ファッションは Amazon において大きなビジネスに成長したが、アパレルの各ブランドは価格設定に頭を悩ませている。設定した価格により、そのカテゴリーが今年どれだけの業績を挙げるかが左右される可能性があるからだ。これは、インフレやサードパーティーとの競合など広範囲な問題と関係している。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ファッションはAmazonにおいて大きなビジネスに成長したが、アパレルの各ブランドは価格設定に頭を悩ませている。設定した価格により、そのカテゴリーが今年どれだけの業績を挙げるかが左右される可能性があるからだ。
これは、インフレやサードパーティとの競合など広範囲な問題と関係している。出品者やコンサルタントによれば、ペースが速く動的なAmazonの販売環境において、各企業はeコマースのマーケットプレイスでの地位を固めるために、さらに多くの資金と時間をつぎ込むようになってきている。
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価格設定にリソースを費やす出品者たち
CNBCが引用したウェルズファーゴ(Wells Fargo)の調査によれば、Amazonは2020年に米国で最大のアパレル小売業者に成長した。これはおもに、パンデミックの最中にeコマースの売上が急増したことが理由だ。ウェブ分析会社のシミラーウェブ(Similarweb)のデータによれば、2021年11月までの1年間にAmazonの衣服、靴、宝石類の収益は48.7%増加し、411億ドル(約4兆7300億円)に達した。同プラットフォームで最大のアパレルブランドはヘインズ(Hanes:収益5億4830万ドル[約631億円])、Amazon Essentials(4億6730万ドル[約537億円])、アディダス(Adidas:4億5940万ドル[約528億円])、カーハート(Carhartt:3億6220万ドル[約417億円])、フルーツオブザルーム(Fruit of the Loom:3億200万ドル[約347億円])、ギルダン(Gildan:2億2290万ドル[約256億円])などのカジュアルウェアやスポーツウェアのメーカーだ。
Amazonはこの6年間で、知名度の高いブランドを勧誘したり、多くの新機能を導入したりすることで、ファッション部門を強く推し進めてきた。同社のサービスにはプライム(Prime)メンバー向けの購入前試着、カスタムメイドのTシャツ、オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)やミッソーニ(Missoni)のようなひと握りの高級ブランドのラグジュアリーオンラインストアなどがある。
多くのブランドがAmazonに従い、Amazonでの販売に同意するにつれ、これらブランドはAmazonへの移行には新しい障害が発生するということを知ることになった。以前は偽ブランドなどがあったが、Amazonはより知名度の高い企業を勧誘するための一環として、偽ブランドの排除に成功した。各ブランドは現在、価格設定により多くの時間とリソースを費やすようになっている。
Amazonでのペナルティが及ぼす影響
メンズウェアブランドのオーガニックシグネチャーズ(Organic Signatures)の創設者でCEOを務めるオーレン・バーノイ氏は、4年間にわたりAmazonで販売を行ってきた。同氏の会社はオーガニックコットン製のTシャツや下着などのベーシックな衣類に特化し、個別または複数パックとして、29ドル(約3340円)から40ドル(約4600円)で販売している。昨年の売上額は80万ドル(約9200万円)で、その多くはAmazonでの売上だ。
同氏によると、オーガニックコットンのコストはパンデミックのあいだに「劇的に」上昇したため、バーノイ氏にとって価格設定が大きな問題になった。しかし、このコスト増加をAmazonの消費者に転嫁するのはそれほど簡単ではない。「Amazonで商品を急に値上げすることはできない」と同氏は言及する。「前回の値上げには3カ月を要した」。
Amazonは、Amazonや別の場所で最近提供したものよりも「大幅に高い」価格を設定した場合、出品者にペナルティを課すことができる。このような行為は「有害」とされ、リスティング用の購買ボックスの削除や、さらにはアカウントの停止を引き起こすこともある。前者の場合はさらに、リスティング用のスポンサー付き商品広告が一時停止されることもある。Amazonでの広告は製品を見つけるため従来にも増して重要になっており、価格設定ポリシーに違反した出品者は売上で大きな損失をこうむるリスクがある。
安全を期し、バーノイ氏はAmazonで用心深く値上げを行う方法を見つけるため、さらに多くの時間を費やしている。同氏は次のように述べている。「たとえば2週間ごとに1ドルのようにゆっくりと上げる必要がある」。
価格に対する認識の変化
Amazonでの衣類の価格については、スイートスポットをめぐって多くの議論が行われている。データ分析およびコンサルティング企業のカンター(Kantar)で小売業者インサイトの責任者を務めるレイチェル・ダルトン氏によれば、プライム会員は米国の平均的な買い物客よりも裕福であるとのことだ。
バーノイ氏がAmazonで販売を行って4年間になるが、同氏は消費者がより高品質のアパレルにお金を払うことを望むようになっていることに気づいた。デジタルマーケットプレイスのコンサルティング企業であるバッティ・ファング(Batty Fang)の創設者であるクリス・マッキンタイア氏は、69ドル(約7940円)から110ドル(約1万2700円)の価格帯で販売する衣類ブランドがAmazonで成功しており、ファハティ(Faherty)、ローヌ(Rhone)、ビンヤード・バインズ(Vineyard Vines)などの従来のD2C企業はすべて「このプラットフォームで強いプレゼンスを築き上げるため、多くの労力をつぎ込んでいる」という。
