デジタルマーケターとして活躍していたベンジャミン・アラボフ氏は2017年に実家の高級宝飾品店 ジェイコブ&カンパニー (Jacob and Co.)に戻り、そのソーシャルメディアでのプレゼンスで頭角を現すことになった。以来5年間、同社はインスタグラムとTikTok全体で350万人のフォロワーを獲得した。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
デジタルマーケターとして活躍していたベンジャミン・アラボフ氏は、2017年に実家の高級宝飾品店ジェイコブ(Jacob and Co.)に戻り、そのソーシャルメディアでのプレゼンスで頭角を現すことになった。以来5年間で、ジェイコブはインスタグラムとTikTok全体で350万人のフォロワーを獲得した。
文字盤に宝石を散りばめ、精緻な機能を持つ同社の高級時計は、魅力的なものやショッピング・ホール(購入品を紹介すること)に最適な動画プラットフォーム上で、オーディエンスに受け入れられた。
Advertisement
アラボフ氏は昨年、28歳のときに父親からCEOの職務を受け継いだ。父親は80年代にニューヨーク市のダイヤモンド街でブースを開いてはじめたビジネスを、5つの店舗とブティック、全世界で40以上の仕入れ業者を抱える国際ブランドにまで成長させた実績を持つ。ジェイコブは現在、年間1億5000万ドル(約173億円)を超える売上高を計上している。
ジェイコブはセレブリティのクライアントに事欠かない。歌手のビヨンセは歌のなかでこのジュエラーの名前を挙げ、俳優のゼンデイヤは「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(Spider-Man: No Way Home)」のレッドカーペットイベントに、同社の3万1800ドル(約366万円)のクモの巣型イヤリングを着用して登場した。しかし、若いアラボフ氏は同社のソーシャルメディア戦略を、より「フェイスレスな(顔が見えず特定できない)」マイクロインフルエンサーへと移行させた。マイクロインフルエンサーの典型例は、オンライン上で影響力を持ち、短い動画のなかで、人目を引く時計を紹介するハンドモデルだ。米モダンリテールのインタビューでアラボフ氏は、自身の家族のブランドのフォロワーをオンラインでどのように増やしたのか、そして時計のインフルエンサー分野全体について語った。
以下のインタビュー内容は明瞭さを考慮し、短縮したものである。
◆ ◆ ◆
――ジェイコブには現在、インスタグラムとTikTokでそれぞれ240万人と100万人のフォロワーがいる。フォロワーの増大をどのような方法で推進したのか?
私が当社のソーシャルメディアでの活動を担うことになったのは、2017年のことだ。当時、当社はインスタグラムのフォロワーは20万人程度で、それ以外のチャンネルにはほぼ存在しなかった。我々はその頃、10万から800万人のフォロワーを持つ時計のインフルエンサーに焦点を当てたインフルエンサー戦略を活用しはじめた。我々は彼らをフェイスレスなアカウントと呼んでいる。洋服や顔、ライフスタイルなどを公開するインフルエンサーとは異なり、我々はこの、時計だけに特化したインフルエンサーのネットワークを活用する。
そのアプローチの一環として、これらの50ものさまざまなアカウントと協力することで、当社のインスタグラムのプロフィールを240万人のフォロワーを抱えるまでに成長させることができた。この1年で、我々は、TikTokのプレイブックにも彼らを取り込んだ。

――インフルエンサー戦略はどのように行っているのか?
時計のインフルエンサーと積極的に協力している。彼らの各投稿に対して月ごとに報酬を支払っている。金額は、各インフルエンサーのリーチに応じて100ドル(約1万1500円)から1000ドル(約11万5000円)程度だ。彼らのなかには、当社のコンテンツを、毎週、1日おき、または当社と契約したスケジュールで共有してくる人がいる。
この戦略の優れた点は、オーガニックなマーケティングについてリップル(波及)効果が得られることだ。50のアカウントと協力してコンテンツを共有した場合、さらに50から100の別のアカウントが、そのコンテンツが好きだから、あるいは自分のページの成長に役立つという理由で、そのコンテンツを無料で共有してくれる。
――インフルエンサーたちは、御社に代わってどのようなコンテンツをシェアしてくれるのか?
いくつかの戦略が良い結果を収めてきた。そのひとつは「リストロール(手首回し)」動画と呼ばれるもので、2秒間で時計のバックルから、時計の文字盤までを映すクリップだ。
もうひとつは、箱を開けて中の時計を見せる「アンボクシング(開封)」と呼ばれるコンセプトだ。どちらも、商品自体を見たいと望んでいるユーザーのあいだに期待を生み出すという心理的な要素がある。
我々の時計は、人を驚かせるような要素があるため、これらのフォーマットとうまく適合する。ほとんどの場合、ひとつの時計のなかに異なる複数のコンプリケーションを組み入れている。たとえば、ブガッティシロン(Bugatti Chiron)モデルは、高級自動車メーカーのブガッティと共同開発したもので、実際に動作する自動車エンジンのレプリカを内蔵した史上初の時計だ。
@jacobandco The Bugatti Chiron Green Sapphire takes upwards of 3 months of high level machinery and hand polishing to complete #jacobandco #cars #watches #bugatti ♬ original sound – Jacob & Co.
ブガッティシロンモデルを着用したハンドモデルによるリストロール動画
また、インスタグラムのリール(Reels)においてパフォーマンスが劇的に向上していることも確認した。通常の動画投稿の再生回数が約5万回程度であるのに対し、リールでまったく同じ動画を投稿すると、再生回数が30万回に達することがある。これは、インスタグラムがこの機能を促進し、Explore(発見)ページに表示させようとしているためだ。
――ソーシャルコマース戦略は持っているか?
現在は、ライクショップ(LikeShop)というツールを使用して、インスタグラム投稿を自社ウェブサイトの各商品ページに結びつけている。今のところ、eコマースを提供していないが、第1四半期にショッピファイ(Shopify)を使ってオンラインストアを立ち上げる予定だ。その後、インスタグラムショップ(Instagram Shop)で直接商品の販売を開始する予定だ。
[原文:‘An organic ripple effect’: Inside Jacob and Co.’s world of ‘faceless’ watch influencers]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Jacob and Co.