未曾有の危機のなかで行われた米大統領選挙。広告業界においてもオンライン規制やデータ収集、増税など、大きな関心を集めた選挙となった。そこで、今回、米DIGIDAYは米国の広告主協会で政府関係担当EVPを務めるダン・ジェフ氏にインタビューを行った。
未曾有の危機のなかで行われた米大統領選挙。広告業界においてもオンライン規制やデータ収集、増税など、大きな関心を集めた選挙となった。
コロナ禍による経済への大打撃だけではなく、現在はさまざまな懸念が渦巻く時代である。大手ITプラットフォーマーは世界中の声を拾い上げる一方で、個人のプライバシーに大きな影響力を有している。また、社会が混迷するなかにあって、企業に対し、より高い倫理観を求める声が高まっている。新大統領に就任したジョー・バイデン氏は、一見するとトランプ前大統領ほど広告業界にわかりやすいメリットはもたらさないように映る。だが、同氏が掲げるプライバシーや消費者保護、独占禁止法関連のビジョンは、業界全体で考えたときにプラス材料も多い。少なくともバイデン氏が表明する公約からは、そのような期待値も伺える。
今回、米DIGIDAYは米国の広告主協会で政府関係担当EVPを務めるダン・ジェフ氏にインタビューを行った。同氏は「広告やデジタル通信が経済回復において果たしうる重要な役割」について業界全体で訴えていくと語る。
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なお、以下のインタビューは内容を明瞭にするため若干の編集とまとめを行っている。
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――バイデン氏が大統領に就任したが、広告主は大統領の計画のどこに注目すべきか?
現時点では、誰もはっきりしたことは言えないだろう。だがひとつ確かなのは、バイデン氏は広告業界を取り巻く諸問題にも焦点を当てようとしていることだ。代表例を挙げれば、彼は個人情報保護について高い関心を持っている。最近の政府データの漏洩を受けて、サイバーセキュリティ対策に乗り出すと明言していることや、感染者の追跡に伴う個人情報の問題についても言及している。これは、広告業界全体が抱える個人情報関連の問題にも大きな影響をもたらす可能性がある。また、先日の議事堂の乱入事件においてもSNSのあり方が焦点となった。最後になったが、デジタル税に関するバイデン氏の立場についても注視する必要がある。
国全体が大恐慌レベルの不況にあえぐなかで、いかなる形でも広告への負担は増やすべきではない。もしそうなれば、不況から抜け出すのはより困難を増すだろう。100年以上の歴史がありながら、今や倒産の瀬戸際に追い込まれている老舗企業すらある状況だ。必要なのは景気刺激策であり、広告は経済を牽引する原動力の一角であることは間違いないのだから。
――今のところ、主要なテーマとして個人情報問題に焦点が当てられている
現在、大統領の周囲には、個人情報問題について熱心に取り組んでいる人物がいる。副大統領のカマラ・ハリス氏はカリフォルニア州の元司法長官だ。個人情報保護に精通している。上院では民主党が過半数を占めているが、上院の通商委員会で委員長を務めるマリア・キャントウェル氏は、2019年には大規模な個人情報保護法を成立させている。そして上院議員のロン・ワイデン氏もまた、個人情報保護における関連法案の成立・施行の立役者だ。委員会メンバーを見ても、「個人情報保護法の父」とも呼ばれる上院議員のエド・マーキー氏、そしてリチャード・ブメンタール氏やブライアン・シャッツ氏、エイミー・クロバチャー氏など個人情報への関心が高いメンバーが名を連ねる。
さらに、共和党もまた個人情報保護法が必要だと訴えている。争点となるのは、連邦法とするのか州法とするのかの選択だ。州ごとに規制を設けることで、より効果的かつ効率的な広告が作れる可能性はある。少なくとも全米広告主協会のメンバー企業は、連邦法の専占で無効とされる可能性はあっても、州レベルの法規制を支援している。
――バイデン氏のSNSに対する公約をどう思うか?
バイデン政権は、トランプ政権よりも規制を重視するだろう。連邦取引委員会に影響力を発揮できるようになり次第、改革に乗り出す可能性がある。バイデン氏は、米通信品位法230条について懸念を表明している。これは、SNS等が、第三者の投稿内容について責任を負わないことを定めたものだ。同条項については共和党も同様に問題視している。
――広告主が、その言動を注視すべき上院議員はほかにいるか?
上院多数党院内総務がチャック・シューマー氏は注目に値する。同氏は広告の中心地であるニューヨーク出身であり、政治における自身の存在意義、役割を熟知する男だ。シューマー氏の上院やホワイトハウスに対する影響力は絶大で、広告業界の声も、少なくとも同氏には届くだろう。もちろん、聞き入れられるかについては実際にやってみないと分からないが。しかしこれまでシューマー氏が、広告業界を支持する立場をとってきたのは事実だ。2018年の税制改革でも、広告にかかる税金の控除案の撤廃に強く反対した。結果として控除案は残り、当初の控除率は勝ち取れなかったものの、その50%で成立させた。
――議席数で50対50となった上院だが、これが法案に及ぼす影響はあるか?
民主党の議員が死去あるいは障害など、何らかの理由で政治に参加できなくなった場合、議会が瞬く間に混沌とした状況に陥る。そうなれば法案の通過にも支障が生じる。実際トランプ政権でも、連邦準備銀行の理事の指名の際に共和党上院議員2名が病に伏して議事に欠席したため、承認プロセスが進まなかった。
[原文:‘More regulatory minded’ ANA’s lobbyist on what advertisers can expect from Biden’s presidency]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU