世界中の高級な衣類やアクセサリを一手に扱っているオンラインマーケットプレイスのファーフェッチ(Farfetch)は大きな責務を負っている。現在は上場しているこのeコマース企業は、データ技術という多額の投資を要するインフラを土台として創業され、ファッション産業の運営方法を変えられることを証明しようとしている。
世界中のブランドや専門ブティックの高級な衣類やアクセサリを一手に扱っているオンラインマーケットプレイスのファーフェッチ(Farfetch)は大きな責務を負っている。現在は上場しているこのeコマース企業は、データ技術という多額の投資を要するインフラを土台として創業され、ファッション産業の運営方法を変えられることを証明しようとしている。
ファーフェッチを取り巻く状況は良好だ。8億8500万ドル(約1005億円)超えをめざす同社の株式は、金曜日にニューヨーク証券取引所において1株当たり20ドル(約2270円)で取引が開始され、1株当たり17ドル(約1930円)として50億ドル(約5680億円)の価値が期待値であったにもかかわらずそれを超えて、58億ドル(約6590億円)の価値に達した。株価は正午までにすでに42%急騰し、1株当たり28.45ドル(約3230円)となり、同社の価値は80億ドル(約9090億円)を超えた。
これまで利益を生み出したことのない企業にとって、これは大健闘だ。しかし、リテールマーケットプレイスのストーリーと同様に、株主はすでに成功を収めているものに投資するよりも賭けに出ている。
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「ファーフェッチは高級品市場とオンラインマーケットプレイスというふたつの極めて高い価値のある産業の双方の恩恵を受けている」と、リテールマーケットプレイスプラットフォームであるミラクル(Mirakl)のCEO兼共同創業者、エイドリアン・ヌッセンバウム氏は言う。「結果として、ファーフェッチは世界のAmazonやアリババ(阿里巴巴)などと同等の株価収益率の評価を受けている。投資家は、どこかの時点で収益性を求めるが、マーケットプレイスに対して収益性が確保できるまで我慢強く待つものだ」。
ファーフェッチの強み
ファーフェッチは、マーケットプレイスモデルのおかげで、S-1申請内容からわかるように、3200のブランドにおける570万点に及ぶ販売製品の在庫を保有しない。そのため、eコマースにおけるライバル企業のユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)や従来のマルチブランドリテーラーとは異なり、ファーフェッチは初期費用やインベントリーの買い増しを正確に予測するような不安定さ、および、プロモーションや買戻しによって各シーズンの終わりに売れ残った商品を処理するような負担を背負わなくてすむ。その結果、ファーフェッチは迅速に海外進出を進めてきた。たとえば、同社は中東のシャルーグループ(Chalhoub Group)や中国のJD.comと提携し、より多くの地域のブティックセラーを巻き込むだけでなく、現地の顧客に対してもサービスを提供している。
ファーフェッチは2016年に約5000万ドル(約57億円)を投じて顧客を獲得し、S-1申請時には総計110万人のアクティブユーザーを囲い込んだが、収益性体質への近道は、ほかのファッション企業向けの技術開発にあった。ファーフェッチの「ブラック・アンド・ホワイト(Black & White)」はeコマース管理プラットフォームであり、「ザ・ストア・オブ・ザ・フューチャー(the Store of the Future)」は店内用の技術プラットフォームだ。これらがファーフェッチのビジネス向けサービスのすべてを物語る。「ブラック・アンド・ホワイト」はマノロブラニク(Manolo Blahnik)をはじめとするブランド向けのeコマースWebサイトを運用するもので、「ザ・ストア・オブ・ザ・フューチャー」の運営方法は、オンライン販売を行わずに店舗用技術を活用しているシャネル(Chanel)が使用していることで、もっともよく知られている。
「すべてを統合して俯瞰すれば、ファーフェッチは卸売りに取って代わる好位置にあり、しかももっとも大きな構想を描くことができる」と、CBインサイツ(CB Insights)のリテールアナリストであるトーマス・シノー氏は言う。「ブランドは、仲介リテーラーである同社に頼れば、自社の直販チャネルを広げることに加えて、認知度を高め、リーチを拡大できる。同社の価値の正当性を理解するには、同社が単なる高級なマーケットプレイス向け事業者ではなく、専有技術を有する企業であることを考慮する必要がある。同社は、多数の同業者が協業しているようなサードパーティの技術企業と協業しているわけではない」。
「Amazon流のアプローチ」
収益性を求めているファーフェッチにとっての目標は、この投資によって最終的に経済的な成果を出すことにある。同社は、データエンジニアやデータサイエンティストからなる631人のチームを擁しており、自社のマーケティングやeコマースの決定に対して情報提供をする機械学習やアルゴリズムを含むデータ技術に投資している。さらに、同社が顧客に関する洞察を与える貴重な情報源として位置付けてもらえるようにブランドパートナーにフィードバックを提供している。また、同社は、顧客がオンラインと店舗の両方でショッピングをする方法を形成することになると考える技術にも投資している。たとえば、拡張現実、そして、店舗チャネルに結びつくパーソナライゼーション機能などの技術だ。
また、富裕層向けカスタマーサービスの提供も目標だ。ヌッセンバウム氏はAmazonと類似のサービスも強化している。Amazonでは、収益チャネルを多様化し、長期的に利用してもらえるような形で顧客にサービスを提供するのであれば、収益が少なくなっても許容される。90分以内に配達する高級コンシェルジェサービスやパーソナライズドサービスなどの取り組みを通して、ファーフェッチは次世代の富裕層の顧客に向けたショッピング方法を開発中だ。
「多くの面で、これはAmazon流のアプローチと同じだ。インベントリーを重視せず、カスタマーエクスペリエンスやデータ収集、マーケットプレイスモデルの確立に重点を置いている」と、ヌッセンバウム氏は言う。
自社の価値を証明できた
もちろん、ファーフェッチが市場のシェアを確保するための闘いを繰り広げるなかで、高級品のeコマース市場の競争は脅威を秘めているが、シノー氏はファーフェッチがさまざまな困難を切り抜けて生き残っている未来が、ファッション業界内に見えるという。
「この領域では、企業合併が起こるだろうから、新たな企業が合併の門をたたく可能性もある。ケリング(Kering)の一員になる可能性もあるだろう。というのは、ファーフェッチはグッチ(Gucci)と親交を育んできたからだ」と、シノー氏は言う。「必ずしもすべてのプラットフォームが独立している必要はないが、ファーフェッチは自社価値を証明するに至った」。