Amazon は3月2日、書店のAmazonブックスと、Amazon.com内で人気があり評価の高い商品を購入できる4-Starストアを閉店することを決定した。これは、同社の実店舗における小売戦略の大きな転換を示唆するものだ。特に4-Starストアの盛衰について調べると、そのことがよくわかる。
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Amazonは3月2日、書店のAmazonブックスと、Amazon.com内で人気があり評価の高い商品を購入できる4-Starストア(4-star store)を閉店することを決定した。これは、同社の実店舗における小売戦略の大きな転換を示唆するものだ。特に4-Starストアの盛衰について調べると、そのことがよくわかる。
Amazonの4つ星店舗はキュレーションの実験の場だった。実店舗のアイデアは2018年にソーホーに開設した店舗で最初に公開されたもので、Amazonにおいてもっとも高い評価を得た商品だけを取り扱うものだった。Amazonは昨年、このような店舗を31カ所運用しており、数カ月以内にはさらに店舗を増やすことを計画していた。しかし、これらの店舗の衰退は、同社の現在の実店舗による小売戦略のうち、どの部分がうまく機能しておらず、どの部分がうまく機能する可能性があるかを同社が認めていることを示唆している。
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期待とのずれ
この店舗では、さまざまな出品者からの商品のコレクションを扱っていた。4-Starの存在を最初に告知したブログ投稿によると、この店舗では「ニューヨーク市界隈でのトレンド」や「もっとも欲しがられているもの」などの商品コレクションが紹介されていた。さらに、すべての商品は顧客レビューとともに販売されていた。
数年にわたり、4-Starストアは実験的な実店舗戦略の一部だった。つまり、体験とブランド構築に重点を置き、コンバージョンの促進はそれほど重視していなかった。2020年初頭、パンデミックが最初に勃発するまえ、Amazonは、ニュージャージーのメガモールであるアメリカンドリーム(American Dream)も含め、4-Starストアをさらに10店舗開設する計画を発表した。昨年には、4-Starストアを英国にへと拡大する計画を公表した。
では、何が起こったのか? イーマーケター(eMarketer)のプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏によると、実際には、Amazonの4-Starストアは大幅な改善を必要としていた。「突き詰めれば、問題はそのキュレーションされた品揃えにあった」と同氏は述べている。
この店舗の背後にあるアイデアは、通行人を店舗に呼び込み、面白そうな商品を見てもらい、できればその1つや2つを購入してもらおうというものだった。しかしそれは、Amazonを巨大リテールたらしめている理由、つまり、キュレーションよりも手軽さと実用性の重視を反するものだった。「ほとんどの人々がAmazonを使用する理由は、ロングテール、すなわち非常に幅広いな品ぞろえであり、ヒット商品だけが欲しいわけではない」とリプスマン氏は述べている。つまり、買い物客はAmazonに行けば、通常はブランド物ではない必需品を簡単に購入でき、短期間で届けてもらうことができるということだ。
「キュレーションされた品揃えにおいては、Amazonが一番ではない。ターゲット(Target)や、そのほかの店舗がある」と同氏は述べている。実際にターゲット、またはウォルマート(Walmart)などの大手小売店は、活気のある新興企業に対して、自社のウェブサイトと実店舗の両方で商品を販売するよう、何年にもわたって呼び掛けてきた。その結果、これらの小売店は、店舗内で商品を見つけることに長けるようになった。さらに、リプスマン氏によれば、これらの小売業者には、顧客が魅力的な商品やブランドを見つけるための手段として店舗を利用しているという点で、優位に立っているという。
さらに、4-Starストアのモデルがうまく機能したとしても、しだいにコスト高になっていっただろう。キュレーションに特化した店舗は「人出の多い商業施設やモールに設置する必要がある。このような場所は賃料も高い傾向がある」とリプスマン氏は述べる。これは、このような種類の店舗が、食料品などの必需品を定期的に買いに来る顧客ではなく、新しい商品を探している多数の顧客を引きつけることに特化しているためだ。そのため、モールやソーホーのような流行の発信地など、人手の多い場所に出店することが、4-Starストアが必要な集客を確保するために不可欠だったのだ。「このモデルを考えれば、このような店舗で利益を上げることは困難だった」と同氏は述べている。
