Amazon時代に競い合う食料品店にとっては、リーダーに追随するゲームだ。eコマースの全面的な見直し(在庫をオンライン化する、注文された食料品を顧客に配達する方法を考え出す、フルフィルメントプロセスの経路を変更する)を数年間推進したあと、食料品店チェーンの店舗は再び、競争戦略と新技術が焦点になっている。
Amazon時代に競い合う食料品店にとっては、リーダーに追随するゲームだ。
eコマースの全面的な見直し(在庫をオンライン化する、注文された食料品を顧客に配達する方法を考え出す、フルフィルメントプロセスの経路を変更する)を数年間推進したあと、食料品店チェーンの店舗は再び、競争戦略と新技術が焦点になっている。スキャン&ゴー( Scan and Go)やレジなし決済、リアルタイムの顧客データ収集、デジタル商品棚、在庫の自動フルフィルメント&マーチャンダイジングといったツールは、クローガー(Kroger)やフェアウェイ(Fairway)、セイフウェイ(Safeway)など、食料品専門の小売店向けに初期の実験が行われている。
その大きな動因はAmazonだ。
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「これらの小売店はこれまで、eコマースの方向に進み、未来はオンラインにあると考えてきた。そしていま、Amazonが実店舗戦略を打ち出している。だから、現在、振り子は、店内体験やそれが必要とする現在の有り様に目を向ける方向に揺り戻されている。店内の技術や店舗のアップデート次第で、事業が成立したり、破綻したりしかねない」と、食料品専門のeコマースプラットフォーム、メルカトゥス(Mercatus)のCEOであるシルバン・ペリエ氏は語る。
Amazonによる革命
まず、Amazonは業界を震撼させて、未来はオンラインにしかないと思わせた。次に、ホールフーズ(Whole Foods)を買収し、レジを置かない小売店のAmazon Goをオープン。eコマースの構築と成長を名目に、小売店が革新せずに維持するだけだった専門分野に進出した。
それに対して、もっと大きな店舗ネットワークを展開する食料品店は、競争すべく新たな店舗内技術を導入しつつある。
「オフラインの食料品店の終焉はかなり誇張されていた。オンラインとオフラインの混合型ではオフラインが必要となる。それに、ラストマイルのロジスティックスに投入できる分、そうした物理的存在がまだ必要だ」と、食料品店比較サービス、バスケット(Basket)の共同創業者でプレジデントのアンディ・エルウッド氏はいう。
「オンラインビジネスが縮小したり、消滅しようとしているのではない。クローガーは昨年、オンライン売り上げが50億ドル(約5400億円)から90億ドル(約9800億円)へと2倍近く増えた。だが、食料品は、書籍やCDのように、簡単にeコマースだけの体験につながるわけではない。食料品店の必勝戦略が、顧客が買い物するのにオンラインと同じくらい適切で無理なく買い物できるようになることであり、それにはオンラインと同様に最新の店舗内体験も含まれることが、いっそう明らかになってきている。オンライン戦略が実施され、店舗がデジタル改革を進めるなかで、こうした小売店はいずれも、顧客のロイヤルティを求めて競い合っているが、それについても、Amazonプライム(Amazon Prime)を通じた、会員数が1億人を超えるロイヤルティプログラムによって、Amazonが上回っている。
食料品店はブランド
「Amazon Goに感謝していい。食料品店は現在、ブランドである必要があると気づきつつある。Amazonなどのライバルから身を守るためにできるもっとも重要なことは、顧客のロイヤルティの獲得だ。割引で顧客を操ったり、近さを武器に心をつかんだりはできない」と指摘するのは、レジなし決済ツールを小売店に設置するテック企業、フューチャープルーフ・リテール(FutureProof Retail)のCEOであるウィル・ホグベン氏だ。
