SNSで拡散された(米国防総省)爆発のフェイク画像、際限のない規制を求める声、あるいは大手テクノロジー企業から出される競合製品の発表など、AIは連日のようにニュースの見出しを賑わしている。
AIと自動化が未来の労働生活にもたらす創造的破壊については、以前から議論されてきた。しかし、オープンAI(OpenAI)が開発したジェネレーティブAIツールのChatGPTが2022年末に突如として主流に躍り出ると、この技術に対する人々の根深い不安、すなわち「AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないか」という恐怖に拍車がかかり、しかも悪化した。
しかし、AIをめぐるこの大騒ぎをよそに、その現実は大きく異なる。確かに、ジェネレーティブAIという魔神は完全にランプの外に出てきてしまった。もはや後戻りはできない。それは労働者同士や労使の関係、あるいは顧客との関わり方を一変させるだろう。それでも、AIのせいで、あらゆる仕事が全滅するわけではない。むしろ、AIは仕事を進化させ、場合によっては新たな雇用を生み出す可能性すら秘めている。
では、何が真実なのか。何が懸念すべき問題で、何が単なる空騒ぎなのか。そこで私たちは、人々の動揺の元凶とも言える、AIをめぐるもっとも一般的な思い込みや誤解を取り上げ、以下に反論を試みる。
思い込み1:AIは仕事を奪う
AI由来の不安は新たな高みに達しており、今後3年以内に自分の仕事がテクノロジーに取って代わられると心配する労働者はいまや3分の1にものぼる。AIの急速な進歩に加え、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)の主張するところでは、AIイノベーションの最新の波は3億人の雇用に影響を与えうるというのだから、労働者が不安がるのも当然だろう。
しかし、こうした不安は解消できると専門家たちは言う。むしろ、一部の職種ではさらなる自動化が切実に求められている。平凡で反復的で無駄に時間のかかる類いの仕事についてだ。AIを活用することで、人間の従業員の時間を解放し、たとえば、より創造的で人間の思考を必要とするほかの仕事に振り向けることができれば、企業の競争力を高めることにもつながると、専門家たちは述べている。
企業経営者が従業員の生産性向上を目的にAIの活用を奨励するのもこのためだ。実際、従業員の時間を解放して、代わりにもっと深い仕事をさせるために、有料版のChatGPT Plusの費用を負担する雇用主もいるほどだ。
AIを使えば自分の役割が不要になると心配する人々もいるが、大抵は杞憂(きゆう)だ。進歩的な経営者たちは、従業員が業務の内容を見直し、効率化を図る絶好の機会だと捉えている。
もっとも重要なのは人間とAIの調和
さらに、テクノロジー自体も準備万全とは言い難い。たとえば、米ニューヨーク州の弁護士が審理中の裁判の資料作成にChatGPTを利用したところ、ChatGPTは実在しない偽の判例をでっち上げ、それを弁護士が法廷で使用したために大問題に発展したという事件もあった。
結局のところ、もっとも重要なのは人間とAIの調和なのだ。「AIの役割は副操縦士やコンパニオンであるべきだ」と語るのは、AIを活用したアンサーエンジンを提供するルーシー(Lucy)の創設者でCOOを務めるスコット・リットマン氏だ。「ハンドルを握るのはあくまでも人間だ。AIを使わずに人間が単独で操作したり、あるいは人間を介在させずにAIが単独で操作したりすると、必ず大きな欠落が生じる。しかし、人間とAIを一緒にすれば、非常に大きな力を発揮する」。
テクノロジー人材の育成とキャリアサービスを提供するゼネラルアセンブリー(General Assembly)で、人材紹介部門の暫定責任者を務めるループ・コランジェロ氏は、「技術系の採用候補者が就職に際してAIを受け入れ、支持するさまを目の当たりにしてきた」と話す。
また、「どんなテクノロジーでもそうだが、代替されることへの恐怖は常にある。しかし、どんな技術が登場しようとも、それが自動化に貢献することはあっても、完全な置き換えは起こらない」とコランジェロ氏は続け、「AIのようなツールに取り組む人間が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の担い手として残る余地は決して小さくない」と言い添えた。同氏は、プロンプトエンジニアのほかにも、AIトレーナー、AIエシシスト(倫理学者)、マシーンマネジャーなど、AI領域で多くの新しい仕事が生まれると予想している。
