TikTokにおいてインフルエンサーを活用することは戦略の基本だ。スキンケアブランドのEOSは有料キャンペーンの制作はインフルエンサーに委ねつつ、自社アカウントでのオーガニックコンテンツ投稿にも注力し、いわば二本柱でTikTok上でのプレゼンスを発揮する戦略を取っていると、同社CMOのソヨン・カン氏は語る。
スキンケアブランドのイオス(EOS)でCMOを務めるソヨン・カン氏によると、同社はTikTokでの広告主として「(何も知らない1年生から進級し)2年生」になるという。
イオスはTikTokでのマーケティングキャンペーンに投資してきた最初のブランドのひとつだ。自分たちのチャンネルを運営するにあたって多くのことを学んだ−−イオスが抱えるフォロワーは22万2000人に達する−−とカン氏は述べる。さらに、有料キャンペーンを成功に導くノウハウも蓄積してきた。
TikTokにおける最初の試みは、「(注目を集めるための)飾り」をすべて備えていたとカン氏は言う。昨年の9月に行われたこのキャンペーンは「#makeitawesome」と呼ばれ、複数のプラットフォーム上で実施されたイオスの再ローンチの一環だった。TikTokでは3週間展開され、ビュー数は30億、エンゲージメント率は14.5%に達し、投稿でハッシュタグを使ったユーザー数は34万人となった。その後、昨年12月と今年4月にはより実験的なキャンペーンを実施し、TikTokというプラットフォームの持つ特性をテストしたという。
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「多くのブランドたちがTikTokのことを『例のダンスアプリ』と考えているが、私はマーケターたちにはより広く捉えて欲しいと促している。なぜならただのダンスアプリを遥かに超えるレベルにまで進化しているからだ」とカン氏は言った。
アルゴリズムベースのプラットフォームであり、「何がバイラルになるか予測するのは難しい」とカン氏は言う。しかし、トップコンテンツクリエイターたちとパートナー関係を持ち、インフルエンサーモデルを活用することで、彼らのクリエイティブスタイルとプラットフォームに関する知識をマーケターたちがうまく利用することができる。これがTikTokの強みであるとカン氏は説明する。
最近行われた米DIGIDAY+の会員専用オンラインセッション、DIGIDAY+ TALKSでカン氏はTikTokが抱えるクリエイティブインフルエンサーたちとブランドの関係、そして氏のチームがTikTokの有料広告キャンペーンを駆使して自社チャンネルのオーガニックな成長をどうやって生み出してきたかについて語っている。
コントロールしないことがよい結果をもたらす
TikTokにおけるイオスのインフルエンサー戦略はほかのソーシャルメディアプラットフォームと大差ないが、これはカン氏に言わせるとインフルエンサーたちこそが「自分たちよりもプラットフォームをよく理解している」からだ。
イオスが昨年9月に最初の有料広告キャンペーンをおこなったとき、5人のインフルエンサーたちを起用した。一方で昨年12月と今年4月のキャンペーンはそれぞれ22人、15人となっている。
「ほかのプラットフォームと比べてもTikTokはクリエイティブな表現のためのツールが多いため、コンテンツも作り込まれたものになっている」と彼女は述べる。そのため、TikTokから生まれるクリエイターやインフルエンサーたちも、よりクリエイティブな気質を持った傾向がある。
「多彩なスタイルを持つ幅広いクリエイターたちとパートナーを組めば、信じられないほど多様なコンテンツを彼らは生み出してくれる。たとえばインスタグラムで体験できるコンテンツと比べても、遥かに豊かな表現のコンテンツを作ることができる」。
- 「コンテンツ制作はクリエイターやインフルエンサーに任せる」とカン氏は述べる。彼女のチームは当初、ほかのプラットフォームにおける方法と同じようにインフルエンサーたちにパートナーシップで何を生み出したいか具体的に伝え、彼らをコントロールしようとしていた。しかし今では「(コントロールを)手放すことがいい結果を生み出す可能性がある」と語る。結局のところ、何百万人ものフォロワーを抱えるクリエイターたちこそがマーケターよりもプラットフォームを活用する方法を熟知しているのだ。
- TikTokインフルエンサーとコンタクトを取るためにインフルエンサーエージェンシーを使うのは素晴らしい方法だとカン氏は言う。エージェンシーはこれから人気が出るインフルエンサーを常に把握することが仕事なのに対し、マーケターはインフルエンサーを探し出すことに長けていない。「プラットフォームを熟知している人々とパートナー関係を結ぶことには大きな価値がある」。
- 長期のパートナーシップ契約がコンテンツに本物としての信頼感を生み出す。時間をかけることでインフルエンサーのフォロワーたちもブランドとのつながりを見ることに違和感を持たなくなるからだ。
自社アカウントの存在が重要になる
TikTok上でブランドが存在感を持つことも重要だとカン氏は言う。ほかのプラットフォームでも同様だが、ブランドの有するフォロワー数が大きいほど、ブランドのオーガニックなコンテンツを見てエンゲージメントを持つ人々のベースラインも膨らむ。
「ブランドが自身のアカウントを持っておらず、コミュニティの構築に取り組んでいなければ、大きなインプレッション数を獲得するチャンスがなくなる」とカン氏は指摘する。
さらに、オーガニックコンテンツにかかるコストは有料キャンペーンのコストよりも安いというメリットもある。すべてを自分たちで作成した場合、人件費以外のコストが生じないこともある。実際に現在イオスのアカウントで投稿されているコンテンツは、彼女のチームメンバーが自宅でスマートフォンを使って作成したものだ(これは新型コロナウイルスが原因だ)。ただし、こうした自作コンテンツは悪いものではないが、通常時に投稿されるコンテンツと比べるとクオリティは落ちる。
イオスはインフルエンサーたちを起用したバイラル動画が生み出される以前から、「オーガニックコンテンツ制作に挑戦してきた」という。カン氏のチームは毎日3件の動画を投稿するようなリソースを持ってはいないが、TikTokのコンテンツ戦略を成功させるためには「磨かれた(完成度の高い)コンテンツを作るよりも投稿頻度が高い」ことが重要だと語る。
カン氏自身も毎日1時間はTikTokにアクセスし、新しいオーディオやミームのフォーマット、トレンドとなっているチャレンジについてリサーチをおこない、イオスのコンテンツ戦略につなげている。
「TikTokにおける我々のコンテンツはほかのソーシャルプラットフォームと異なり、より本物・誠実であることを追求している。ユニークでリアルな人々が、リアルなことをしている形だ」。
オーガニックとキャンペーンを組み合わせる
イオスのTikTokにおけるアプローチは、有料キャンペーンと自社アカウントで管理するオーガニックコンテンツのふたつを組み合わせプレゼンスを発揮するというものだ。
カン氏によると、有料キャンペーンはイオスにとって成功だった。第三者機関を通じて昨年9月のキャンペーンの成果を調査したところ、TikTokにおける平均的な広告想起(アドリコール)率の3倍に達していたという。
有料キャンペーンの目的はブランド構築と新プロダクトの発表だが、エンゲージメント向上を図り(自社アカウントに誘導して)ユーザーをオーガニックコンテンツに触れさせる意図もある。その一例が、今年4月のイースターの際に実施したゲーム化されたキャンペーンだ。
- イオスを象徴する商品のひとつに、卵形のケースに入ったリップバームがある。15人のインフルエンサーたちに投稿する動画の背景にリップバームを隠してもらい、「バーチャルイースターエッグ探し」を実施したのだ。卵(の形をしたリップバーム)を探すためにオーディエンスが「プロダクトとブランドにレーザーのようにフォーカス」するだけでなく、(見つけるために)動画を何度も再生することなり、TikTokのアルゴリズムにおいて動画のパフォーマンスを高めることができた。
- オーディエンスは動画内に隠されたリップバームをすべて見つけ、その数をコメントで書き込むように促されていた。正解かどうかを確かめるためには、イオスのチャンネルにいき、イオスが制作した正解動画を再生する必要がある。これによってオーディエンスたちはブランドと直接エンゲージメントを持った。
- イオスがこれまでTikTokで実施した3つのキャンペーンの中でも、このイースターキャンペーンはもっとも高いエンゲージメント率を記録している。
イオスのCMO、ソヨン・カン氏が登壇した、DIGIDAY+ TALKSの動画は下記リンク先にて閲覧できる。
(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)