エージェンシーブランド 、以前ほど重要でなくなった理由

エージェンシー業界は統合の要望が続いており、その余波が出ている。個々のエージェンシーブランドが消えていっているのだ。

ピュブリシスでは、同社を象徴するレイザーフィッシュ(Razorfish)というブランドが、徐々に姿を消していっている。ピュブリシス・サピエント(Publicis.Sapient)のなかに入れてしまおうという計画が進んでいるのだ。広報担当者によると、クライアントが必要としていることから一部市場ではレイザーフィッシュというブランドは残る。たとえば、情報筋によると、アジアではもうレイザーフィッシュ自体がなくなっているが、ニューヨークでは、いまもサピエント・レイザーフィッシュ(Sapient.Razorfish)として存在している。

それとは少し異なるが、WPPグループにおける、デジタルエージェンシーのVMLと旧来型クリエイティブ企業Y&Rとの合併(VMLY&Rの誕生)にも、この動向が見てとれる。ふたつのエージェンシーの機能をひとつにしようというものなのだ。WPPのCEOに新たに就任したマーク・リード氏は声明で、「十分に統合されたものを提供するシンプルになった新しいWPP」を構築するための1歩だとしている。

変化する業界構造

VMLはこの合併の1年前に、eコマース中心のデジタルショップだったロックフィッシュ(Rockfish)を吸収したばかりだ。

VMLY&RのCEOになったジョン・クック氏は、クライアントからするとどちらとも言えないところがあるのだと語る。「組織がシンプルになるのは喜ばしいとする要望はクライアントから相当ある」とクック氏。「しかし、エージェンシーブランドを求めるもっともな声も相当ある。それがなかったら、新しい会社は「レーザーフロッグ」みたいな名前にしていただろう」と、同氏は語った。

それでも、クライアントの要望はブランド名、とりわけ持株会社傘下のブランド名に影響してきた。これは、持株会社自体の論拠が変化したためだ。持株会社は、表面上は規模の経済のために作られているが、さまざまなクライアントを同じ会社に囲いながら衝突の印象を避けられるという目的がいちばん大きかった。

ただ、市場が変化したことで、持株会社の特有の縦割り構造と、複数の損益計算書(P&L)とがともに疑問視されるようになってきている。また、コンサルティング企業との新しい競争がある。コンサルティング企業は、提供サービスの統合を進め、デザインからデジタル、さらにはビジネストランスフォーメーションと何でもやることで頭角を現してきている。

社名より取り組む人

しかし、この市場では、個々の「ブランド」はそんなに問題ではなくなるのかもしれない。

あるトップ持株会社の幹部――同僚たちを心配させないように公式の発言は拒否した――は、自分の経験だと、クライアントはとにかくいま以上を求めるようになっていると語った。カスタマイズされた、つまり、持株会社の全体からトップの人材を選りすぐったグループをとにかく要求し、さまざまなエージェンシーブランドを欲しがるグローバルブランドが増えるのを、この幹部は見てきた。「どこかのブランドが含まれているかどうかは気にしてない。しかし、このブリーフは、異なる3つのエージェンシーから集まったグループが、打開にあたっているとは言われたい」。

コンサルティング企業であるR3の共同創業者でプリンシパルマーケターのグレッグ・ポール氏は、株会社内の複数のグループが協力してカスタマイズしたとして提供する、「チーム」というコンセプトへの要望が高まっていると感じている。「そしていくつかの点で、広告主たちはエージェンシーの名前よりも仕事に取り組む人を気にするようになっている」とポール氏。「上級管理職はクライアントとの仕事ではなく、新しいビジネスに時間の半分をあてるという、エージェンシーの後ろ暗い秘密がある。これはある意味、それを変えようという試みだ」と、同氏は語った。

消えはじめた境界線

レイザーフィッシュのグローバルチーフテクノロジーオフィサーのレイ・ベレス氏は、レイザーフィッシュが進化の連続なのはいつものことだと語った。1994年にウェブ開発会社として設立したレイザーフィッシュは、紆余曲折を経て2003年に買収され非公開化し、SBI・レイザーフィッシュとなったが、その後、2004年にアクアンティブ(aQuantive)に買収されてアベニューA|レイザーフィッシュ(Avenue A | Razorfish)にまた名称変更。マイクロソフト傘下の2年間を経て、2009年にピュブリシスに買収された。そして2016年、ピュブリシスのサピエントニトロ(SapientNitro)と合併し、サピエント・レイザーフィッシュになった。

「ここには緊張がある」と、同社で20年のベレス氏は語る。「協力を推進し、経験やベストプラクティスは大きくしていきたいものだ」。伝統的に、広告は常にさまざまなエージェンシーブランドの縦割りのなかで動いてきたとベレス氏。ところが、クライアントの要望が変わり、とりわけ持株会社という構造のなかでは統合の必要性が高まっている。

「ブランドの境界線は消えはじめており、これを続けていく必要があるのだ」とベレス氏はいう。

際立つ独立系の強み

ポール氏は、持株グループにエージェンシー間のさらなる相乗作用を求めるクライアントが増えており、個々のエージェンシーブランドの役割が変わったと語る。「ピュブリシスは特に、過去に多大な労力をかけてたくさんのデジタル資産を買収している」と同氏。「数々の合併と買収と再編を通じて、デジタスLBi(DigitasLBi)もレイザーフィッシュもサピエントも寄せ集めのようになっている。この各ブランドが何かを象徴していくのは大変なことだ。そのようなアイデンティティと位置づけを作り出すという課題がずっとある」と語った。

特にデジタルエージェンシーだと、いまもプロジェクトベースでのみデジタルショップを雇いがちな広告主の考え方もあって、さらに難しいかもしれないとポール氏は語る。つまり、「ブランド」の重要性はさらに失われるかもしれない。

この例外として業界筋たちが語るのは、ワイデン+ケネディ(Wieden + Kennedy)やドローガ5(Droga5)のような独立系のところで、両社とも、限りない成長が続いている。「我々が見る限り、独立系のブランドのほうが持株会社系のブランドよりも競争的で貪欲だ」とポール氏。「こうしたエージェンシーは、ポジショニングが明確で、野心的な姿勢が共感を呼び続ける」と、同氏は語った。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)