店舗が低迷するのを防ごうと、小売店はアウトソーシングを行いつつある。ニューイングランドを拠点とする食料品店チェーンのロシェ・ブラザーズ(Roche Bros.)は1月9日、決済システムの近代化のために東芝を採用したと発表した。キャッシャーレス(レジ不要)技術ではないが、決済手続きが迅速化されることになる。フェアウェイは11月に、技術を求めてフューチャープルーフ・リテールと提携し、過去の購入に基づいておすすめレシピや商品の推薦も提供するセルフ決済アプリを公開した。また、インスタカート(Instacart)は、何百もの食料品店と提携して、eコマースデリバリーのパートナーとなっているが、11月にカーブサイドピックアップを開始し、オンラインの注文を店舗の便利さと結びつけた。顧客データも小売店に提供され、顧客の嗜好に合わせて在庫を最新の状態に保つのに役立っている。
「食料品店は、顧客と密接に関わる小売分野なので、顧客は深い信頼を寄せたいと思っている。想像以上に単純なビジネスではない。食料品店の店主は、店舗によって、地域で関係を育んでいる。こうした店舗のおかげで、食料品店は、Amazonなどの新規参入組と比べて、コスト面で大いに有利な立場にある。だから、我々の広範な戦略は、食料品店が店舗をオンライン事業に結びつけるのに役立っている」と、インスタカートの最高業務責任者であるニラム・ガネンスリアン氏は語る。
デジタル戦略のポイント
これまでのところ、食料品店チェーンで、クローガーほど広範な技術の見直しをしたところはない。クローガーは、ビジネスモデルとロケーションを最新の状態にする「リストック・クローガー(Restock Kroger)」構想を打ち出し、テック企業数社と提携して、さまざまな顧客の行動に対応してきた。オカド・ロボティックス(Ocado Robotics)との提携による注文および在庫のフルフィルメントの自動化や、自動運転車によるデリバリーサービス「ニューロ(Nuro)」などが、その例として挙げられる。ごく最近には、マイクロソフト(Microsoft)との提携を発表した。顧客データに対応してリアルタイムでアップデートされるデジタル値札やデジタル広告、ガイド付きショッピング&セルフレジアプリ「スキャン、バッグ、ゴー(Scan, Bag, Go)」の改良版のような技術を含む「コネクティッド体験」店舗を構築するのが、提携の目的だ。
「デジタル戦略の3つの主要なポイントは、すべての顧客が利用できてアクセスしやすく、我々の体験にもっと関連性があることだ。顧客はもっと多くの選択肢を求める一方で、選択に費やす時間も少なくしたいと思っている。それについて考えれば、一種の興味深いジレンマだ」と、クローガーの最高デジタル責任者を務めるヤエル・コセット氏は、同社主催のオクトーバー・インベスターズ・デイ(October Investors’ Day)で述べた。
いまのところ、クローガーの顧客の80%が、オンラインまたはモバイルアプリを通じて買い物しており、3~5年以内にチャネルにとらわれなくなると、同社は予想している。顧客が買い物するのが店内だろうとオンラインだろうと、同社の最終収益に違いは生じないということだ。つまり、オンラインでの購入と店内での購入の両方を改善するのに掛かる費用は、どちらも元が取れることになる。
「情熱の火が燃えている」
食料品店の新たな手持ちの札について言えば、Amazonは技術の点で優位に立っている。Amazon Goは、自動的なレジなし決済を実装しているのに対し、ほかの小売店はまだセルフスキャン技術に取り組んでいるところだ。Amazonはデータも豊富に持っている。それに、既存の店舗を技術によって改善するのは、技術と切り離して建設された新店舗をオープンするよりかなり困難だ。提携や、データ収集から決済まで情報を事業の各分野に与える一連のインセンティブを通じて、リテーラーは遅れずについていこうとしている。
「もっとうまくやらなければ、というプレッシャーがかなりあるが、それは目新しいことではない。こうしたブランドは常に、買い物客や技術との関係を改善したいと思ってきた。現時点での唯一の違いは、情熱の火を燃やしているという点だ」と、レジなし決済システム、グラバンゴ(Grabango)のCEOであるウィル・グレイザー氏は語った。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)