SNSで拡散された(米国防総省)爆発のフェイク画像、際限のない規制を求める声、あるいは大手テクノロジー企業から出される競合製品の発表など、AIは連日のようにニュースの見出しを賑わしている。
AIと自動化が未来の労働生活にもたらす創造的破壊については、以前から議論されてきた。しかし、オープンAI(OpenAI)が開発したジェネレーティブAIツールのChatGPTが2022年末に突如として主流に躍り出ると、この技術に対する人々の根深い不安、すなわち「AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないか」という恐怖に拍車がかかり、しかも悪化した。
しかし、AIをめぐるこの大騒ぎをよそに、その現実は大きく異なる。確かに、ジェネレーティブAIという魔神は完全にランプの外に出てきてしまった。もはや後戻りはできない。それは労働者同士や労使の関係、あるいは顧客との関わり方を一変させるだろう。それでも、AIのせいで、あらゆる仕事が全滅するわけではない。むしろ、AIは仕事を進化させ、場合によっては新たな雇用を生み出す可能性すら秘めている。
Advertisement
では、何が真実なのか。何が懸念すべき問題で、何が単なる空騒ぎなのか。そこで私たちは、人々の動揺の元凶とも言える、AIをめぐるもっとも一般的な思い込みや誤解を取り上げ、以下に反論を試みる。
思い込み1:AIは仕事を奪う
AI由来の不安は新たな高みに達しており、今後3年以内に自分の仕事がテクノロジーに取って代わられると心配する労働者はいまや3分の1にものぼる。AIの急速な進歩に加え、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)の主張するところでは、AIイノベーションの最新の波は3億人の雇用に影響を与えうるというのだから、労働者が不安がるのも当然だろう。
しかし、こうした不安は解消できると専門家たちは言う。むしろ、一部の職種ではさらなる自動化が切実に求められている。平凡で反復的で無駄に時間のかかる類いの仕事についてだ。AIを活用することで、人間の従業員の時間を解放し、たとえば、より創造的で人間の思考を必要とするほかの仕事に振り向けることができれば、企業の競争力を高めることにもつながると、専門家たちは述べている。
企業経営者が従業員の生産性向上を目的にAIの活用を奨励するのもこのためだ。実際、従業員の時間を解放して、代わりにもっと深い仕事をさせるために、有料版のChatGPT Plusの費用を負担する雇用主もいるほどだ。
AIを使えば自分の役割が不要になると心配する人々もいるが、大抵は杞憂(きゆう)だ。進歩的な経営者たちは、従業員が業務の内容を見直し、効率化を図る絶好の機会だと捉えている。
もっとも重要なのは人間とAIの調和
さらに、テクノロジー自体も準備万全とは言い難い。たとえば、米ニューヨーク州の弁護士が審理中の裁判の資料作成にChatGPTを利用したところ、ChatGPTは実在しない偽の判例をでっち上げ、それを弁護士が法廷で使用したために大問題に発展したという事件もあった。
結局のところ、もっとも重要なのは人間とAIの調和なのだ。「AIの役割は副操縦士やコンパニオンであるべきだ」と語るのは、AIを活用したアンサーエンジンを提供するルーシー(Lucy)の創設者でCOOを務めるスコット・リットマン氏だ。「ハンドルを握るのはあくまでも人間だ。AIを使わずに人間が単独で操作したり、あるいは人間を介在させずにAIが単独で操作したりすると、必ず大きな欠落が生じる。しかし、人間とAIを一緒にすれば、非常に大きな力を発揮する」。
テクノロジー人材の育成とキャリアサービスを提供するゼネラルアセンブリー(General Assembly)で、人材紹介部門の暫定責任者を務めるループ・コランジェロ氏は、「技術系の採用候補者が就職に際してAIを受け入れ、支持するさまを目の当たりにしてきた」と話す。
また、「どんなテクノロジーでもそうだが、代替されることへの恐怖は常にある。しかし、どんな技術が登場しようとも、それが自動化に貢献することはあっても、完全な置き換えは起こらない」とコランジェロ氏は続け、「AIのようなツールに取り組む人間が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の担い手として残る余地は決して小さくない」と言い添えた。同氏は、プロンプトエンジニアのほかにも、AIトレーナー、AIエシシスト(倫理学者)、マシーンマネジャーなど、AI領域で多くの新しい仕事が生まれると予想している。
思い込み2:企業がAIを活用するのは、もっぱらコスト削減のため
