屋外(OOH)広告の販売は、2021年に再び増加しはじめた。2021年の第3四半期にはすでに、同業界の年間売上高は2020年比で10%増加していた。さらに、OOH広告のコストはパンデミック前の水準に戻っている。ブランドは屋外広告の活かし方を模索しはじめている。
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ブランドたちは、屋外マーケティングをよりインタラクティブに活用する方法を見出そうとしている。
屋外(OOH)広告の販売は2021年、このチャネルにおける広告が外出禁止令により停滞したのち、ふたたび増加しはじめた。OOH広告協会(Out Of Home Advertising Association)によると、2021年の第3四半期にはすでに、同業界の年間売上高は2020年比で10%増加していた。さらに、OOH広告のコストはパンデミック前の水準に戻っている。
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その結果、広告主はOOH広告に対して、さらに創造的になりつつある。
この分野のなかで際立ち、よりインタラクティブなマーケティングを行うために、各ブランドはNFTを従来型のビルボードに結びつけたり、店舗のウィンドウをライブパフォーマンスに変えるなど、あらゆることを試している。これらのブランドは、インタラクティブ性によって消費者が屋外広告を記憶し、ソーシャルメディアで共有することに期待している。またこれらのブランドは、屋外広告のベンダーがオンライン広告と競合するために提供している、より詳細なトラッキングデータも活用している。
ソーシャルシェアを念頭に
暗号通貨金融プラットフォームのジェミニ(Gemini)は昨年10月、屋外広告をインタラクティブなデジタル体験につなげる方法を探していた。ジェミニは広告代理店ベクターメディア(Vector Media)と提携し、ニューヨーク市のコロンバスサークルにあるデジタルサイネージを3年間の長期リースで借り受けた。同社は自社サービスにリンクする従来型の広告をプロモーションする代わりに、ビルボードをデジタルNFTオークションに接続することを決めた。
ジェミニは10月の数週間にわたり、デジタルサイネージで「ソリューション(a solution)」や「ピアツーピア(peer-to-peer)」などのフレーズを謎めいたやり方でシャッフルして表示。その後、同社は、これらのフレーズや単語がすべて、サトシ・ナカモト氏が2008年に発表したビットコイン(Bitcoin)のホワイトペーパーの一部だったことを明らかにした。次に同社はビルボードに表示された合計105のフレーズそれぞれを対応するNFT画像にリンクさせ、その画像をNTFマーケットプレイスのニフティゲートウェイ(Nifty Gateway)のオークションで購入できるようにした。
消費者はNFTに対して300ドル(約3万4200円)から4000ドル(約45万6000円)以上で入札し、収益はヒューマンライツファウンデーション(Human Rights Foundation)のビットコイン開発資金(Bitcoin Development Fund)に寄贈される。オークションが終了した現在、ジェミニはサイネージで自社の暗号リワードクレジットカードをプロモーションしている。
ベクターメディアで最高戦略責任者を務めるジム・マッカーテン氏は、OOH広告業界が「過去5年から10年のあいだに」、ソーシャルメディアにおける共有とデジタルサイネージテクノロジーの隆興によって大きく変化したと確信している。
マッカーテン氏は次のように述べている。「通常の広告には、スキップしてよい、無視してよい、見なくてもよいという雰囲気がある。しかし、屋外広告は見ざるを得ない。そして、それが良いものであれば、人々は現実で見たくなる」。
ジオターゲティングを行う屋外広告プラットフォームであるアドクイック(AdQuick)の共同創設者であるコナー・バーデン氏は、Z世代ミレニアル世代の4人に1人は、屋外広告の画像を自分のオーガニックなソーシャルメディアでシェアしたことがあるという、ニールセン(Neilsen)の調査結果を指摘している。バーデン氏は次のように述べている。「私は、これがある意味で最新の流行になっているのだと考えている。そして各ブランドはこのことをよく理解しているのだと思う。クリエイティブの面で柔軟にさまざまなことができることを考えるとなおさらだ」。
幅広いブランドがチャレンジ
