがリアルに表現されている。
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P&Gの2019年度決算報告を見ると、同社のカミソリ世界市場におけるシェアは60%で、2018年度の65%から減少傾向にある。同社はヴィーナスの刷新だけでなく、昨年にはジョイ(Joy)をローンチし、2020年1月にビリー(Billie)を買収している。
ヴィーナスのシニアブランドディレクターを務めるアンソニー・ファン・ダイク氏は「以前のヴィーナスは、多様性(ダイバーシティ)と包括性(インクルージョン)の面で全女性を完全に代表するブランドというイメージはなかったかもしれない」と語る。「2018年の刷新において、ヴィーナスがすべての女性に向けたブランドであることをはっきりとアピールすることが非常に大切だった。多様性や包括性の面だけでなく、違いを生み出すこと、そしてブランドの目的意識をはっきりさせることを特に重視した」。
ゲームを通じて消費者とつながる
マーケティングエージェンシーのブレイブ(Brave)でメディアプランナーを務めるソフィー・ラッセル氏は、「いまやボディポジティブなメッセージを発信していない消費者ブランドを見つけるほうが難しい」と語る。「ダヴ(Dove)が2004年に行った本当の美しさを打ち出したキャンペーンは革新的で、しばらくは市場で圧倒的な存在だった。その後10年ほど、後追いのブランドが同様のアプローチを採用する流れが続いた。従来からある大手ブランドに欠けていた消費者との真のつながりを生み出し、シェアを奪おうとするブランドが登場した」。
ヴィーナスは、どうぶつの森キャンペーンでオンラインデザイナーのニコール・クッディヒィ氏と提携し、ゲーム内で選べる8つの肌色をベースに19種類の肌モデルを作成した。アバターでは一般的な肌だけでなく、白斑や入れ墨、乾癬、身体障害等、さまざまなデザインが制作されている。
美容ブランドは近年、ゲーム業界との結びつきを強めている。マーケティングにどうぶつの森を利用しているファッションブランドは、グロッシアー(Glossier)やグロウレシピ(Glow Recipe)、パルファム・ジバンシー(Parfums Givenchy)、タッチャ(Tatcha)、ヴァレンティノ(Valentino)、マークジェイコブス(Marc Jacobs)、ネッタポルテ(Net-a-Porter)、コーチ(Coach)など実に多い。
ボディポジティブな広告が主流となっている一方で、ゲーム業界ではグランド・セフト・オート(Grand Theft Auto)など、女性の名誉を貶めるような描写を減らすべきだという批判がしばしば見られる。
「調べていくうちに、過去のゲームでは女性の表現方法がひどいものも多かったと気づかされた」と、ファン・ダイク氏は語る。
リアルな表現で現実を反映
ヴィーナスのどうぶつの森との提携はパンデミック中に考案された。同ブランドはこれまで休暇中のビーチを舞台にしたキャンペーンが多かったが
「アウトドアの絵を見せるのは無神経だと思った」とファン・ダイク氏は語る。「自宅でほとんどの時間を過ごしている人が大半で、ゲームをする時間も増えている」。
同キャンペーンではどうぶつの森のゲーム内のビーチに多様な肌のキャラクターが並んでいる。これは2001年のブランドのローンチから2018年にいたるまで、ヴィーナスのキャンペーンに登場した人間のモデルとは対象的だ。当時の広告では、一様にすらりとした脚の細い女性モデルがビキニ姿で、「アイム・ユア・ヴィーナス」という歌詞に合わせて踊る姿がよく描かれていた。以前のカミソリの広告には、明らかにカミソリが不要な、毛の生えていない滑らかな肌のモデルが起用されることが多かった。2018年以降、実際に脇毛がうっすらと生えていたり、帝王切開の跡や妊娠線があったりといった現実的なモデルをテレビCMで採用しているのとは対照的だ。ヴィーナスはインスタグラムアカウントでは、さらにビキニラインの毛まで映した投稿を行っている。
「結局のところ我々はシェービングブランドであり、すでにシェービングされた肌にカミソリを当てるのは現実を反映していないし、誤解を招く」と、ファン・ダイク氏は述べている。
買収したD2Cブランドの影響
ヴィーナスが2018年に行ったリブランディングキャンペーンは、カミソリブランドのD2Cスタートアップ、ビリー(Billie)が同年に行った「プロジェクト・ボディ・ヘア(Project Body Hair)」キャンペーンを受けて行われたと考えられている。ビリーの同キャンペーンは女性の体毛を映したという点でパイオニアとも呼べる存在となっている。同ブランドはその後も「ムーベンバー(Movember)」というキャンペーンでは唇の上の毛が生えた状態の女性を映し出している。
ラッセル氏は「ビリーが実際に体毛を剃るキャンペーンで数百万規模のオーガニックな再生数を獲得し、大きな波紋を広げたのを見て、ヴィーナスも同様のキャンペーンの必要性に気づいたのだろう」と語る。「テレビCMで多額を投じられたブランドはジレットが初だ」。
ビリーは現在、Z世代やミレニアル世代のモデルたちがヴィーナスよりも濃い体毛をシェービングしている動画をYouTubeに投稿している。
ヴィーナスがデジタルチャネルへ移行したのも、若い層へのリーチにおいて重要だったとファン・ダイク氏は語る。「ヴィーナスのローンチは2001年で、テレビや紙媒体を重視したブランドだった」と、同氏は語る。「メディアを取り巻く環境は当時から大きく様変わりした。消費者はSNSやゲームに夢中で、オンラインショッピングが激増している。それにあわせて私たちの投資も変化している」。
「こういったメッセージでは、ターゲティングが非常に重要になる。若いオーディエンスに刺さる内容でありつつ、年配のカスタマーも疎外感を感じさせないことが大切だ」と、ラッセル氏は語る。「その点デジタルにはハイパーターゲティングという強みがあるし、そもそも若い層へリーチしやすいチャネルといえる。だが、テレビもいまだ有効だ。若いオーディエンスに支持されている、オープンで誠実な番組は利用価値が高い」。
[原文:Animal Crossing and arm hair Gillette’s Venus adapts to a new era of digital feminism]
LIZ FLORA(翻訳:SI Japan、編集:長田真)