AIを活用することで、職場のコストの一部を削減できるのは事実だ。たとえば、ルーティンワークを自動化すれば、その作業を担当していた従業員はより投資効果の高いほかの仕事に取り組むことができる。しかし、企業がAIを活用する理由は決してそれだけではない。専門家のなかには、AIを有効に活用していない企業は、完全に後れを取るだろうと考える人々もいる。
リットマン氏によると、AIの活用事例は業界や業種によって異なるという。「どんな垂直アプリケーションでも、多くの問いに直面する。たとえば、どのような影響があるか、目的は時間を節約することか、キャパシティを増やすことか、それとも待ち時間を減らすことか、あるいは顧客満足を高めることか。その答えは業種ごと、あるいは活用方法ごとに異なる」。
フォーチュン500の企業、銀行、保険会社、金融サービス向けに自動化ソリューションを提供するワークフュージョン(WorkFusion)のアダム・ファミュラロ最高経営責任者(CEO)は、「まだ比較的新興の技術であるため、ただちに導入すれば、競合優位の確立につながる」と述べている。「どんな企業も市場で競合優位性を保つ道を常に模索している」とファミュラロ氏は話し、「新しいテクノロジーを積極的に導入することは、市場で差別化を図り、効果や効率を高めるのに有効だ」と言い添えた。
思い込み3:AIと機械学習は同じもの
ここ半年ほど、AIは強烈な注目を浴びているが、専門家が「伝統的な」AI(パターン検出、意思決定、分析力の強化、データの分類、不正の検出などが中心)と呼ぶところのものは、水面下では何年も前から話題を集めてきた。実際、多くの企業が数年前から導入を始めている。AIの一形態である機械学習も同様だ。そして、伝統的なAIとジェネレーティブAI(ChatGPTやDALL-Eなど、新規のコンテンツ、チャット応答、デザイン、合成データ、ディープフェイクなどを生成するAI)がそうであるように、AIと機械学習という言葉もしばしば互換的に使われる。
これはすぐにも混乱をきたしかねない(新しいAI用語を整理するには、ワークライフ[WorkLife]のAI用語集が有用だ)。
機械学習はAIのサブセットで、予測や決定を行うことができるアルゴリズムの開発に焦点を当てるものだ。機械学習ではパターンを認識し、より効果的な意思決定を行えるように、機械を訓練することが必要となる。たとえば、ChatGPTも機械学習技術を用いて人の言葉を理解し、コンテンツを生成している。しかし、AIと機械学習は同じ意味で使われるべきではない。「AIは機械知能(マシーンインテリジェンス)という広義のカテゴリーだ」とリットマン氏は説明する。「機械学習はAIを訓練する方法のひとつである」。
思い込み4:AIはある部門だけに影響を与える
昔から、ロボットと言えば、とくに製造業や物流などのブルーカラー産業で、手作業の多い反復的な仕事を自動化するものと考えられてきた。たとえば、Amazonも巨大な倉庫で数百万点におよぶ商品を管理するのにAIを活用している。
しかし現在では、金融サービスの事務仕事を含め、多様な業界で大きな影響力を発揮しており、たとえばモルガンスタンレー(Morgan Stanley)などもオープンAIを搭載したチャットボットを導入している。一方、経営コンサルタントのPwCは、組織内のAI機能を拡大し、税務、監査、コンサルティングサービスの一部を自動化しつつ、従業員のスキルアップを図るために10億ドル(約1393億円)を投資する計画だという。
「我々の仕事で電子メールの使用が許可された当初、1日のうち特定の時間帯しか送受信できず、その後は生産性が落ちるのを嫌って使用停止になった」とファミュラロ氏は当時を振り返る。「しかし、電子メールやインターネットが我々の生活に与えた影響を考えれば、それはとてつもなく大きいと言わざるを得ない。AIも同じだ。いずれは誰もがAIを使うようになる」。
ファミュラロ氏は、AIが引き起こすディスラプション(創造的破壊)のほとんどはポジティブなものになるだろうと考えており、人間の仕事の効率化を助けるテクノロジーとして捉えるべきだと主張している。
「マーケティングを担当する人は以前よりもよい仕事ができるようになるし、法務の担当者は以前よりもすばやく法律文書を書けるようになるだろう」とファミュラロ氏は述べている。「AIを使ってより効果的な仕事をする方法は、役割や機能ごとに異なるかもしれない。しかし、その影響を受けない業界などないと思う」。
思い込み5:AIを使う企業は従業員のことを大切にしてくれない