実際に、幅広いカテゴリーのブランドがジェミニと同様に、自社の屋外広告をよりインタラクティブにする方法を見つけている。
たとえば、家庭用健康診断キットを提供するレッツゲットチェックト(LetsGetChecked)はニューヨーク市のフラットアイアンプラザに巨大なソファを設置し、コロナウイルスや糖尿病など30以上の病気をそれぞれ診断できるキットをプロモーションした。レッツゲットチェックトのマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるレベッカ・シルバー氏は、このキャンペーンが自宅で「ソファに座ったまま」簡単にテストを行えることを強調するためのものだとメールで説明した。健康テストはキャンペーン会場で行われるのではなく、同社の看護師が各種テストについての教育を提供し、今後の注文で使える割引券を配布した。
シルバー氏は次のように述べている。「我々がキャンペーンを行った2021年10月の時点では、パンデミックにより消費者が2年近く外出から遠ざかっていたため、当社は消費者と対面で接することができる安全で実験的なマーケティングキャンペーンを開催できることに期待を寄せていた。数千人の消費者が会場に立ち寄り、当社の臨床チームと商品に触れた。当社のアプリは数百回ダウンロードされた」。
ホリデーのショッピングシーズンに、ボンベイサファイア(Bombay Sapphire)はブルーミングデールズ(Bloomingdales)やメイシーズ(Macy’s)などのデパートの先例にならい、一連のウィンドウディスプレイを設置、展開した。しかし、ボンベイが前述の小売業者と異なるのは、ソーホーの空き店舗のウィンドウに、生身のモデルやダンサーを配置した点だ。通行客は、3つの異なるウィンドウディスプレイの前を歩きながら、シャバンテ・ロイスター氏の絵画やロメオハント(Romeo Hunte)のファッションを鑑賞し、そのあとでソーホーの地元のバーに入って、ボンベイサファイアのカクテルを無料で楽しむことができた。
ボンベイサファイアのブランドディレクターを務めるジェイム・ケラー氏は次のように述べている。「人々は間違いなく、より深い意味でのコミュニティ、つながり、体験を渇望している。当社は常識にとらわれない実験的な体験を消費者に提供するため投資している」。
屋外広告の役割が変化した
デジタル広告業界は今年、多少の逆風に直面した。たとえばAppleのiOS14でATT(App Tracking Transparency)/a>が運用開始されたことで、一部のブランドは自社の広告予算をソーシャルメディアから移行させることになった。実際にトラッキングデータが存在しないためにソーシャルメディアでの広告が多少精度が落ちている例として、ベラルディウォン(Balardi Wong)ではFacebook広告のコンバージョンが9%減少した一方で、屋外広告はデジタル面でアップグレードされ、広告ベンダーたちは提供するテクノロジーを増やしている。
たとえば、新興企業のクーラースクリーンズ(Cooler Screens)は、小売店舗の冷蔵庫とクーラーにデジタルスクリーンを設置。ベクターメディアは、デジタル化されたダブルデッカー(2階建てバス)の実験を行っている。これにより、タイムズスクエアサイズのデジタル広告を走らせることができる。アドクイックや、ラマー(Lamar)やブロードサイン(Broadsign)などの同業他社は、ブランドが自社の顧客を「店舗近くに在住」「徒歩による訪問」「車による訪問」などの詳細にいたるまでジオターゲティングできるよう支援している。
一方で、ブランドのエグゼクティブたちは、OOHへの投資を増やしつつあると語っている。たとえば、水着ブランドのアンディ(Andie)のメディアへの支出は、これまでソーシャルメディアが中心だったが、昨年ははじめて屋外広告や、各種デジタルサイネージ広告に投資を行った。
アンディの成長担当バイスプレジデントを務めるジェシカ・グラナタ氏は、メールで次のように語った。「ある意味で、iOS 14の登場したタイミングは当社にとって不都合ではなかった。当社の成長段階では、事業の幅を広げて、より上流でのマーケティングを増やす必要があったためだ。今年は当社にとって重要な年だ。当社は初めて実店舗の運営を試みることになる。我々は、新しい拠点の認知を高め、訪問客を増やすため、OOHを増やすことを考えている」。
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)
Image via Hagop Kalaidjian