Amazonは4月、セラーがAmazonを通して特定の顧客にメッセージを送れる「カスタマーエンゲージメント管理プログラム(Manage Your Customer Engagement)」というツールの提供を静かに開始した。このツールはまだパイロット版だが、セラーによっては大きな違いをもたらす可能性がある。
Amazonは4月、セラーがAmazonを通して特定の顧客にメッセージを送ることのできる「カスタマーエンゲージメント管理プログラム(Manage Your Customer Engagement)」というツールの提供を静かに開始した。
このツールはまだパイロット版ではあるが、顧客とのやりとりが制限されていることに不満を示すセラーが多いなか、セラーによっては大きな違いをもたらす可能性がある。現在、セラーが顧客に送るメッセージの多くはAmazonが文言を用意する。セラーからのメッセージはオプトアウトすることも可能だ。eコマースエージェンシーのパターン(Pattern)で戦略・アナリティクス担当アソシエイトディレクターを務めるダン・ハネウェル氏は「自分が見たところ、大半のユーザーはそのオプション[オプトアウト]を選択している」と述べる。Amazonはセラーに顧客のメールアドレスを渡さない。今回のカスタマーエンゲージメントツールでもそこは同じだ。2020年12月には、セラーに残された数少ないコミュニケーション手段のひとつだった、カスタマーレビューに対してコメントできる機能が廃止された。
キャンペーンや商品に関する最新情報をセラーから送信できるようにするのは、セラー側の懸念緩和に向けた一歩ではある。とはいえ、今回のツールには重大な制約がいくつもある。たとえば、セラーは顧客について今以上の情報は得られない。ハネウェル氏は、セラー側が見ることができるのは全体のフォロワー数だけで、顧客に関する具体的な集計情報はないと話す(ただしAmazonによると、キャンペーンに対する反応についてなんらかのアナリティクスデータは提供されているそうだ)。すべてのメールは、セラーからではなく、Amazonを通して送信される。現時点では、セラーは「顧客とのコミュニケーションに関してコントロールできることはほとんどない」とハネウェル氏は語る。「それも、今回のツール提供の理由のひとつだと思う」。
Advertisement
Amazonのスポークスパーソンは「各ブランドは新商品発売やセールの際にメールキャンペーンを展開できるようになる。メールはAmazonを通してそのブランドをフォローするユーザーに送られる」と話す。
今回のツールの成功の鍵
カスタマーエンゲージメント管理プログラムを利用するには、セラーのブランドの商品を偽造品から守るプログラム「Amazonブランド登録(Amazon Brand Registry)」への登録が必須である。つまり、再販業者はこのツールを利用できない。自社商品を販売するほとんどのブランドは、すでにブランド登録に参加しているようだ。
ブランドからのメッセージを受け取りたいユーザーは、そのブランドの「フォロー」ボタンをクリックする。実はこのハードルが結構高い可能性がある。「フォロー」ボタンはAmazonのプラットフォーム上の特定の場所にしか表示されない。具体的には、Amazon内のブランドストア、Amazon Live上、またはAmazonのインスタグラム的な機能であるAmazon Posts(ポスト)上のみである。ハネウェル氏は、Amazonがこの新しい機能を使用してLiveやブランドストア、Postsにアテンションを集めようとしているとし、「ブランドストアと新登場のPostsを使用してセラー[数]の増加の推進を試みている」と語る。
実際AmazonがどれだけPosts、Live、ブランドストアを活気づかせることができるかが、今回のツールの成功の鍵を握るかもしれない。デジタル広告エージェンシーのスクラム50(Scrum50)でプロダクト戦略ディレクターを務めるブライアン・ジョイア氏はメールで「Amazonが大きく推すのであれば、成功する可能性はある」と教えてくれた。だが現在のところは、これらを利用するユーザーは少ないようだとも話す。特にブランドストアは「通常ペイドメディアを使わないと買い物客に見つけてもらえない」という。同氏は、AmazonがブランドストアやPostsにユーザーを向かわせることができなければ、セラーは高いフォロワー数を獲得できず「これもまたAmazonの短命な新企画に終わるかもしれない」と説明する。
根深い問題の解決につながる
Postsなどの利用推進のほかにも、今回の新しいツールはAmazonが抱える根深い問題の解決につながる可能性がある。フォロワーを増やし、新商品発売を通知できるようにすることは、たとえそれがAmazonを介したものであっても、主にはD2CブランドがAmazonに対して募らせている懸念への対応であるようだ。
多くのブランドは、Amazonに出店していても、顧客にはAmazonではなく自社のウェブサイトを訪れることを奨励している。「Amazonの今回の動きは、ブランドがD2Cサイトや顧客用サイトに重点を置くことをあまり考えてほしくないからだと思う」とハネウェル氏は述べる。「D2Cオンリーの大型ブランドが、顧客とのコミュニケーションがとりにくいという理由でAmazonへの出店に疑問を持つ現状がある」。
Amazonはこのような批判に耳を傾けてはいるようだが、ハネウェル氏は劇的な変化がすぐに起きるとは思わないそうだ。「すばらしい前進だとは思うが、Amazonのことなので、最初は盛り上がりに欠けるだろう」とハネウェル氏は述べる。「そのうち目的地点には到達するとは思うが、最初は間違いなく動きが遅いはずだ」。
[原文:Amazon Briefing: The limits of Amazon’s new customer engagement tool]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)