実験からの教訓
Amazonのすべての特徴から考えて、Amazonの4-Starストアは、結果として、長期的な運用というより実験だった。「Amazonは常に、実店舗の分野で営業を続けるために何が必要かという情報を得るためのテストを行ってきた」と、eコマース管理企業のクォンティファイド(Kwontified)のマネージングパートナーであるイレーヌ・クォン氏は述べている。「同社は店舗内でのエクスペリエンスの改善を繰り返し試みている」と同氏は述べている。そのため、4-Starストアなどのプログラムや、さらにはAmazon Goさえも、Amazonが将来のデザインに組み込むことを考えている新しい戦略や機能をテストする方法だ。実際に、ホールフーズ(Whole Foods)は現在、Amazon Goのレジなし技術を試験的に導入している。
つまり今回の閉店は、注力対象をさらに明確にするもので、Amazonが実店舗の小売業で現在何がうまくいっているかを認めるものである可能性が高い(そして、これらの閉店はアンディ・ジャシー氏がCEOとして実権を握ってから、わずか7カ月で起きたことだ)。「同社はおそらく、いくつかの学びを得て、現在ではCPG、食料品、アパレルをより重視している」とリプスマン氏は述べている。実際に、リプスマン氏はイリノイにあるAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)ストアを数週間前に訪れ、料理の本やインスタントポットなど食品以外の商品について、4-Starストアの流れを汲む、キュレーションされた商品コーナーがあることに気づいた。
リプスマン氏は、これらの小売プログラムは実店舗によるコマースの実験であると同時に、Amazonにとって重要な新しい収益化プログラムを提示してもいると付け加えている。「もっとも重要なのは広告だ」と同氏は述べている。たとえばビジネスインサイダー(Business Insider)は、Amazonがデジタルスクリーンを使って各ブランドに広告在庫を販売する大規模な計画が存在することを、2月26日付の記事で報じた。リプスマン氏は次のように述べている。「同社はおそらく、これらの店舗をテストした結果、オンラインとオフラインとの結びつきはそれほど強くないと認識したのだろう。同社は、Amazonフレッシュでは違うことを行おうとしている」。
同時に、このようなシャッフルで忘れ去られがちな重要な要素のひとつが、セレクションを構成するブランドと出品者だ。店舗の閉鎖は驚くべきことではないとしても、販売環境が混乱し、厳しいことを表しているのは間違いない。コンサルティング企業のポディーン(Podean)のCEOを務めるマーク・パワー氏は次のようにメールに記した。「ブランドは、自社商品を新しい小売形式に導入し、総合的な売上を伸ばすことに興味を抱いているのはたしかだが、残念なことにAmazonはそれを簡単に行えるようにしていない。ブランドは、それぞれ目標も異なれば、範囲設定の基準も異なるため、別々のチームと協力しなければならないことに、不満を抱いている」。
最近の動向を受けて、Amazonとブランドとの関係の混迷は、変わるのだろうか? おそらく変わらないだろう。しかし、4-Starストアの代わりになりそうなほかの小売プログラムが、あるいは、少なくともそのプログラムの一部を実施するような小売プログラムがいくつか控えている。Amazonはすでに、初のアパレル専門店であるAmazonスタイル(Amazon Style)を今年後半にオープンする計画があると明かしている。
これによって、いくつかの問題が解決するかもしれない。クォン氏は次のように述べている。「今後見られるのは、彼らがすでに行ったことの多くだろう。これらの過去の経験は、何らかの形で次の大きなステップを形作るものとなる」。
[原文:Amazon Briefing: What Amazon’s 4-star store closure says about its future retail ambitions]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)