どこかありふれた感情だが、一部の企業幹部がAIの導入計画について語るその言葉が、彼らの気持ちをさらに落ち込ませる。たとえば、IBMのCEOアーヴィンド・クリシュナ氏はブルームバーグ(Bloomberg)の取材に対して、「AIを使ってIBMの人員を大幅に削減する」とコメントしたが、これはこのテーマをめぐる人々の不安を少しも解消しない。しかし、こうした見解は普通ではなく、むしろ例外だ。ほとんどのCEOは従業員の能力向上にAIを活用する計画をごく慎重に進めている。たとえば、PwCはAIを使いこなせる人材を育成するため、従業員のスキルアップを計画しているという。
実のところ、従業員にAIの活用を奨励する企業のほうが、そうでない企業よりも従業員を大切にしていると言えなくもない。たとえば、AIを導入して、これまで従業員の予定表を埋めていた時間のかかる作業を自動化すれば、彼らは空いた時間を使ってもっと重要な仕事に取り組めるかもしれない。すべてが理想的に進むなら、従業員が日々の仕事に満足し、精神的な負担から解放されるだけでなく、将来の燃え尽きを未然に防ぐことすらできるだろう。
もちろん、雇用主が当の従業員に連日著しく高いアウトプットを要求し、さらなるストレスを与えることがなければの話ではあるが。
手短に言えば、企業はAIを活用して主に従業員の効率性と生産性を向上させ、顧客の体験を改善することに主眼を置いている。しかし、だからと言って企業が労働者を大切にしないわけではない。「新しいツールによる職場の混乱は絶えない」とリットマン氏は述べている。
思い込み6:AIは完全に客観的でありうる
たとえばChatGPTにしても、完全に客観的でない点はいくつもある。ほかのAI言語処理ツールと同様に、ChatGPTも幻覚(ハルシネーション)を起こす。これは、一見もっともらしいアウトプットを出しながら、実は不正確な答えを返す現象を言う。つまり、この種のツールを使う人間は、ファクトチェックと返された答えの検証を常に意識している必要があるということだ。
「我々が本当に重要だと考えていることのひとつは、機械が作成した回答のよりどころを示し、その回答が真実かつ正確であると私たちが確認できることだ」とリットマン氏は述べている。
AIシステムの開発に使われた学習データにバイアス(偏り)や不正確な情報が含まれていると、AIシステム自体にもバイアスが生じる。たとえば、女性求職者の履歴書を自動的に拒絶したAmazonの求人システムや、黒人カップルの写真を「ゴリラ」と表示したGoogleの写真アプリ、あるいはAI研究者のジョイ・ブォロムウィニ氏とティムニット・ゲブル氏が暴露した顔認識システムの精度における人種格差など、こうした偏りが生じた場合の影響はすでに見てきたとおりである。
これらの事例は、いかなる種類の偏見や差別も含まない、責任ある倫理的なAIの重要性を強く示唆している。「人々はジェネレーティブAIのバイアスを懸念するが、バイアスはAIにあるのではなく、基礎となるデータにあるのだ」とリットマン氏は語る。「データに偏りがあれば、回答にも自ずと偏りが出る」。
思い込み7:私の会社にAI戦略は必要ない
もし企業が未来の仕事の最先端に立ちたいのであれば、そしてまだAI戦略を策定していないのであれば最優先で取り組むべきだと、専門家たちは述べている。最近の調査によると、すでにAIを活用している企業はわずか35%で、近い将来の導入を検討している企業も42%に過ぎない。
「企業は時間をかけて自社のAI戦略と方向性を考え、テクノロジー導入の計画をしっかり策定する必要がある」と、ファミュラロ氏も述べている。
現在行われている議論の大半は、AIの誤った判断を回避するために、企業は脱線防止のガードレールを敷くべきだという点に集中している。「職場でのAI活用について、各社が方針を共有することは有益だ」とファミュラロ氏は話し、「従業員が安心してAIを活用できる環境をどのように整え、特定の作業を担う新しいテクノロジーをどのように導入するか、しっかり検討する必要がある」と続けた。
コランジェロ氏も同意見で、このDXについて熟慮することが極めて重要だと強調している。
「テクノロジー戦略に関するところ、人を最優先に考えることがとても重要だ」とコランジェロ氏は結論づける。「どんな企業であれ、AIの採用にあたっては従業員からのフィードバックに耳を傾けてほしい。そしてAIをどう活用すれば仕事の効率化に繋がるのか、従業員のリスキリングやアップスキリングに貢献できるのか、あるいはAI人材への投資をどうすべきかなどについて理解を深めてほしい。私から企業に対して言えることは、長期的な視点で考えるべきということだ」。
[原文:Here are artificial intelligence’s biggest misconceptions]
Cloey Callahan(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)