しかし、これはAmazonの顧客が価格を気にしていないという意味ではない。サイバーウィーク(Cyber Week)のあいだにAmazonは、もっとも多く売れた品目のひとつはカラフルコアラ(Colorfulkoala)のヨガパンツで、価格は30ドル(約3450円)から40ドル(約4600円)だったと明かしている。同ブランドは昨年、ルルレモン(Lululemon)の「デュープス」(複製)のような外観のレギンスで、TikTokにおいてバイラル化した。
サードパーティ出品者の影響力
同時にAmazonは、EBT(Electronic Benefits Transfer、困窮者用食料切符)や政府支援の受給者、メディケード(低所得者向けの医療保険制度)の利用者に対してプライム会員の50%割引を提供するなど、低所得の消費者もより多く取り込もうとしていると、カンターのダルトン氏は語る。また同社は、自社のレーベルを利用して、多くの資金を持たない買い物客にアピールしていると、同氏は付け加えている。以前のレポートには、Amazonが100を超えるプライベートレーベルのファッションブランドを保有しているとされてきた。
より広い意味では、実績のあるアパレルブランドにとって、サードパーティの出品者に対抗して価格設定をコントロールすることは、いたちごっこの状態になってきたと、マッキンタイア氏は述べている。同氏の会社は、このカテゴリーの上位3社に名を連ねるカジュアルウェアと仕事着のアパレルブランドと提携している。大手のアパレル会社は特に、低価格で商品を販売するサードパーティの出品者の影響を受けやすいと、同氏は指摘した。
「Amazonのトラフィックと可視性は、ある会社の商品の最低広告価格がAmazonで下がった場合、ほかのすべてのマーケットプレイスに連鎖するほど大きなものだ」と同氏は述べている。「適切に管理されなければ、ビジネスが台無しになる可能性がある」。
マッキンタイア氏は、Amazonの内部と外部における値崩れを防ぐため、自社商品を誰が販売しているかをブランドが識別するための支援を行っている。同氏の会社はこのためにスクレイピングツールとAPIを使用し、品目の変化を毎時間監視している。サードパーティの出品者は自分たちの身元を隠すため、複数のLLCを設立するなど各種の戦術を駆使するので、これは困難な作業だ。コンテンツの変化、価格、出品者などの情報はすべて記録され、ブランドに報告されるので、ブランドは「法的またはそれ以外の」行動を起こすことができると、マッキンタイア氏は言及している。
サードパーティの出品者による侵害は、Amazonのブランドにとって長年にわたる問題だったが、eコマースのマーケットプレイスでの販売に真剣に取り組んでいる会社にとって、この問題は今や「最重要課題」になったと、マッキンタイア氏は語る。「ブランドは、Amazonと外部代理店の両方を通じて、あらゆる追跡と測定のツールを利用できるようになった。そのため、これらのブランドは、自社商品のドル価値に対してサードパーティの出品者が明白な影響を持っていることを理解できるようになった」と同氏は説明している。
Amazonで価格設定のコントロールを失えば、すべての場所でコントロールを失うことになる。ほかの小売業者は、自社店舗でも同じ価格に設定するよう圧力をかけるだろう」と同氏は付け加えている。
Amazonのアパレルへの野心は実店舗へと拡大
アパレルはAmazonのeコマースプラットフォームだけでなく、実店舗プランでも大きな部分を占めているようだ。
具体的には、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)によれば、同社は自社プライベートレーベルの衣服を、噂されているオハイオとカリフォルニアの百貨店で披露することを計画している。
カンターのダルトン氏によれば、この動きはAmazonが進めている実店舗での小売業への拡大の一環であり、ベンチャーとしてこれまで食料品に集中してきたが、アパレルや医薬品にも拡大する可能性がある。
プライベートブランドはAmazonの戦略的優先事項の中核であり、百貨店でブランドを展示することで、それら商品のアイデンティティを確立し、より多くの消費者の関心を集めることができると、同氏は語る。「衣類は利ざやが大きいカテゴリーで、プライベートブランドはトレンドやお買い得品を探している従来型の買い物客にアピールする」と同氏は説明している。
まだ確定していない百貨店以外にも、Amazonがファッションにおける実店舗の存在感を高める方法はある。たとえば、同社はすでにコールズ(Kohl’s)と提携しており、コールズは約1200店舗でAmazonの返品を受け付けている。コールズはかつてCNBCに、この提携により2020年に200万人の新しい顧客を獲得したと語っている。
ダルトン氏は、これら2つの小売業者は、Amazonのプライベートブランド商品をコールズの店舗に置くことで、互いの関係を強化することができるとしている。コールズは昨年、約10のプライベートブランドを廃止しており、マーチャンダイジングにおけるギャップを埋める必要があるだろうと、同氏は付け加えている。
「問題は、コールズがAmazonのブランドを持ち込むのか、それとも単にもっと一般的なブランドに切り替えるのかということだ。私は、Amazonはどのような方法がうまく機能するかを試している状態だと考えている」とダルトン氏は述べている。
[原文:Amazon Briefing: Why apparel brands are obsessing over pricing power]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu