プライベートブランド
米国第3のグローサリー小売企業を目指して猛進を続ける、ドイツ発祥のスーパーマーケットチェーン、アルディ(ALDI)。彼らはeコマースではなく、プライベートブランド(PB)商品の積極的活用と実店舗数の増加で勢力拡大を図っている。
eコマース界における存在感は薄いが(現在は、買物代行&宅配サービススタートアップ、インスタカート[Instacart]との提携のみ)、アルディは自社ブランドの拡充を通じ、若い中所得層の取り込みを狙う。節約志向の消費者にフォーカスしてきた同社にとって、これは大幅な路線変更だ。さらに、米国における営業範囲も全国に拡げ(現在は全州の2/3)、2022年までに店舗数2500の目標を掲げている。達成すれば、ウォルマート(Walmart)とクローガー(Kroger)に肉迫する。
「以前は、ごく一般的な、中低所得層が暮らす地域に出店していたが、いまや高所得のアッパーミドルクラスが暮らす地域へと急速に進出している」と、グローサリーアナリストでSupermarketGuru.comの創設者、フィル・レンパート氏は語る。
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アルディの拡大戦略
アルディは現在、1600店舗に50億ドル(約5580億円)の大規模投資を行ない、店舗改築および店舗数増大に取り組んでいる。広報によれば、現在、アルディは35の州に店舗を構えている。同社はまた、PB商品を武器に高級市場への進出を加速させており、オーガニック生肉・加工肉、オーガニックを含む多種多様な農産物、ビーガンおよびベジタリアン向け商品の拡充に注力しているほか、PBワインを各種取り揃え、グルテンフリーおよび調理済み食品の充実も図っている。
「10年前、アルディにはオリーブオイルが1種類しかなかったが、現在は4種類ある」と、ランパート氏は説明する。「そのうちのひとつはシシリー島のなかでもここ、という地域で生産されている最高級品種だ。私がもし、アルディのそういう商品を気に入ったとしたら? ――ほかでは手に入らないわけだから、アルディは顧客を囲い込める、というわけだ」。
PB化は、忠実な顧客を増やし、顧客を小売業者のエコシステム内に維持し、マージンを守るために有効な戦略だ。実際、Amazonやウォルマート、ターゲット(Target)といった大手もこの手法で成功を収めており、いずれも差別化要因としてPB化をよりいっそう推進している。また、持続可能な高品質の商品を求める一方、価格にも敏感という、典型的なミレニアルおよびZ世代顧客にとっても、PB化は魅力的に映ると、レンパート氏は指摘する。
いまや人気のPB商品
加えて、PB日用品に対する消費者の印象も変わりつつある。
「[スーパーマーケットの]PBといえば、店オリジナルの安い代替品と相場が決まっていたが、それはもう過去の話だ。ミレニアル世代は、超大手の多国籍メーカー品に引けを取らないPB商品を積極的に試しているし、この流れは加速している」と、リサーチ&ビジネスインテリジェンス企業、ガートナーL2(Gartner L2)のリサーチスペシャリスト、エヴァン・マック氏は語る。
リサーチ企業フレドニア・グループ(The Fredonia Group)のグローサリーアナリスト、カラ・ブロシアス氏によれば、アルディはより高所得の若い顧客層の取り込みを狙い、ニッチな食品市場にさらなる進出を見せている。同社のプレミアムPBには、アース・グロウン(Earth Grown:ベジタリアンおよびビーガン向け)、ネヴァー・エニー!(Never Any!:抗生物質、ホルモン剤、保存料未使用の加工肉)、シンプリーネイチャー(SimplyNature:オーガニックおよび非GMO)などがある。
競合他社との関係性
ただ、拡大を続けるアルディではあるが、いまだAmazonと争うには至っていない。報告書によれば、2017年度の収益は135億ドル(約1.5兆円)。これは米グローサリー市場のわずか2%に過ぎず、クローガーの同年度収益970億ドル(約108兆円)に遠く及ばない。アルディの脆弱性の原因として、マック氏はカスタマーエクスペリエンスよりも実用性を重視する商品の陳列法と、eコマースおよび宅配に対する関心の薄さを挙げる。事実、アルディのeコマース事業は、2018年9月に開始したインスタカートとの提携による宅配サービス以外にない。
さらに、eコマースの導入についても、入念な販路開拓計画に基づいてというより、取り残されることに対する不安に駆られての行動に近いと、レンパート氏は指摘する。とはいえ、上質だが手頃な価格のPB商品の数々と、大半の大型チェーン店よりも売場面積が小さい(平均2万2000平方フィート。一般的なウォルマート・スーパーセンターは17万9000平方フィート)という組み合わせには、十分な勝機があると、氏は語る。
「彼らは商品を慎重に吟味している。ワインはその好例で、価格は低いが、どれも評価は高い。また、PBだけでなく、農産物の品揃えもますます充実させている」と,レンパート氏。「[加えて]売り場面積が小さいのも利点となる。平均的な消費者が[日用品の]買い物に費やす時間は22分だからだ」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)